全世界で話題「Uber」の行く先は?インドネシアから見た近未来
配車サービス企業『ウーバー』の衝撃は、まさに全世界的なものである。
我々日本人は、タクシーのサービスというものに疑問や不満を殆ど感じていない。両手に荷物を持っていても後部座席のドアが開き、行き先がどんな近距離でもドライバーは嫌な顔をしない。
だがそれは「日本の常識、世界の非常識」という言葉を体現している出来事だ。「タクシーは信用に値しない乗り物」というのが、世界の常識である。
ウーバーはその現実の隙間に滑り込み、相当数の顧客を獲得した。タクシー営業許可を持っていない一般ドライバーと契約することにより、既存のタクシー業界よりも高いクオリティーのサービスを提供することに成功した。もっともウーバーは、この手法を“ライドシェア”という言葉で濁しているが。
そのライドシェアの影響は、新興国にも及んでいる。今回はインドネシアでの事例を取り上げよう。
ジャカルタに上陸したウーバー
ウーバーがインドネシアでのサービス提供を始めたのは、今年の1月30日。この時点でウーバーの用意したサービスは2種類だ。大衆車で運行する『ウーバーX』と、高級車を使った『ウーバーブラック』である。
これらのサービスは、登場早々にジャカルタ市民から大きな注目を集めた。それもそのはずである。同国タクシー業界の最大手『ブルーバード』の初乗り料金が7,500ルピアなのに対し、ウーバーXのそれは何と3,000ルピア、ウーバーブラックでも7,000ルピアに過ぎないからだ。
進出のタイミングも絶妙だった。
インドネシアでは今、スマートフォンの普及が急速に進んでいる。それも米ドル換算で100ドルほどの安価なアンドロイド機種が、現地市民に受け入れられているのだ。7月には100ドルクラスの4G対応機が市場に現れた。国民平均年齢が30歳にも満たないインドネシア国民は、新しいものを吸収するスピードが早い。
さらにインドネシア人は、タクシーを人の移動以外のことに用いたりすることが多い。それはすなわち、物資の輸送だ。バイクタクシーのライダーに買い物を依頼するということもよくある。そういう臨機応変さが、この国の市民には備わっている。
ウーバーはそれを狙い、ジャカルタで料理の配達サービスを開始した。ウーバーのスマホアプリを使って、同社が提携する飲食店の料理を注文するというものだ。このサービスはラマダンが終わると同時に始められた。断食明けの時に、こうした種のデリバリーが頻繁に利用されるからだ。
だがそこへ、地元の陸運業者が立ちはだかった。
ウーバー包囲網
インドネシアの陸運組合オルガンダは、ウーバーに対し怒りを隠さなかった。
オルガンダのジャカルタ支局長シャフルアン・シヌンガン氏は、マスコミの前でこう言い放った。
「ウーバーは我が国発行の陸運営業許可を取っていない!」
これはまさに、ジャカルタにある38のタクシー企業の総意だった。特に近年は外国からの投資と外国人観光客の増加により、インドネシアのタクシー事業は右肩上がりだ。その利益がウーバーに持って行かれてしまうという危機感が、シヌンガン氏の態度にはっきり出ていた。
そこへさらに、ジャカルタ特別州も加勢する。州知事のバスキ・プルナマ氏はウーバーのインドネシア法人が存在しないことを取り上げ、
「あいつらは税金泥棒だ!」
と、断言した。歯に衣着せぬ性格で、時折問題になるようなことも口にしてしまうプルナマ氏だが、この時はインドネシア中のタクシードライバーから拍手を浴びた。
実はプルナマ氏は、タクシーを始めとした陸運業界のサービス改革に熱心な地方首長である。ウーバーのサービスの根幹であるモバイル機器を使ったタクシー手配に、プルナマ氏は以前から興味を示していた。だが、ウーバーがインドネシアでの各種手続きを踏んでいないことは別問題だとしたのだ。
和合の道
これらは逆に考えれば、現地当局がウーバーにチャンスを与えたとも言える。「正規の手続きさえすれば営業を認める」ということだ。先述の通り、アプリ経由のタクシー手配サービスはジャカルタ州にとって悪い話ではない。デジタルツール開発のノウハウを持ち合わせた外資企業の進出は、プルナマ氏の提唱する「ジャカルタ・スマートシティ構想」の目的と合致する。ウーバーは各国のタクシー業界にとって確かに猛毒かもしれないが、調合次第では薬にもなり得るのだ。
ウーバーは結局、ジャカルタ州の望む路線を選んだ。7月7日、ウーバーはインドネシアに100%出資の現地法人を設立する計画を発表する。これによりウーバーは同国に法人税を収める義務が発生し、同時にオルガンダとの和合の道が敷かれることとなる。
これから先のことはどう転がるか分からないとはいえ、このまま行けばウーバーは現地38社に乗客の位置情報を知らせるアプリサービス業務に徹することになるだろう。ウーバー・ジャパンがそうであるように、あくまでも陸運業者と顧客とをつなぐ“旅行業者”としての役割がウーバー・インドネシアに与えられる。
そうしなければ生き残りの道はないとアメリカのウーバー本社が判断したというのなら、それはそれで大きな進歩ではないか。「既存のタクシーはサービスの質が悪い」という動機から始まったこのビジネスだが、それでも各国で摩擦を生み出すことは誰にとっても得な話ではない。場合によっては両者共倒れという最悪の事態もあるかもしれないのだ。火は身体を温めてくれるが、火力を調整してくれる者がいなければ火事になってしまう。
インドネシアの事例は、ウーバーが今後行くべき道を自ずと指し示しているのかもしれない。
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