冬の移籍期間が1月31日で終了した。プレミア上位陣の中で最も出入りが激しかったのはチェルシーだった。スペイン代表MFファン・マタをマンチェスター・ユナイテッドに、ガーナ代表MFマイケル・エッシェンをミランに放出。一方でセルビア代表MFネマニャ・マティッチをベンフィカ(ポルトガル)から、エジプト代表MFモハメド・サラフをバーゼル(スイス)から獲得した。また、フィテッセ(オランダ)にレンタルしていた日系フランス人のMFガエル・カクタとイングランド人DFサム・ハッチソンを呼び戻している。今季、マタとエッシェンは出場機会に恵まれておらず、気のきいた補強と言えそうだ。

 逆にアーセナルや大物獲得の噂が流れていたマンチェスター・シティには目立った動きはなかった。結局、この冬最大の移籍は、マンUがクラブ史上最高額となる3700万ポンド(約65億円)で獲得したマタだったということになる。そのマンUも、それ以外の補強はないままで移籍期限を迎えた。

 マタの2試合目となったストーク戦。前節のファン・ペルシーに続いて、ルーニーやMFキャリックも先発に復帰し、いよいよ役者がそろった感のあるマンUたが、リーグ中位から下位をうろつくストークに1−2であっさり敗れた。2−0で勝利した前節のカーディフ戦。ガーディアン紙は「内容はこれまでと大差ない」としながら「ムードは変わった」と、マタ加入の効果を認めた。だがそのムードが早くも消えてしまいそうな痛い敗戦だ。香川真司とMFフェライニはチームと共に現地入りしたものの、ベンチメンバーを外れスタンド観戦となった。

 衝撃的な敗戦ではあるが、モイーズ監督就任以降、マンUがどれだけ"記録"を作っているか、BBC(電子版)がデータをわざわざ並べている。

・開幕24戦で8敗目を喫するのは89〜90シーズン以来。ちなみにそのシーズンは13位で終了。
・ストークに1984年以来の敗北(2月1日)。
・スウォンジーに初めてオールドトラッフォードで敗れた(1月5日)。
・ニューカッスルに1972年以来の敗北(12月7日)。
・ウェストブロムビッチに1978年以来のオールドトラッフォードでの敗戦(9月28日)。

 負けるたびに「歴史的な敗戦」というフレーズが用いられる。大げさな言い方に聞こえるが、確かに歴史的な敗戦を多く喫しているシーズンなのだ。

 ストーク戦後のモイーズ監督の記者会見はいつもどおりだった。「とても運が悪かった」「内容は我々の方がよかったが、相手がワールドクラスのゴールを決めたために勝てなかった」「たくさんのチャンスがあったのだから、決めなくてはならなかった」......。その一方でこの日は「勝つために何をすれば良いのかわからない」という弱音を吐いた。

 確かに不運が続いた試合ではあった。DFのエバンスとジョーンズが前半のうちに負傷で交代。久々にCBを組んだ二人が早々に退くのは計算外だった。38分に奪われた先制点も、相手のフリーキックがキャリックの体にあたり、コースが変わってそのままゴールへ。不運だと嘆くのも致し方ない。

 ポゼッションでは62パーセント対38パーセント。パスの本数は441本対268本、シュート数も19対13と、マンUが優勢だったことが見て取れる。だが、枠内シュートとなるとストークの6に対しマンUが4。相手の必死の守備に阻まれたとはいえ、このあたりに明確な課題が見えてくる。

 気になるのは、少なくとも今季中の移籍はなくなった香川真司の今後である。今季はすでに国内カップ戦がなくなり、残る試合はリーグ戦とチャンピオンズリーグしかない。試合数があまり多くない中で、出場機会をつかんでいくのは容易なことではない。だが、ここでチャンスをつかみ取るしかないのだ。

 この日、チームに帯同しながらメンバー入りしなかったということは、それが現在のモイーズの中でのプライオリティ、ということになる。モーイズは「香川は負傷でもなく特に状態が悪いわけでもない」と明言している。

 だが、チャンスがないわけではない。最終ラインに負傷者が出たこともあり、次節はベンチには入る可能性が高い。そしてどういう形であれ出場したら、香川自身が繰り返し口にしてきたように、「得点という名の結果」を出す以外に現状を打破する方法はない。

 幸か不幸か、チーム状態は決して良くはない。劇的に良くなる要素も見当たらない。香川にはまだチャンスが残されているはずだ。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko