CES2014まとめ:未来はもうすぐそこに来ている

まるでSF小説のような世界がまもなく現実の物となる

あなたは年に一度の健康診断で医者と面会している。一通りの検査が終わり、医者からは薬剤師への処方箋に加えてスマートウォッチが渡される。医者はこれから一週間ほど、あなたの基本的な健康状態を確認するため、心拍数や心臓の活動を詳しくモニタリングしたいらしい。

もし医者があなたの心臓を心配した場合は、血管に注入できるような超小型センサーも処方されるかもしれない。このセンサーは心臓発作が起こる2週間も前に、あなたにそれをアラートで知らせてくれるという。

診療を終え、車で帰宅する。もちろん車は自動運転なので、その間にあなたは人間ドックで休んだ分の仕事に目を通す。

自宅に到着するとドアを開け、スマートフォンを使って部屋の電気をつける。ついでにスマートフォンでテレビドラマの録画予約を行い、オーブンの余熱を開始する。

「ベートベンの交響曲第5番を再生」と声に出せば、聞き慣れた力強い音楽が家中から鳴り響く。その後ソファーに腰掛け(ネットに接続されていないのはこのソファーぐらいかもしれない)、手をかざしてテレビの電源を入れ、「ティムへ電話」と声をかける。すると、カンファレンスに出席するためシカゴに滞在している夫とのビデオチャットが始まる。

夕食を食べ終え、先ほど録画しておいたドラマを見て就寝する。あなたが眠っている間、医者から処方されたスマートウォッチがあなたの呼吸と睡眠リズムを記録し、医師のみがアクセスできるセキュアなクラウドにデータをアップロードする。

数週間後、医者から電話が来て「心配は要りません、すべて正常です。センサーによればあなたの心臓に異常はありません。また来週お会いしましょう。」と告げられる。

まるでSF小説の世界のようだがそうではない。これが近い未来のあなたの生活なのだ。

体内センサー

血流をモニターするために静脈に注入するセンサーはすでにほぼ現実の物となっている。

CES 2014にて。左からエリクソンのハンス・ヴェストバーグ、アンドリュー・キーン、クアルコムのポール・ジェイコブス、AT&Tのジョン・ドノバン

「我々はすでにサンディエゴで血流に注入するセンサーの臨床試験を行っています。これにより心臓発作が起こる2週間前にそれを予見することができるのです。」クアルコムのポール・ジェイコブス会長は、ラスベガスのコンシューマー・エレクトロニックス・ショウ(CES)のパネルディスカッションで発表した。(実際にはこの臨床試験は対象となるバイオセンサーの利用を法的に「有効化」するためのものであり、心臓発作の予見を実証できるのはおそらく数年先になるだろう。)

あなたの心臓と健康状態をモニタリングするスマートウォッチはどうだろうか。これはすでに様々な形式で実在している。FitBitやNike FuelBand等が有名だが、インテルのような企業はスマートフォンに接続しなくても動作するスマートウォッチを開発している。

インテルの最新スマートウォッチは、先週月曜日のCES基調講演で同社のCEOブライアン・クルザニッチにより披露された。このスマートウォッチはあなたの居場所と行動をトラッキングする「smart geo-fencing」機能を備えている。例えばあなたの祖母が痴呆症を発症していて、よく迷子になってしまうとする。インテルが発表したようなスマートウォッチがあれば、彼女の居場所をトラッキングし続け、住んでいるケアホームから外に出てしまったときに家族がアラートを受け取ることができる。

未来のコンピューティングでは、ただ単に手首にはめているデバイスで通知や電話を受けたり、写真を撮ったりできるようになるだけではない。あなたの生活をより生産的で豊かなものとするため、データを収集し利用することを目指しているのだ。機械は生活を複雑にするためではなく、より簡単にするために存在するべきである。インテルやクアルコムのような企業は、いずれ我々の生活を大きく変えるための基礎となるプラットフォーム、プロセッサーおよびツールを構築することで、こういった改革の先頭を走っている。

例としてインテルの「Edison」チップを取り上げよう。このチップはどんな物にでも搭載することができる超小型のコンピュータだ。クルザニッチが先週CESで発表した際には、赤ちゃんの寝巻きにチップが搭載され、赤ちゃんの呼吸、対応、姿勢などをモニターする様子を披露していた。

一見気味が悪いように思えるかもしれないが、初めて親になる人にとって赤ちゃんモニターは必須アイテムだ。Edisonやその後継チップは、我々の日常生活で使われているシステムを一新していくことになるだろう。

すべてに繋がる世界

「モバイル・コンピューティング」の将来の姿について話すとき、我々はスマートフォンが身の回りのすべてをコントロールするハブの役割を果たす世界を思い描いている。日常的なプロセスや行動は自動化され、自宅から自動車に至るまで、あらゆるもののモニタリングとコントロールにスマートフォンが利用されるようになる。

AT&Tのテクノロジーとネットワーク・オペレーションズを担当する上級副社長ジョン・ドノバンは、「日頃使っている機械が、他の機械達と自動的に連携してくれることが理想です」とCESで語っている。「携帯電話こそが我々の生活をコントロールするリモコンになるでしょう」

クアルコムのCEOスティーブ・モレンコフ

「スマートフォンのトレンドが他の産業の成長を牽引していることを非常に嬉しく思っています」クアルコムの新CEOスティーブ・モレンコフはCESの質疑応答セッションでこのように語っている。「我々は様々な種類と価格のデバイスを、複数のラインナップに分けて提供していく予定です」

モレンコフの発言は、スマートフォンの爆発的な成長が次世代のコンピューティングの到来を告げていることを意味している。スマートフォンで叩き上げられたプロセッサーが、今ではスマートウォッチやサーモスタット、家電その他の製品にも利用されているのだ。例えばARMベースのプロセッサーは、家主が在宅中かどうかを判断して室温を調整するNestサーモスタットのようなガジェットにおいて、その能力を発揮している。

おそらく伝説のSF作家アイザック・アシモフさえ、我々のシステムがこれほどまでに賢くなるとは予測できなかっただろう。我々はコンピューターを生活のありとあらゆる場面で活用している。利用範囲が広すぎてその影響を言い表すのは難しいが、数年前であれば血流センサーやスマートウォッチなどは、パブで盛り上がるオタク達の夢物語に過ぎなかったはずだ。

そんな夢物語が、間もなく現実になろうとしてるのである。

Dan Rowinski
[原文]