初挑戦を前に「怖いが9.9、楽しみが0.1」――“嘘がつけない男”城田 優のリアルな本音。
このインタビューの写真同様、この男、光の当たる角度により、見る者にまったく異なる印象を与える。演劇界において城田 優は『エリザベート』、『ロミオ&ジュリエット』などの名作で輝きを放つミュージカル俳優である。一方、『ROOKIES』や『SPEC』(ともにTBS系)などの映像作品の彼しか知らず、「え? 城田 優って歌えるの?」と思う人も多いだろう。そんな彼が2017年、映像でもミュージカルでもない、初の本格ストレートプレイ『令嬢ジュリー』でまたひとつ新たな世界の扉を開く。「難しい!」「キツい」「後悔してます(苦笑)」と弱気な発言を連発しつつ、その目はキラキラ…いや、ギラギラと強い光を宿している。
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
――舞台『令嬢ジュリー』の幕開けまで(この取材の時点で)1カ月とちょっとですが(※取材が行われたのは1月下旬)、ここまで稽古を重ねてきていかがですか?
とにかく懸命に頑張っています。右も左もわからない1年生ですが…(苦笑)。
――これまで数多くのミュージカルに出演されていますが、“1年生”と自らおっしゃるほど、歌唱なしのストレートプレイは違うものですか?
まったくの別物だなと感じてますね。僕がこれまでやってきたミュージカルには歌があって、感情がMAXに達したところで歌が始まったり、物語や感情に合わせて音楽があるのが当たり前でした。今回のように、言葉だけのやりとりで紡いでいくのはほぼ初めての経験で、しかも登場人物は3人。濃さが違いますね。
――本作はスウェーデンの劇作家・ストリンドベリによる戯曲ですね。伯爵令嬢のジュリー(小野ゆり子)と屋敷で働く下男のジャン(城田)、その婚約者である料理女のクリスティン(伊勢佳世)の愛憎や欲望が絡みあう、祭の一夜を描いていますが…。
正直、よくわかんないですよね?(笑) 僕も、あまりの難解さに「うわぁ…」って言いながら、1行ずつ、演出の小川絵梨子さんの助けも借りて読み解いて…。何とか昨日、今日くらいで、ようやくキャラクターの芯がつながってきたのかな? という感じです。
――現時点で、この物語の魅力はどのような部分だと?
人間の深い心理ですかね。少なくとも周りの友達には「いつものミュージカルみたいなつもりで見に来ても、全然違うから」とは言ってあります(笑)。会話が進むにつれて明らかになっていく彼らの心理、関係性を耳で、目で、肌で感じてほしいですね。
――物語が進むにつれて、パーッと霧が晴れるようにハッキリと何かが見えるというのでもなく、どこかモヤモヤと…(笑)。
いろんな感情がグチャグチャになって、色を混ぜすぎて何色かわかんなくなった絵の具みたい(苦笑)。「なんだこれ? この気持ち、どこにぶつけたらいいんだ?」って。スッキリとハッピーエンドになると思えないし、かと言ってバッドエンドなのかもわかんない。消化しきれない想いを持ち帰って、各自で好きに料理していただければ(笑)。
――戯曲が書かれたのは、100年以上前の1888年。日本では大正時代にストリンドベリの戯曲が翻訳され、流行したこともあるそうです。
そうなんですか!? いや、それこそ当時、彼が作品に込めたメッセージ性や中身とは違ってくる部分はあると思います。時代も人種も文化も価値観も違うので、彼の意図を100%汲み取って表現するのは、100%不可能だと思います。そこは小川さんと一緒に、僕らなりに解釈していくしかないですね。
――その一方で、当時と変わらない愛憎や人間のおかしみなど、普遍性をもって、21世紀の我々にも訴えかけるものがあるとも思います。
男と女の関係性、駆け引きや上下関係が変わっていくさま、その面白さはどこの国、時代であっても普遍的ですね。お世辞にも「わかりやすくて面白いです!」とは言えない(苦笑)。でも、絶対に見て損のない、お金には代えられない価値のある時間にする自信はあります!
――今回の作品は、同じくストリンドベリの戯曲『死の舞踏』と2本立てで、会場はシアターコクーン(東京)ですが、通常とは異なる仕様で、劇場内にふたつの小劇場を特設。昼と夜で交互に2作品を上演するという、一風変わった試みも話題です。
初めてのストレートプレイが、こんなレアな形で…。しかも、シアターコクーンはおそらく、僕が観客としていままで一番足を運んだ劇場だと思います。「いつかあの舞台に立ってみたい」と思ってましたが、舞台どころか客席の上に作られたステージの上に立つことになるとは…(笑)。
――改めて、初めての本格的なストレートプレイへの出演を前にしての心境は?
まったくの未知数ですね。正直、「怖い」が「9.9」、「楽しみ」が「0.1」(苦笑)。
――何が怖いですか?
全部です。いまは「あと1カ月ある!」し、「もう1カ月しか残ってない!」という感覚が日替わりで襲ってきてます(笑)。「ここまで来た!」と「まだこんなにある」もかな…。変な精神状態です。きついっす! 誰か代わってほしい!! っていう悪夢を見るんですよ…。
――どんな悪夢ですか?
キャストやスタッフのみなさんがいる前で、僕が「何十億でも払うから降板させて!」って泣き叫んでるの。そんな財力ないですけど(笑)。まあ、それくらいのプレッシャーを感じてはいるんですけど、逆に言えばレベルアップのチャンスなんだなとも思います。
――やっと、ご自身に関してポジティブな言葉が出てまいりました(笑)。
倒すのが難しい敵ほど、倒せたときにRPGで言うところの経験値がアップするんでね。僕はいつも山にたとえるんですけど、高い山ほど登るのに時間もかかるし、ハードだし、ケガの危険もあって苦しいけど、頂上から見える景色は美しいんですよね。
――いまはまだ山腹で、上を見上げても頂上は雲がかかって見えないかもしれませんが…。
千秋楽を迎えたときに「やりきった! 感無量です」と言いたい。そこで笑顔を見せるのか? 涙なのか…?(笑) 小川さんは「リングを作ったつもり」とおっしゃってたので、1日1日、戦って、戦って、枯れ果てて…灰になるつもりで!
――たびたび演出の小川絵梨子さんの名前が出てきますが、初めてご一緒に仕事をされてみて、いかがですか?
現時点で「この仕事に関わってよかった!」と心の底から言えるのは、小川さんの演出を日々、受けられていることですね。嘘がつけない性格なので正直に言わせてもらうと、今回のお話をいただいて、最初はまったく魅力的だと思えなかったんですけど、小川さんが演出だと聞いて「やろう」と決めたくらいですから。
――過去の作品などで、それほどまでに小川さんの演出作品に魅力を感じられたんですね?
まさに今回の作品と重なると思うんですけど、わけがわかんないのにわかるんですよ。最近だと『コペンハーゲン』を拝見して、あの舞台上で交わされる科学者たちの専門用語は、外国語のように意味がわかんないんです。なのに、何を伝えたいのかが見えるし、気づいたら彼らの関係性や優位性の変化、心理・感情が胸にスーッと入ってくる。
――登場人物たちの関係性や上下関係の変化は、本作でも見られる部分ですね?
そう、しかも僕が演じるジャンが大きく変わる…言ってみれば、僕次第なんですよ! 本当に難しいですよ。こうやって話してても胃が痛くなりそう(苦笑)。
――実際に稽古場で演出を受けてみて…。
いままでデビューして十数年、いろんな作品をやってきたけど、ここまでひとりの役を深く掘り下げていく経験は初めてです。いままでの自分を否定するようですが、こんなに深く潜ったことはなかったですね。感情の引き出し、表現の仕方…とにかく新しい経験をさせていただいて。いまの段階でも確実に“新しい城田 優”が見えています。
――ミュージカルとは違う、ストレートプレイの魅力にとり憑かれそうですか?
いや、それは…また正直に言わせてもらいますと、現時点で「二度とやるまい」って側に傾いてますね(笑)。
――あっさりと…(笑)。
基本、弱い人間なので。まあ、他の仕事でもそう思うんですけどね。こういうお芝居を年に何本もやっている、俳優さんのメンタルのすさまじさは実感してます。で、ことごとく「俺には向いてないぞ」と(笑)。朝起きて、苦しいですもん。これが最後かもしれないので、そういう意味でもぜひ、みなさんに見ていただきたいです。
――城田さんご自身のキャリアについてもお話を伺ってまいりますが、そもそもなぜ、これまでミュージカル以外の舞台作品には出演されなかったんでしょう?
僕は歌こそ自分の“武器”だと思ってるし、音楽が好きなんですよね。だから、舞台という形式で人前で演技をするうえで、せっかくならばとミュージカルを選んできました。
――ストレートプレイについてはどのような思いを?
「いつか」という思いはありました。やるなら「心の底からやりたい」と思える作品と出会えたら、という気持ちでしたね。“初めて”を大切にしたかったし、そこでやってみて見えてくるものがあるはずだと。
――先ほど、本作との出会いについて「最初はまったく魅力的だと思えなかった」と…(笑)。
いや、結果的にこうなったというか、なかなか仕事って自分の意志通りにはいかない部分も多いので(苦笑)。ただ、最終的に「やる」と決断したのは自分なので、そこに悔いはないですね。いや…嘘です(笑)。「やらなきゃよかったかなぁ…」って思う日々だな。でも、これを選んで、挑戦してる自分が誇らしいです。
――30代を迎え、年齢的なことが決断に影響を及ぼした部分は?
ありますね。いま、31歳ですが、30代になって、これまでやってこなかったこと、避けてきたことをやっていこうって気持ちは強くなったと思います。ちょうど、今年の自分の抱負が「挑戦・追求」ですし。
――17歳のデビュー作もミュージカル『美少女戦士セーラームーン』でしたし、その後も『テニスの王子様』を経て、『スウィーニー・トッド』『エリザベート』『ファントム』とキャリアを重ね、ミュージカル界での確固たる地位を確立しました。一方で、ドラマや映画で城田さんを見ている人にとっては…。
いまだに、僕が歌を歌うと聞いて「えー?」と驚く人もいますね。逆に、「え? ミュージカル以外もやってるの? 最近はテレビとか出てないんじゃ?」と言う人もいますし。
――『ROOKIES』や『SPEC』を城田さんの代表作に挙げる人と、『ロミオとジュリエット』や『ファントム』を挙げる人では、城田さんのイメージは全然異なるでしょうね。テレビ、映画、ミュージカル、そして今回のストレートプレイといった仕事のバランス、将来へのビジョンは若い頃から考えていましたか?
いや、まったくなかったですね。仕事はその時々の巡り合わせだと思ってるし、先ほどもお話した今回の出演の決断もそうですが、やりたいと思ってその通りにできることのほうが少ないですから。
――いただいた仕事をやっていくという意識?
漠然と「こんなことやりたい」と思っても、具体的な道筋のイメージはなかったし、「30歳になったらこうして…」とかも考えてなかった。ようやく最近、自分で企画して、やりたいことを自分発信で目指せるようになってきたかな。少しずつですね。
――先ほど、「歌が武器」とおっしゃってましたが、その自覚はすでに若い頃からお持ちだったんですか?
歌が上手いかどうかって、芝居よりもボーダーがハッキリしてるんですよ。音がきちんと取れているか? テンポが間違っていないか?
――なるほど。
そういう意味で、芝居よりも歌に自信があったのは確かです。100人に聴かせて、95人に「歌が上手い」と言ってもらえる。それはふんぞり返って「俺、上手いだろ!」って意味じゃなく、「僕は背が高い」「僕は半分スペイン人です」というのと同じ。わりと客観的な事実として、「僕は歌が上手い」と。
――その一方で、芝居に関しては…。
わかんないですね、芝居は。見る人の好みや主観も大きいし、少なくとも僕は「芝居が上手いから俳優やってます」って、自負を持って言えない。歌はある程度の「正しいもの」があるけど、芝居はそうじゃないから、歌以上に悩むし、いつも「これでいいのかな?」って。
――でも好きなんですよね?
それはもう、大好きです! でも難しい(笑)。芝居って、バカにならないとできないですから。ここにないものをあるふりをしたり、実際には誰も死んでないのに「なんで死んだ!」って涙を流す。上手いとか下手とかじゃなく、芝居は永遠に「難しい」ですね。
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
あまりの難解さに困惑…1行ずつ読み解く日々
――舞台『令嬢ジュリー』の幕開けまで(この取材の時点で)1カ月とちょっとですが(※取材が行われたのは1月下旬)、ここまで稽古を重ねてきていかがですか?
とにかく懸命に頑張っています。右も左もわからない1年生ですが…(苦笑)。
――これまで数多くのミュージカルに出演されていますが、“1年生”と自らおっしゃるほど、歌唱なしのストレートプレイは違うものですか?
まったくの別物だなと感じてますね。僕がこれまでやってきたミュージカルには歌があって、感情がMAXに達したところで歌が始まったり、物語や感情に合わせて音楽があるのが当たり前でした。今回のように、言葉だけのやりとりで紡いでいくのはほぼ初めての経験で、しかも登場人物は3人。濃さが違いますね。
――本作はスウェーデンの劇作家・ストリンドベリによる戯曲ですね。伯爵令嬢のジュリー(小野ゆり子)と屋敷で働く下男のジャン(城田)、その婚約者である料理女のクリスティン(伊勢佳世)の愛憎や欲望が絡みあう、祭の一夜を描いていますが…。
正直、よくわかんないですよね?(笑) 僕も、あまりの難解さに「うわぁ…」って言いながら、1行ずつ、演出の小川絵梨子さんの助けも借りて読み解いて…。何とか昨日、今日くらいで、ようやくキャラクターの芯がつながってきたのかな? という感じです。
――現時点で、この物語の魅力はどのような部分だと?
人間の深い心理ですかね。少なくとも周りの友達には「いつものミュージカルみたいなつもりで見に来ても、全然違うから」とは言ってあります(笑)。会話が進むにつれて明らかになっていく彼らの心理、関係性を耳で、目で、肌で感じてほしいですね。
――物語が進むにつれて、パーッと霧が晴れるようにハッキリと何かが見えるというのでもなく、どこかモヤモヤと…(笑)。
いろんな感情がグチャグチャになって、色を混ぜすぎて何色かわかんなくなった絵の具みたい(苦笑)。「なんだこれ? この気持ち、どこにぶつけたらいいんだ?」って。スッキリとハッピーエンドになると思えないし、かと言ってバッドエンドなのかもわかんない。消化しきれない想いを持ち帰って、各自で好きに料理していただければ(笑)。
――戯曲が書かれたのは、100年以上前の1888年。日本では大正時代にストリンドベリの戯曲が翻訳され、流行したこともあるそうです。
そうなんですか!? いや、それこそ当時、彼が作品に込めたメッセージ性や中身とは違ってくる部分はあると思います。時代も人種も文化も価値観も違うので、彼の意図を100%汲み取って表現するのは、100%不可能だと思います。そこは小川さんと一緒に、僕らなりに解釈していくしかないですね。
――その一方で、当時と変わらない愛憎や人間のおかしみなど、普遍性をもって、21世紀の我々にも訴えかけるものがあるとも思います。
男と女の関係性、駆け引きや上下関係が変わっていくさま、その面白さはどこの国、時代であっても普遍的ですね。お世辞にも「わかりやすくて面白いです!」とは言えない(苦笑)。でも、絶対に見て損のない、お金には代えられない価値のある時間にする自信はあります!
――今回の作品は、同じくストリンドベリの戯曲『死の舞踏』と2本立てで、会場はシアターコクーン(東京)ですが、通常とは異なる仕様で、劇場内にふたつの小劇場を特設。昼と夜で交互に2作品を上演するという、一風変わった試みも話題です。
初めてのストレートプレイが、こんなレアな形で…。しかも、シアターコクーンはおそらく、僕が観客としていままで一番足を運んだ劇場だと思います。「いつかあの舞台に立ってみたい」と思ってましたが、舞台どころか客席の上に作られたステージの上に立つことになるとは…(笑)。
「険しくて高い山ほど、頂上からの景色は美しい」
――改めて、初めての本格的なストレートプレイへの出演を前にしての心境は?
まったくの未知数ですね。正直、「怖い」が「9.9」、「楽しみ」が「0.1」(苦笑)。
――何が怖いですか?
全部です。いまは「あと1カ月ある!」し、「もう1カ月しか残ってない!」という感覚が日替わりで襲ってきてます(笑)。「ここまで来た!」と「まだこんなにある」もかな…。変な精神状態です。きついっす! 誰か代わってほしい!! っていう悪夢を見るんですよ…。
――どんな悪夢ですか?
キャストやスタッフのみなさんがいる前で、僕が「何十億でも払うから降板させて!」って泣き叫んでるの。そんな財力ないですけど(笑)。まあ、それくらいのプレッシャーを感じてはいるんですけど、逆に言えばレベルアップのチャンスなんだなとも思います。
――やっと、ご自身に関してポジティブな言葉が出てまいりました(笑)。
倒すのが難しい敵ほど、倒せたときにRPGで言うところの経験値がアップするんでね。僕はいつも山にたとえるんですけど、高い山ほど登るのに時間もかかるし、ハードだし、ケガの危険もあって苦しいけど、頂上から見える景色は美しいんですよね。
――いまはまだ山腹で、上を見上げても頂上は雲がかかって見えないかもしれませんが…。
千秋楽を迎えたときに「やりきった! 感無量です」と言いたい。そこで笑顔を見せるのか? 涙なのか…?(笑) 小川さんは「リングを作ったつもり」とおっしゃってたので、1日1日、戦って、戦って、枯れ果てて…灰になるつもりで!
――たびたび演出の小川絵梨子さんの名前が出てきますが、初めてご一緒に仕事をされてみて、いかがですか?
現時点で「この仕事に関わってよかった!」と心の底から言えるのは、小川さんの演出を日々、受けられていることですね。嘘がつけない性格なので正直に言わせてもらうと、今回のお話をいただいて、最初はまったく魅力的だと思えなかったんですけど、小川さんが演出だと聞いて「やろう」と決めたくらいですから。
――過去の作品などで、それほどまでに小川さんの演出作品に魅力を感じられたんですね?
まさに今回の作品と重なると思うんですけど、わけがわかんないのにわかるんですよ。最近だと『コペンハーゲン』を拝見して、あの舞台上で交わされる科学者たちの専門用語は、外国語のように意味がわかんないんです。なのに、何を伝えたいのかが見えるし、気づいたら彼らの関係性や優位性の変化、心理・感情が胸にスーッと入ってくる。
――登場人物たちの関係性や上下関係の変化は、本作でも見られる部分ですね?
そう、しかも僕が演じるジャンが大きく変わる…言ってみれば、僕次第なんですよ! 本当に難しいですよ。こうやって話してても胃が痛くなりそう(苦笑)。
――実際に稽古場で演出を受けてみて…。
いままでデビューして十数年、いろんな作品をやってきたけど、ここまでひとりの役を深く掘り下げていく経験は初めてです。いままでの自分を否定するようですが、こんなに深く潜ったことはなかったですね。感情の引き出し、表現の仕方…とにかく新しい経験をさせていただいて。いまの段階でも確実に“新しい城田 優”が見えています。
――ミュージカルとは違う、ストレートプレイの魅力にとり憑かれそうですか?
いや、それは…また正直に言わせてもらいますと、現時点で「二度とやるまい」って側に傾いてますね(笑)。
――あっさりと…(笑)。
基本、弱い人間なので。まあ、他の仕事でもそう思うんですけどね。こういうお芝居を年に何本もやっている、俳優さんのメンタルのすさまじさは実感してます。で、ことごとく「俺には向いてないぞ」と(笑)。朝起きて、苦しいですもん。これが最後かもしれないので、そういう意味でもぜひ、みなさんに見ていただきたいです。
「歌が上手」は「背が高い」と同じ、武器の1つ
――城田さんご自身のキャリアについてもお話を伺ってまいりますが、そもそもなぜ、これまでミュージカル以外の舞台作品には出演されなかったんでしょう?
僕は歌こそ自分の“武器”だと思ってるし、音楽が好きなんですよね。だから、舞台という形式で人前で演技をするうえで、せっかくならばとミュージカルを選んできました。
――ストレートプレイについてはどのような思いを?
「いつか」という思いはありました。やるなら「心の底からやりたい」と思える作品と出会えたら、という気持ちでしたね。“初めて”を大切にしたかったし、そこでやってみて見えてくるものがあるはずだと。
――先ほど、本作との出会いについて「最初はまったく魅力的だと思えなかった」と…(笑)。
いや、結果的にこうなったというか、なかなか仕事って自分の意志通りにはいかない部分も多いので(苦笑)。ただ、最終的に「やる」と決断したのは自分なので、そこに悔いはないですね。いや…嘘です(笑)。「やらなきゃよかったかなぁ…」って思う日々だな。でも、これを選んで、挑戦してる自分が誇らしいです。
――30代を迎え、年齢的なことが決断に影響を及ぼした部分は?
ありますね。いま、31歳ですが、30代になって、これまでやってこなかったこと、避けてきたことをやっていこうって気持ちは強くなったと思います。ちょうど、今年の自分の抱負が「挑戦・追求」ですし。
――17歳のデビュー作もミュージカル『美少女戦士セーラームーン』でしたし、その後も『テニスの王子様』を経て、『スウィーニー・トッド』『エリザベート』『ファントム』とキャリアを重ね、ミュージカル界での確固たる地位を確立しました。一方で、ドラマや映画で城田さんを見ている人にとっては…。
いまだに、僕が歌を歌うと聞いて「えー?」と驚く人もいますね。逆に、「え? ミュージカル以外もやってるの? 最近はテレビとか出てないんじゃ?」と言う人もいますし。
――『ROOKIES』や『SPEC』を城田さんの代表作に挙げる人と、『ロミオとジュリエット』や『ファントム』を挙げる人では、城田さんのイメージは全然異なるでしょうね。テレビ、映画、ミュージカル、そして今回のストレートプレイといった仕事のバランス、将来へのビジョンは若い頃から考えていましたか?
いや、まったくなかったですね。仕事はその時々の巡り合わせだと思ってるし、先ほどもお話した今回の出演の決断もそうですが、やりたいと思ってその通りにできることのほうが少ないですから。
――いただいた仕事をやっていくという意識?
漠然と「こんなことやりたい」と思っても、具体的な道筋のイメージはなかったし、「30歳になったらこうして…」とかも考えてなかった。ようやく最近、自分で企画して、やりたいことを自分発信で目指せるようになってきたかな。少しずつですね。
――先ほど、「歌が武器」とおっしゃってましたが、その自覚はすでに若い頃からお持ちだったんですか?
歌が上手いかどうかって、芝居よりもボーダーがハッキリしてるんですよ。音がきちんと取れているか? テンポが間違っていないか?
――なるほど。
そういう意味で、芝居よりも歌に自信があったのは確かです。100人に聴かせて、95人に「歌が上手い」と言ってもらえる。それはふんぞり返って「俺、上手いだろ!」って意味じゃなく、「僕は背が高い」「僕は半分スペイン人です」というのと同じ。わりと客観的な事実として、「僕は歌が上手い」と。
――その一方で、芝居に関しては…。
わかんないですね、芝居は。見る人の好みや主観も大きいし、少なくとも僕は「芝居が上手いから俳優やってます」って、自負を持って言えない。歌はある程度の「正しいもの」があるけど、芝居はそうじゃないから、歌以上に悩むし、いつも「これでいいのかな?」って。
――でも好きなんですよね?
それはもう、大好きです! でも難しい(笑)。芝居って、バカにならないとできないですから。ここにないものをあるふりをしたり、実際には誰も死んでないのに「なんで死んだ!」って涙を流す。上手いとか下手とかじゃなく、芝居は永遠に「難しい」ですね。