ビジネス誌の「大学特集」は多様な視点から読み解けーー常見陽平氏に聞く

写真拡大

「週刊ダイヤモンド」(10月11日発売号)が、特集「最新 大学評価ランキング」内で、"使える人材を輩出している大学"と"使えない人材を輩出している大学"を紹介、大きな話題を呼んだ。

インターネット上では、ランキングの集計方法に疑問を呈する意見も相次いだが、こうした特集はどう読み解いていけばよいのか。大学のキャリア教育や学生の就職活動に詳しい評論家の常見陽平さんに話を聞いた。

■大学とビジネス雑誌に”共犯関係”がある

ーー週刊ダイヤモンドが大変話題になりました(笑)。
常見さんのこれまでのご経験上、使える大学/使えない大学というのは本当にあるんでしょうか。


常見:炎上しましたね。

「使える」「使えない」という言葉自体、定義がはっきりしないので、印象論ですよね。OB・OGの数など、大学の資源をまったく無視した議論でしたし。

結論から言うと、ビジネス週刊誌が取り上げるこの手の特集は、疑いの目を持って見るべきだと思います。

ランキングや”評判”は、どの立場で捉えるかにもよりますし。多様な視点から見たほうが良いのです。つまり、人事として見るのか、親として見るのか、OBとして見るのか、と。また、この手の特集は、大学の広報とビジネス雑誌の”共犯関係”の側面があります。どちらかというと、目新しい箱物に目が行きがちだったり、名門を叩いたりしがちですよね。

媒体によって好きな大学、嫌いな大学という色も見え隠れしますし、大学側も媒体を選んでいるのではないか、と感じます。

今回の特集での「使えない大学」1位は法政でした。このデータ自体は、ビズリーチ社が提供したものですが。ここには若干の悪意も感じます。以前、この雑誌では多摩地区に移転して失敗した大学という文脈で、中央と法政を取り上げているからです。たしかに、大学関係者の間では、大学の多摩シフトを反省する声はあり、都心回帰の傾向ではありますが、とはいえ多摩に一部のキャンパスが移ったことが、人気を下げたのかどうかは明確には測定できないと思います。むしろ、移転したわりに踏みとどまっているとも言えるわけですし。

ーー大学選びは”どういう部分で得をするのか”という観点を、受験生は何を尺度に志望校を探して行ったらいいのでしょうか。

もちろん、やりたい研究があるからこの大学のこの学部、という人もいるとは思います。ただ、実態としては、ほとんどの人が民間企業への就職を見据えていると思います。そうすると、この手の特集に飛びついてしまいますよね。


常見:それは永遠の課題だと思いますね。

ただ、大学での4年間で、好きなこと(あるいは社会で使えそうなこと)が学べるか、さらに、「最初の就職先が決まりそうか」、という点に寄りすぎているとも思うので、親とよく相談して、どういう部分で得をするのか、も含めて考えたほうがいいと思っているんです。

気をつけなければならないのは、多くの人が「あの大学に入ると就職に有利」(=つまり、行きたい業界や企業に行ける、それも多くの場合は、人気の大企業に)「あの大学出身者は年収が高い、出世した人が多い」という論理だけで見ていると思います。気持ちはわかりますが、これだけではダメなんです。

ビジネス雑誌の特集でも、新興の大学で教育が優れているところや、就職率が高く、しかも大手企業に就職しているところを話題にしますが、それだけを見てはいけないと思います。社会に出てからのネットワークがあるかどうかも重要になるからです。

つまり、「それぞれの大学の資産とは何か」ということを考えるべきです。名門大学の学部はなぜ、旧態依然としていても存続し、人材を輩出しているのか。昔から”バカだ大学”、”低脳未熟大学”と揶揄する声があっても、人は早稲田や、慶応を目指す。それは社会に出てからの信頼感もありますし、人脈もあるからですよね。

さらに、人脈というと、よく慶応の三田会だ、一橋の如水会だ、と言われますが、それも少し違います。そういうOB組織によらずとも、人と人とがつながりあうきっかけとしての大学名は大きいかなと思っています。

「企業が学校名を気にするのか」ということについても、段階があると思うのです。ほとんどの場合は、採用の段階が中心です。ネット業界のように比較的新しく、人材の流動性が高い業界はあまり気にしませんしね。

■何でも一緒くたに語られてしまっている大学問題

常見:名門でも、中堅クラスでも、大学が募集に困っているというのは事実です。
私の両親は大学教員でした。父は早くに亡くなりましたが。母は、高校回りで遠くに出張、という日がよくありました。いま思うと私立の大学教員はよくやることではありますが。
大学の理想としては教育力を上げなければといけない。でも、教育力を上げても、受験生の募集が上手くいかないと、あらゆる意味で水泡に帰す。この事実と向き合わないといけないんです。

思うに「大学」という言葉自体、世代や立場によってイメージするものが違うわけですから、いま、そこにある問題と、「欧米の先端大学に負けるな」という議論と、さらに”自分語り”が一緒に語られていて、だからネット上の議論もかみ合わないのです。

――英語力向上、グローバル化など、それらが求められている大学ばかりではないよ、ということですね。

常見:中長期的に、日本の大学や高等教育をどうするのかという社会的問題としての視点と、”うちの息子や娘をどこに行かせるのよ”、”俺の母校はどうなのよ”という話が一緒くたになってしまうことが多く、それがビジネス雑誌の特集にも現れているのではないでしょうか。ビジネス雑誌は、部数もかかっているわけで、何かと極論を言い切り型で伝えたがるわけですが、進路選びはこういう「まどろっこしい話」、多様な視点が大事なわけです。

常見 陽平(つねみ ようへい)
評論家・コラムニスト。
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設される国際教養学部の専任講師に就任予定。

リクルートという幻想 (中公新書ラクレ) [新書]