ピンチはチャンスでもある。チャンスにはピンチが伴ってる。ピンチになっているという事はチャンスになっているという事でもあり、チャンスになっているという事はピンチにもなっているという事である。今季の最初あたりのエントリーで、モイズのマンチェスター・ユナイテッドが上手く行かなくて、それで香川が救世主的な期待を受けて使われるようになるよりも、モイズのマンチェスター・ユナイテッドがそれなりに上手く行って、それでも戦い方に幅を持たせるために(伝統的なイングランドスタイルのサッカーにプラスアルファを付け加えるために)香川が使われるようになる、というシナリオであった方が良い、という事を書いた。

なぜかと言えば、救世主扱いされるという事は、もの凄く高い期待と責任を背負うという事であり、そして、その期待に応えられなかった時には、理不尽な程の落胆と批判を浴びせられる事になってしまうからで、香川の現状の能力を考えれば、更には、マンチェスター・ユナイテッドというクラブにおいて、その伝統的なイングランドスタイルのサッカーを変化させる事の厳しさや困難さを考えれば、それは香川にとってチャンスというよりもピンチに陥る可能性が高いと思ったからである。ファーガソンは香川を丁寧に扱った。強豪との試合で香川を使わなかったのは、信頼していないというよりも、むしろ香川を守るためであったように感じた。

通用しないという早計な烙印を押させないために、香川をプレミアというリーグやマンチェスター・ユナイテッドというクラブにソフトランディング(軟着陸)させ、馴染ませつつ成長させつつつ実績を積ませつつ、やがて中心選手にして、伝統的なイングランドスタイルのサッカーにプラスアルファを付け加えたマンチェスター・ユナイテッドを誕生させよう、そんな狙いを感じさせていた。そして、そういうファーガソンの狙いに最初に歩幅を合わせたのがルーニーであり、次に、ギグスでありキャリックであったと思う。彼らの中にも少なからずの疑念や戸惑いはあったと思うが、チャレンジする事については価値を見出していたと思う。

ところが、モイズになってからのマンチェスター・ユナイテッドが予想以上に低迷する事になったために、そういうシナリオもしくは流れが崩れてしまった。香川に対するモイズやメディアの評価というのは不当に過大であったり過小であったりする。モイズは、香川を交代させて流れを悪くさせた試合がありながらも、それをきちんと認めようとしない。結果論としての得点やアシストでばかり評価するのであれば小学生でもできる。それから、一部のメディアが言うような、香川を使えば劇的に良くなる、香川を使えば勝てるようになる、というのも有り得ない。香川をメッシやC・ロナウドのような存在だと考えるのは無理がある。

そして、マタの存在が香川を窮地に追いやる、マタが加入したので香川はもう必要なくなる、という見方も短略的過ぎる。マタが救世主になろうとそうでなかろうと、マタが活躍しても活躍しなくても、MFの選手は4人から5人が常にピッチに立ち、MFの選手ではルーニー以外の選手のパフォーマンスは安定的ではあらず、更には、マタと最も連携面で良さを発揮できるのは香川である、という可能性は少ないとは言えない。それからもう1つには、マタに救世主的な過度な注目や期待が集まっているというのは、香川にとっては、矢面に立たされないで済む、1試合ごとのパフォーマンスで一喜一憂されない、というメリットも生まれてくるように思う。

ピンチはチャンスでもある。香川にとっては、マタを隠れ蓑にして、残りの今季を自身のレベルアップに使う状況が訪れたとも言える。出場機会が減るかどうかは、他の選手の怪我やパフォーマンスにもよるだろうから、そこに関しては確定的な事は言えない。おそらく、ローテーションの関係から、香川の出場機会が完全に失われてしまう事は無いと思う。特にCLの試合では多かれ少なかれ出場機会を与えられるのではないだろうか。どちらにしても、今の香川にはまだ成長が必要な事は確かで、それはルーニーやファン・ペルシ、あるいは、マタとは違うし、そうであるならば、マタの加入をピンチではなく成長できるチャンスに変える、という事が、今の香川には最も必要とされてくるのではないだろうか。