現代における塾の存在意義と役割を歴史を紐解きながら解説している一冊。最新の塾ガイドとしての価値も高い。

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2月といえば受験の季節。首都圏では中学受験から始まり、高校受験、大学受験と続いていく。

少子化により大学は全入時代とは言われているものの、受験戦争の加熱は一向に収まる気配を見せない。その中で、自然と存在感を増すのが塾の存在。2013年の通塾率は小学6年生で49.7%、中学3年生で60.4%となっている。高校受験のある中学3年生は、体感的にはみんな塾へ通っているという感じになるだろう。また、私立・国立中学に通う生徒が全国平均で約8%、東京都でさえ25%強にとどまるにも関わらず、小学校6年生の半数近くが塾通いをしているのにも驚く。

一昔前は塾に通うことに後ろめたさを感じられた時代もあったが、もはや塾に通うのは当たり前の時代。とはいえ学校の予復習をしっかりやり、残りの時間は友だちと遊んだり、好きな習い事をさせた方が子供らしくていいのではないかとも思う。子供はやはり塾に通わせないとダメなのだろうか?

「少なくとも受験をしたいのでしたら、塾に通わないと難しいでしょうね」

そう語るのは育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささん。

「塾の力を借りずに中学受験に合格したという話をたまに聞きますが、よくよく聞くと、中学受験経験者の親御さんがほぼ毎日家庭教師のような状態で子供の勉強をみたりしているケースがほとんどです」

たしかに電車の車内広告や、この時期SNSで回ってくる中学受験の問題は、一筋縄にいかないものが多く、小学校の授業を真面目に受けているだけでは解けないのではないかと思えるほどハイレベルだ。また、あるデータによると、大学受験においても早慶一橋を含む主要難関大生の約95%が塾通いを経験しているという。

受験競争激化の結果、入試が通常の学校教育では手に負えないレベルになってしまっているのだ。そうした過剰競争の問題とは別に、興味深い指摘をおおたさんはする。

「戦後、学校制度が大幅に改正され、それに伴って学校で進学指導を行わなくなったのです。塾が社会的存在意義を急速に増したのはそこからです」

教育の機会均等の名の下に行われた戦後教育改革が、結果として学校の「上級学校への予備校的側面」を弱めさせた。それを補完する形で塾が発展していったというのだ。
一方で、そのことは必ずしも悪いことばかりではないとも指摘する。

「6334制の導入で学校教育が単線型となり画一化してしまった中、塾が教育の多様性を担保してくれている部分もあるのです」

学校の授業についていけない生徒や、逆に授業だけでは物足りない生徒の受け皿となってきたし、数学や物理の問題を学校の先生とは違う解き方をして、その奥深さに気づかせることもあるというのだ。また、もし塾がなくなったら「多くの保護者が学校に、部活や課外活動よりも受験勉強の充実を求めたり、美術や体育の時間を受験科目に充てるように求めたりするようになるでしょう」とおおたさんは言う。

高校への進学率が約97%にも達し、大学進学率も50%を超える現在、教育は受験を伴う進学を前提とせざるをえなくなっており、その中で塾はすでに一定以上の役割を担っているのだ。

しかし、塾の費用は当然のことながら各家庭が負担している。日本人は自らのことを教育熱心だと思いがちだが、GDP(国内総生産)における学校教育費の比率(2012年)はOECD加盟国の中でも最低水準で、平均の6.2%を大きく下回り5.2%にとどまる。つまり、データは日本は教育に力を入れていない国であると語っている。国が面倒をみない分、塾が機能的にそれを補完し、家計がその費用を負担しているという構造になっているのだ。

教育現場でもその現状を認識し、塾のいい面を取り入れようとする動きもある。民間人である藤原和博氏を校長に初めて登用したことで話題になった杉並区立和田中学校が、2008年に成績上位者を対象に進学塾サピックスから講師を招聘し、有料の補習「夜スペ」を行った。これを皮切りに、現在では公立・私立を問わず、多くの中学校・高校で、塾講師による補習授業が行われるようになっている。

「塾の映像授業を校内で受講できるようにしている学校もありますし、テレビ電話を使って塾の個別指導を受けられるようにしている学校もあります。今後も塾と学校のコラボレーションは増えていくでしょう」(おおたさん)

公教育が塾を目の敵にしていた時代からは隔世の感があるが、塾が進学に特化し、高度に進化したことを考えると、そのノウハウは日本の財産であり、文化であるとも言える。

では、塾を選ぶとすれば何に気をつければいいのだろうか。

「実は塾選びはとても難しく、ベストな塾というものはありません。大手は確立されたメソッドがありますが、クラスによって先生は違いますし、好きな先生が転勤してしまうこともあります。個人経営の塾は相性がよければいいですが、悪ければ潰しが効きません」

「塾に頼るというよりは、使い倒すくらいの気構えでいることが大切です。近所に中小の塾があれば、そこから始めるのがいいかも知れません。また、評判のいい塾でも自分の子供に合わないと思ったら、転塾はためらわないでください。塾に絶対的な正解はなく、あくまで子供に合うかどうかが大切ですから」

より詳しく塾のことについて知りたい方は、おおたさんの新刊『進学塾という選択』がオススメだ。同書では、塾の歴史から現状について詳しく書かれているのに加え、有名進学塾の教育についてレポートする塾ガイドにもなっている。精読して現在における塾とはどういうものかを理解すれば、塾選びもずっとスムーズにいくだろう。

学歴社会をくだらないものだと一蹴するのはたやすい。受験で失敗したからといって、人生が失敗するわけではもちろんない。それでも、目標のために一生懸命がんばる受験生一人ひとりには悔いの残らぬようにして欲しい。そのために塾を活用する必要があると思ったら、目一杯利用すればいい。

今年本番を迎える人も、来年以降迎える人も、がんばれすべての受験生!
(鶴賀太郎)