世界選手権では連覇を逃がした羽生結弦。だが、ソチ五輪で金メダルを獲得してから1年、彼は「その先」を目指して歩んできた。さらなる成長のためのポイントはどこにあるのか。元国際審判員、杉田秀男氏が解説する。

■成長する余地はまだたくさんある

 これまで日本のトップスケーターは世界的にも評価され、またそれだけの実績も上げてきました。その代表格である高橋大輔が引退し、浅田真央が休養した今シーズンは、後に続く選手、特にソチ五輪金メダリストである羽生結弦にとってはプレッシャーのかかる1年だったのではないかと思います。そこに負傷による不運も重なりました。

 今回の世界選手権では、全体のレベルが上がり、いくら優れた選手でも、自分のベストを出せなければ順位が下がってしまうことがはっきりしました。

 銀メダルに終わった羽生ですが、今季は万全なコンディションで一度も試合ができなかったはずです。今回は、大会への出場自体が危ぶまれる状況の中でも結果を残したことで、あらためて力のある選手だということを示したと思います。

 フリーでは得点源となる前半のふたつの4回転ジャンプでミスがありながら、後半のジャンプで崩れることなく、総合2位に入った。これは総合力で優れていたからです。まさにチャンピオンの力を持っている選手だと言えます。

 ただ、世界の頂点に上り詰めたとはいえ、年齢的にいっても、むしろ本当の意味での完成はこれからだと思うんです。ブライアン・オーサーコーチとも話をしたことがあるのですが、羽生に関して、「ジャンプの才能をはじめ、ひとつひとつのエレメンツに関しては、何も言うことがないくらい素晴らしい」と言っていました。

 けれども基本的なスケーティング、フットワークなどについては、いろいろな意味で成長する余地がまだたくさんある。

 オーサーは「ベーシックスケーティング」という言い方をしていましたが、僕もそう思います。羽生の場合、まだ完全に大人の身体になりきっていない部分もあるし、そういったことを克服すれば、さらに素晴らしいチャンピオンになれると思います。

 幼い頃、彼はプルシェンコ(ロシア)に憧れたと言っていましたが、タイプ的には違います。プルシェンコは独特のスピーディーでパワフルなスケーティングが持ち味。羽生はもっと柔軟性やナイーブな部分があってそれが魅力になっている。ひとつ前の時代のスターであるプルシェンコを超える選手になれると思っています。

 僕が尊敬しているのは羽生のアグレッシブなところです。精神的に強くて前しか見ていない。実績からいったら彼は現役でトップですよね。そういう選手は守りに入りやすいものですが、彼はたえず前を向いて挑戦者になろうとする。そこが素晴らしいと思うし、だからこそ今後も成長していけると思うんです。

 現時点で世界を見回しても、本当の意味で羽生のライバルと言えるような選手は、今回の世界選手権で優勝したハビエル・フェルナンデス(スペイン)など、数えるほどしかいません。

 そういう意味で2大会連続の五輪金メダルというのは十分に期待できるし、2年後ぐらいに、今以上にいろいろな要素を持った選手に成長している姿を見てみたいと思うんです。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha