気ままなマイカーやスピード感のある飛行機など、旅の移動手段はいくつもある。そのなかで特に旅情を誘うのが、列車の旅ではないだろうか。

オーストラリアのキュランダ高原列車は、誰もが一度は目にしたことがあるだろう長寿番組『世界の車窓から』(テレビ朝日系)のオープニングを10年間も飾ったことで有名。レトロな車両と自然の絶景のコントラストが絶妙で、まさに元祖インスタ映えする旅なのだ。

オーストラリア北部の熱帯雨林を縫って走る歴史ある列車



今回のキュランダ高原列車の出発点は、キュランダ。

到着点はオーストラリア北部の町、ケアンズ。グレートバリアリーフの玄関口やアイランドリゾートの起点として、日本人にも人気のリゾート地だ。そのため海のイメージが強いが、うっそうとした熱帯雨林のジャングルが間近に控えている。

キュランダ高原列車の開業は1891年と歴史は古く、国内外の旅人に今も愛され続けている。 33kmの距離を約1時間45分かけてのんびりと走るため、慌ただしい毎日を過ごす人にとってはそれだけで癒されそう。国立公園に指定されている峡谷を縫って走り、途中では雄大なバロン滝を眺めるために列車が停車するサービスもある。列車に乗るだけでワクワクする冒険感を満喫できるのも人気の秘密だ。

1世紀を経て進化し続ける



レトロな車両やかわいい駅舎など、キュランダ高原列車はビジュアルもかなり高得点。普通車両でも十分にその雰囲気を満喫できる。だが、2006年から新たに導入された“KSRゴールドクラス”は、本物を知る大人に人気が高いそう。まず、深みのあるグリーンの外観や、各所にベルベットを用いたビクトリア調の内装など、車両そのものが特別仕様になっている。

車内には専用のアテンダントがおり、列車の歴史や窓から見える景色にまつわる逸話などを披露してくれるほか、乗車中のケアもしてくれるのだという。軽食や冷えたビールやスパークリングワインなども用意されているそうなので、大人のリラックスした旅にうってつけだ。

キュランダ駅を降りると世界遺産のジャングルが!


“キュランダ”とは先住民の言葉で、熱帯雨林にある町という意味。片道約2時間の旅の出発点、キュランダ駅は世界遺産に登録される熱帯雨林の中にある。映画『アバター』で描かれた森も、ここをモデルにしているというからいかに緑深い森かわかるだろう。太古の大自然が息づきながら、一方で豊かな文化も育まれているのがキュランダの懐の深いところ。温かな気候と自然のパワーに魅せられ、1960年代頃からはヒッピーやアーティストがこぞって集った。今も流れる肩のこらないゆるやかな空気が、多くのツーリストを引き寄せている。

キュランダはわずか人口700人程度の小さな村だが、遊ぶ場所には苦労しない。アーティスト手作りの作品やオーガニックな品々などを買えるマーケットは、お土産探しにオススメ。探検好きなら、熱帯雨林の中を散策するのもいい。整備された遊歩道なので初心者も安心にトレッキングできるだろう。オーストラリアのシンボル、コアラを抱っこできる動物園や、見たものは幸せになれると言い伝えられる青い蝶“ユリシス”が見られるバタフライサンクチュアリなど、生き物好きにたまらない場所も点在する。だがもしも、やりたいことが見つからなかったら、無理に見つける必要はない。そこにただぼんやりと居るだけで、十分に心が満たされるはずだから……。いつ誰と行っても、きっと楽しめる何かが待っているに違いない。

Writer:橘川有子
(提供:ヨムミル!Online)