『「20秒」でねこ背を治す』(長岡隆志/ソフトバンク新書)帯文:“読めば治る! 腰痛・ひざ痛・肩こりからうつ病まで諸悪の根源となる「悪い姿勢」を改善。”

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電車に乗って驚いた。座ってる全員スマホを覗きこんでいて、猫背姿勢だったのだ。
全人類が猫背になっている未来を幻視してしまった。
いや、そのまえにすでに俺が猫背だ。
中学生の時、いま思えばどうしてそんなことを思ったのか、「猫背かっこいい」と勘違いして(影のある男のイメージだったのか)、わざと背を丸めて過ごしているうちに、しっかりと猫背になってしまった。
と、そんな私に朗報。本屋で『「20秒」でねこ背を治す』(長岡隆志/ソフトバンク新書)という新書を発見した。
帯に「読めば治る!」と太い文字。

20秒で本当に治るの? という疑問を払拭するために、最初に三つの実技が登場する。
ひとつめをやってみる。
まず前屈。手がどこまで届くかを確認。
やってみる。ぜんぜんダメだ。床から5センチ以上離れたところまでしか手が届かない。
その後に、“手のひらを床につけたまま、両脚を伸ばせるところまで伸ばします。太ももの裏側が引っ張られて少しキツイですがここで20秒、なんとか我慢してみてください。”
本書についている図が、ここにはないのでわかりにくいかもしれないが、ふとももの裏側を伸ばす感じだ。
20秒やった後で、再度、前屈。
おお、最初のときより手が伸びる。床に届くことはないが、確実に伸びる。
太ももの後面にあるハムストリングスという筋肉をストレッチしたからだそうだ。
ハムストリングスの柔軟性が低くなると、硬くなり、短くなる。そうすると骨盤が後ろに傾き、背骨が前のめりに湾曲し、「ねこ背」になってしまうのだそうだ。

第1章は、20秒で身体が変わる実技をはじめとして、姿勢矯正についてあれこれ。
・姿勢は「しつけ」の問題ではない
・「背筋を伸ばす」のはいいことなのか
・悪い姿勢は「大人の問題」
・姿勢改善ビジネスに要注意
・姿勢改善に「筋トレ」はいらない
などなど。

そして、第2章は「悪い姿勢とは何か?」「ねこ背を生む生活習慣」など。
スマホでねこ背が加速するという指摘も、この章に出てくる。
ここで、驚いたのは以下の記述。
“一般に「悪い」と言われる姿勢は、すべて楽な姿勢でもあります。(…)重力の赴くままに身体が曲がっていくので、ある意味で悪い姿勢は不健康であっても、不自然ではないと言えるかもしれません。楽をすると皆このような姿勢になるのですから。”
悪い姿勢って、楽だよね、たしかに!
そこをちゃんと認めてから展開するので、内容に無理がないのが、この本の凄いところ。

第3章は、骨盤の歪み、体幹のコア(核)になる筋肉、呼吸などの視点から、「ねこ背を生むメカニズム」を解説。
ここでも、「腹式呼吸のすすめ」といった安易な単純化に逃げず、腹式呼吸と胸式呼吸の違いを解説し、それぞれがどのように姿勢に影響を与えるのかの理解に導いてくれる。

最終章は、実技。「姿勢がよくなる実技:体幹編」だ。
ここまでの章で、不良姿勢が生まれてくる仕組みが、ていねいに解説されているので、実技編も、ただの無目的な体操ではなくなる。これをやることで、ここの筋肉を鍛えるから、姿勢がこうなって、良くなるのだ、という理屈が分かる。それだけで、やるスタイルが変わってくる。

ひとつだけ紹介しよう。
1:背もたれにもたれずに椅子に座る。両手をお腹に当てる。
2:鼻から大きく息を吸い込む。お腹が膨らむように呼吸する。
3:10秒以上かけて口から息を吐き出す。息を吐いたときお腹が凹むようにする。
これを5〜10回くり返す。
腹横筋を鍛えるトレーニングだ。
やってみると10秒は意外と長い。でも、これを何回かやったあとは、すこし背筋が伸びる感じが確かにする。
『「20秒」でねこ背を治す』おためしあれ。
(米光一成)