モバイル写真の功罪:写真撮影による記憶障害の可能性
最新の研究によると、写真を撮ることで記憶力が低下する可能性があるのだという
写真を撮った後、その時のことを全く覚えていないということはないだろうか?これは決してあなただけの問題ではない。どうやらInstagram等の写真アプリは我々の記憶力に良からぬ影響を与えているようなのである。
Psychological Scienceに掲載された最新の研究結果によれば、「写真撮影による記憶障害の効果」なるものが存在するのだという。写真を撮影した場合、撮影しなかった時に比べて被写体のディティールを記憶できなくなるというのだ。
モバイル端末やInstagram等のアプリによって、写真を撮影したり加工して友達と共有したりすることは極めて簡単になった。しかしこれらのアプリは我々の生活を楽にしてくれる一方で、我々の実体験を補完するという役割も果たし始めているのかもしれない。
脳のGoogle依存
Googleが我々の記憶の補助的な機能を担っているというのは、長年議論されてきたことである。2011年にはある研究によって、Googleが実際に我々の記憶の想起に対して有害であるという結果も示されている。コロンビア大学によって行われたこの研究によれば、「人は難しい問題に直面すると、後々コンピューターで調べることを連想してしまう。いずれ関連情報にアクセスできるということが念頭にある場合、記憶の想起率は低下する。情報そのものについて考える代わりに、その情報を得られる場所を思い浮かべてしまうのだ」ということらしい。
つまり難しい質問をされた場合に我々は、自分で答えを思い出そうとする代わりにGoogleに聞こうとしてしまうのである。旅行に行くときも同じだ。事前にルートを覚えていかず、ついついポケットの中の地図アプリに頼ってしまう。
写真でもこれと同じ事が起きているというのである。
Psychological Scienceに掲載された研究では、被験者は博物館の中で色々な物の写真を撮るように指示された。撮影された写真の中には対象物の全体を納めたものもあれば、一カ所にズームした拡大写真もあった。被験者は対象物の写真が自分のカメラに収まっていることを知っており、後で対象物を思い出す必要に迫られた場合には写真を見れば良いということが分かっていたため、自分の脳からは対象物の記憶を消し去ってしまった。一方、写真に撮らなかった物については逆に細かいところまで覚えていたというのである。
とはいえ、すべての記憶が失われるわけではない。「写真撮影による記憶障害の効果」に対抗する方法もあるようだ。上記の研究では、被験者が対象物の一部分を拡大して撮影した場合には、撮影しなかったときと同じくらいしっかりと記憶に残っていたことが明らかになった。細部の写真を撮った場合は記憶が消えないのである。
作家でジャーナリストのクライブ・トンプソンは、テクノロジーは決して我々の記憶力の堕落を招いてなどいないと主張している。もともと人間の記憶力はそれほど良くないというのだ。過去においてはコンピューターの代わりに家族や友達の記憶に頼りながら物事を覚えていただけなのだと。つまりGoogleやFacebook、Instagramは我々を退化させているわけではなく、記憶領域を補完する役割を担っているだけだというのである。
写真に刻まれる人生
多くの人は写真を撮ってオンライン上でシェアすることで、友達やフォロワーたちに自分の日常を紹介している。だが我々は一体どのくらいの頻度で自分たちの過去の写真を見返しているだろうか?
Instagramのタイムラインを掘り起こしでもしない限り、過去の写真に収められた記憶はごっそり脳から消えてしまいそうである。一方、セピア色の真四角な写真を眺めていると家族や友達との体験が鮮明に思い出され、一度は忘れていた記憶さえも蘇らせてくれるものだ。
オンラインでの写真共有や「ウェブのビジュアル化」は予期せぬ結果を生みだしている。写真ツールやソーシャルメディアへ簡単にアクセスできるようになったことで、最近では食事の楽しみ方まで変わってしまった。我々の日常体験は、これまでとは違う方法で記憶されたり忘れられたりしているようである。
昔のアメリカ先住民達は、写真は魂の一部を吸い取ってしまうと信じていた。魂については分からないが、記憶に関しては当たっているのかもしれない。スマートフォンはどうやら我々が思っていた以上のものを吸い取っていたようである。
トップ画像提供:Instagram, CC.
Selena Larson
[原文]