回送線を走る“特別な新幹線”に乗って、大井車両基地を見学(2015年8月29日、恵 知仁撮影)。

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東海道新幹線から見えない東海道新幹線の車庫へ向かって、特別列車が運転されました。その名も回送1723号。道中にはたくさんの珍しい出来事がありました。

東京にある“見えない車両基地”

 東海道新幹線の車両基地は複数あり、その車窓からも見ることができます。東京にもありますが、それを車窓から見たことのある人は、非常に少ないでしょう。東京の車両基地は、「のぞみ」や「ひかり」「こだま」が走る線路からは遠い地点にあるためです。

 その場所は東京都品川区八潮。東京モノレールの大井競馬場前駅に近い湾岸エリアにあり、「大井車両基地」と呼ばれています。

 2015年8月29日(土)、車窓から見えず、行くこともできないその大井車両基地へ、特別列車が走りました。JR東海が親子向けに「東海道新幹線のおしごとを学ぼう」というツアーを実施。普段は乗れない回送線を通って大井車両基地へ向かい、その内部や新幹線のお医者さん「ドクターイエロー」を見学しよう、というものです。

 JR東海によると、大井車両基地へ向かうこうした企画は今年で2回目とのこと。昨2014年、東海道新幹線の開業50周年を記念し初めて行ったところ好評で、今年も実施したといいます。

 この大井車両基地へ向かう特別な新幹線、その車内からはどんなものが見えるのでしょうか。実際に乗車してきました。

この列車は回送1723号、大井車両基地行きです

 東京駅から大井車両基地行きの特別新幹線に乗車して、まず驚いたのは、車内で次の内容が繰り返し放送されていたことです。

「ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! この電車は回送列車です。ご乗車いただけません。間違えてご乗車されているお客さまは、進行方向前寄りの運転室までお越しください」

 終点へ着いたのに降りそびれてしまった人のために、繰り返しこの案内放送が流れていました。この放送を聞いたことのある人も、少ないのではないでしょうか。

 そしてなぜこの放送が流れていたかというと、車掌さんによる放送に答えがあります。

「この列車は回送1723号、大井車両基地行きです」

 大井車両基地への回送線を行く特別新幹線は「回送」扱いでの運転で、東京駅の発車案内表示も「回送」。そのためツアー参加者は、“合法的に回送列車へ乗り込む”という貴重な体験もしたことになります。

 動き出す前から珍しい体験ばかりの、大井車両基地行き回送1723号。いよいよ東京駅を発車しました。

田町駅を過ぎ、いつもとは違う方向へ

「東京駅から大井車両基地までの距離は10.5km。約11分ほどで到着いたします」

 特別な新幹線をより楽しんで貰おうと、車掌さんによる案内放送が随時行われました。

「列車はしばらく『のぞみ号』や『ひかり号』、『こだま号』と同じ線路を走ります。この区間はカーブが多いため、新幹線でも速度は出せません。並んで走っている東海道線や山手線に追い抜かれることもあります」

 乗車している親子たちから笑い声が聞こえてきました。

「まもなく、車両基地へ向かう回送線に入ります。この先の田町駅を過ぎると、左に大きくカーブをして大井回送線に入ります」

 ほどなく、ポイント(分岐器)を通過する音と感触が伝わってきました。

「ただいま、大井回送線に入りました。いま右側に広がっているのは、JR東日本の車両基地です」

 JR東日本の車両基地は通常の東海道新幹線からも見えますが、回送線からはこのように上から見渡す形で眺められました。

話題になった現在不使用の線路が出現

 回送線に入ると、すぐ左側に並行して走る線路が現れました。

「左側の線路は、貨物列車が通る線路です。いまは使われておりません。2025年にはこの貨物線を使用して、東京から羽田空港間を開通させるといったこともテレビで話題になりました」

 この貨物線は浜松町駅から大井車両基地の隣にある東京貨物ターミナル駅を経由し、南武・鶴見線の浜川崎駅へ至ります。途中、羽田空港付近を通るため、この貨物線から羽田空港への新線を建設すると共に、この貨物線を活用。羽田空港と東京駅、新宿駅、新木場駅方面を直結しようという構想をJR東日本が2014年に発表し、注目を浴びました。

新幹線からお台場の“球”を見る

「まもなく首都高速道路や東京モノレールの上を通過いたしますと、左側にレインボーブリッジが見えてまいります」

 レインボーブリッジは、「のぞみ」などが走る東海道新幹線の“本線”からも見えなくはありませんが、見えなくはない、という具合です。しかし回送線からは、バッチリです。

「レインボーブリッジの右側は、お台場海浜公園です。フジテレビも見えます。どうぞお楽しみください」

 丸い物体が見えました。

「この電車の進行方向には、羽田空港があります。普段は飛び立つ飛行機が見えますが、今日はあいにくの雨模様。残念ながら見えないかと思われます」

 見えませんでした。

揺れることが嬉しい列車

「電車はまもなく、大井車両基地へとまいります。電車が大きく揺れますので、ご着席いただきますようお願いいたします」

 揺れることは好ましくないかもしれませんが、この場合はとても興奮しました。「車両基地」といえば、並んだ多数の線路と、それを接続するいくつものポイント(分岐器)。たくさんのポイントをガチャガチャと揺れながら通過することは、まさに車両基地進入の醍醐味だからです。

「車両基地に入ってまいりました。たくさんの新幹線が並んでいます。東海道新幹線の車両は700系、N700系、N700Aの3種類ですが、すべて16両編成で座席の位置や数も同じです。現在JR東海では133編成を所有しています」

 座席の位置や数を統一しておくと、災害でダイヤが乱れた際に柔軟性が高まるといったメリットがあります。使う車両を急遽変更せざるを得なくなっても、座席の位置や数が同じであれば「指定席買ったのに自分の席がない!」ということが起きません。

名古屋の“見えない車両基地”へも特別列車を運行

「みなさま、大井車両基地に到着いたしました」

 このあと参加者は、大井車両基地で行われている車両点検や、「ドクターイエロー」の車内などを見学。大人42人、子ども30人の合計72人が、その非日常を楽しみました。

 JR東海では2015年10月と11月、今度は名古屋車両基地への回送線に乗車するツアーを実施します。この名古屋車両基地も東海道新幹線の“本線”からは見ることができず、その回送線への乗車ツアーは今年が初めてです。また到着した名古屋車両基地では、「ドクターイエロー」の車内見学などが行われます。

 しかしこのツアーは9月21日(月)時点で、すべて満員です。ただその高い人気、そして現在、JR東海が「親子で楽しむ新幹線」として様々な企画を行っていることから、今後も同様のツアーが開催される可能性は高いでしょう。