女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです。

今回、お話を伺ったのは、現在フリーランスのプランナー・新田秀美さん(仮名・38歳)。中堅大学のアート系の学部を卒業してから、新卒で学術系出版社に勤務します。しかしあまりの薄給のために制作会社に転職。その後、10年以上務めた会社を1年前に辞めてから苦しい生活を余儀なくされています。

170cm近くある大柄な体型にボブヘア、銀縁のメガネをかけていて真面目な印象です。取材時はワイン色のニットワンピースに、デニムをはき、底がすり減ったグレーのシープスキンのブーツを合わせていました。テーブルの上に置かれた手がふっくらしていて白く、スベスベしていたのが印象的でした。

現在の収入は手取りで月10万円。友人が経営する動画制作会社で企画職をしているそうです。腸炎や膀胱炎などを頻発するので、正社員として働くのは厳しいとのこと。

「10万円では、今住んでいる東京都渋谷区笹塚のマンションの家賃にしかなりません。たぶん、派遣会社に登録したほうが、社会保障もあって働けるんでしょうけれど、プライドが許さないんですよね。だって新卒の時からクリエイターとして、外部スタッフを使って、中心的人物になってチームを指揮してきたから、今さら社会の歯車の1つになって働くのはムリ。一時期、働かないとヤバいかな……と思った時に、派遣会社に連絡したんですけど、面接は説明会に参加してからと言われ、今さら無理だと思ってあきらめました」

今の仕事の内容は、週3で出勤して、1日あたり実際に働く時間は3時間程度。

「スタートしたばかりの、女のコのためのサイトを制作している会社です。友人というか、元彼が代表をしています。いろいろやることはありますよ。昼くらいに渋谷にある事務所に顔を出して、紹介する情報や商品について話し合って、現場のスタッフに指示するというのが仕事内容です。ヒマな人だと思われたくないので、忙しいふりをしていますが、もう限界かもしれない」

秀美さんは現在、200万円分のクレジットカードの返済が残っている

「前の会社にいたころに、経費はなんでも個人カードで切って、ポイントを貯めていたんですよ。もう辞めて1年以上経つのに、その癖が抜けなくて、退職金の50万円も返済に消えました。私の場合、生活レベルを落とすことができない。だから月40万円くらいは稼がなくちゃいけないんですけれど、私にふさわしい仕事がないんです」

前の会社についてですが、30代で手取りの給料が40万円というのは、そこそこ好待遇。退職した理由について伺いました。

「勤め続ける熱意がなくなったからです。“もういいや”と思ってしまったんですよね。大手の広告代理店の子会社の制作会社です。年収は680万円くらいなので、それほど待遇がいいわけではありませんよ。でも、経費がほとんどザルで、自由になるお金のことを考えると、年収は1000万円以上の人と同じ感覚で生活していたかも。だって自腹を切る出費は、家賃と化粧品くらい。洋服、靴、アクセサリーを買っても“衣装代”として請求すれば通りましたし、家でケータリングのフードを頼んだときも会社に払わせていました。先輩の中には、切手や新幹線チケットを転売している人もいました。さすがに私はやりませんでしたが」

自分のお金じゃないから、バンバン使うという感覚が抜けなかったと言います。前の会社を辞めた原因を教えてください。

「部署異動です。全く畑違いの営業に行くことになりました。毎日スーツ着て、9時に出社し、19時くらいまで働く。行動はグループウエアで管理されて、会議が毎日のようにあって、仕事は報告・連絡・相談がマスト。仕事を前に進めるために、いちいち上役に相談しなくてはならず、息が詰まる思いでした」

それまでは、自由出社、自由退社だったと言います。お昼くらいに出社して、深夜まで働く。土日も仕事になることもありましたが、仕事は楽しかったと言います。

「自分のスケジュール管理をされるようになって、一気に10kgくらい太って、腸炎や膀胱炎などを頻発するようになりました。会社に思うように行けなくなり、行ってもやる気が出なくて、上司も周囲の人も、何となく私を避けているように感じて。思い切って退職することにしました」

秀美さんは辛いことがあると、ベッドに潜り込んでお酒を飲む。それで心が落ち着く。退職後は何日も家に籠って飲み続けたとか。

退職後に待っていたのは生活苦だった……収入が絶たれたアラフォー女子の選択とは?〜その2〜に続きます