ニフティが運営する「東京カルチャーカルチャー」で行われた『年明けうどん 新年会2014』。山田うどんの山田社長と三宅工場長、そしてかかし君もゲスト参戦した。

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「年明けうどん」、もう食べた?

香川県の「さぬきうどん振興協議会」が2008年8月に商標登録申請し、全国的に広げようと提唱して始まったのが、元日から1月15日までの間に食べる「年明けうどん」の食習慣。日本国内における名産うどんの活性化やうどんの消費拡大に貢献することも目的として、讃岐うどん業界を中心に盛り上げているんだとか。

そんな「年明けうどん」の風習にのっとって、みんなでいろんなうどんを楽しみつつ、うどんの魅力を語り合い、うどんとともに生きる幸せを謳い上げようと10日(金)、『年明けうどん 新年会2014』なるイベントがニフティが運営する「東京カルチャーカルチャー」で行われた。

主催者は昨年、『食べるパワースポット「伊勢うどん」全国制覇への道』を上梓した伊勢うどん大使・石原壮一郎。
そして実家が素麺の製造・販売を営むテリー植田、給食系男子にしてフードアクティビストの松浦達也、『愛の山田うどん』の著者である北尾トロとえのきどいちろう、そして博多うどんに代表される「やわらかうどん」派のデイリーポータルZ・林雄司とべつやくれい、といったうどんに並々ならぬ愛情と情報を抱えた6人が取り囲む。

それにしてもこの「年明けうどん」、私は今回のイベントまでその存在を知りませんでした。勝手に讃岐サイドが騒ぎ、それに伊勢うどん大使が便乗しただけなんじゃないの? と思っていると、えのきどがフォローを入れる。
「武蔵野うどんの習慣でいうと、結婚式や正月など、おめでたい席で昔からうどんを食べるんです。だから、今日はものすごく正しいイベント」と、うどん県・香川以外でも「正月にうどんを食す」文化があることを訴える。

正月の食文化としての歴史はまだまだ浅い「年明けうどん」だが、うどんは他の麺と比べ太くて長いことから、古来より長寿を祈る縁起物として食されてきた背景がある。
また、白いうどんに紅い具材を添えることで、お正月にふさわしい「紅白うどん」にすることができるのも縁起物として喜ばれる理由のひとつ。
ということで、この日のイベントで提供されたうどんメニューにも、山田うどん(梅干しのせ)、伊勢うどん(伊勢かまぼこのせ)、讃岐うどん(オーシャンキングのせ)、博多うどん(明太子のせ)、という具合に何かしら赤いものがトッピングされていた。縁起、バッチリ。

お腹も満たされてきたところで、第一部はフードアクティビスト・松浦達也による<2014年 全国うどん予報>。
1920年以降の全国うどん分布図を天気図にみたて、讃岐うどんが全国を制圧したここ10年の流れを解説。実際、全国のうどん店の1/4〜1/5が讃岐うどんを提供する店だという。
しかし、このやたらとコシ重視の「日本讃岐うどん化計画」に対する揺り戻しが始まったのが昨年からのうどん天気図。松浦氏がちょうど1年前「2013年は、伊勢うどんや福岡うどん、鳴門うどんなどの“やわ系うどん”が来る!」と予報したところ、実際に雑誌『dancyu』(プレジデント社)が2013年4月のうどん特集号で「三大ふにゃふにゃうどん」をフィーチャーし、そして夏以降は伊勢神宮の式年遷宮のブームとあわせ、伊勢うどんにも光りが当てられたという。

この解説に一人喜ぶのが、伊勢うどん大使の石原壮一郎。自著のタイトルにもなぞらえ、「伊勢うどん、全国制覇へ」「伊勢うどんが来てる!」と何度も口にしていたところ、えのきどいちろうが異議を唱えた。

「僕は『○○うどんが来てる』という考え方は取らないんです。それは、愚かなこと。色んなうどんが並走する状況こそが豊かなことだと思うんです。どれかひとつがステージの中央を占めて、何かのうどんが全体を席巻することに意味があるのか? そこに僕は問題提起をしたい。腰があるキャラクターのうどんもいれば、腰のないうどんがいたっていいんです」

そして、お互いのうどん本『食べるパワースポット「伊勢うどん」全国制覇への道』と『愛の山田うどん』の方向性の違いも提示する。

「僕らの本も、石原さんの本も、讃岐だけがうどんじゃないぞ! というのは同じ。でも、石原さんの、伊勢うどんでの“天下取り”“天下布武”に対して、僕たちが『愛の山田うどん』で書こうとしたことって、“地方豪族性”なんです。つまり、全国チェーンを目指さない・無限の成長を目指さない、持続可能性。非常に21世紀的ですよね。全国制覇なんて望んでいないし、その土地ごとに、地域に根ざしたうどんがあればいいんです」

この意見を聞いた伊勢うどん大使も、「皆さんのお話を聞いて、『打倒!腰』とか、対抗しようとか、そういう考えをやめたほうがいいのかもしれませんね。2014年は純粋に伊勢うどんの良さを推していこうかと思います」と、讃岐うどんへの態度を改める可能性も示唆。えのきども、讃岐うどん勢の底の深さを付け加える。

「カマタマーレ讃岐の試合会場では、『スタンドにうどんを持ち込まないでください』という張り紙があるみたいなんです。それは、会場で売っているうどんを持ち込んじゃダメなのか、ということではないんです。それは持ち込んでも大丈夫で、『自宅から持ち込まないでください』という意味なんですって。家からうどんを持っていくなんて、そんなの僕ら想像できます? やつら、強敵ですよ。たいしたもんですよ!」

というわけで、讃岐うどん派の方も、やわうどん派の方も、「年明けうどん」のチャンスは明日15日までです。
(オグマナオト)