『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン監督作品。サンドラ・ブロック主演。ミッション・コントロールの声は『アポロ13』のエド・ハリス。

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2013年の映画ベスト3は、『風立ちぬ』(レビュー)『そして父になる』(レビュー)『クロニクル』(レビュー)で決定だと確信していたのだった。
しかし、『ゼロ・グラビティ』(公式)を体験してしまった。
1位! 10点、10点、10点、10点、まんてーーーん。

「2013年の映画」ってくくりを超えた。
今なら言える。全映画の中で一番すげぇ体験をしました。
全人生の中で、一番すげぇ体験をしました。
91分でよかった。
これ、180分とかあったら死んでたね。

緊迫しすぎて、途中で意識が飛んだもの。
ジョージ・クルーニーがひゅーってなっていくシーンのちょい前で(ネタばれしないように曖昧な表現になっております)頭のヒューズ飛んで、15秒ほど、あれ? この人たち何て言ってるの? 分からないよ。あっ、そうか、映像に集中しすぎていて字幕読んでなかった! って状態になってしまったもの。
3Dで体験してください。
3Dすごい。
いやあ、『アバター』を観て、「3Dすげぇ、でも映画に3Dはいらない。飛び出たーって意識してしまって映画そのものに集中できないし、目が疲れるし、ノーモア3D!」派だったのだけど、転んだ。
ちゃんとすれば、3Dすごい!
『ゼロ・グラビティ』の3Dは、飛び出るんじゃなくて、奥行き。
飛び出るところも、「ドーン飛び出ましたすごいでしょ!」という技術自慢時代を過ぎ、しっかり意味のあるちゃんと飛び出るべきときのみさりげなく飛び出るという「技術さりげなさ時代」に突入。(→「文章を書き終えたらチェックすべき17ポイント」【10】重複)
思わず「時代」とか大袈裟な言葉を使っちゃいましたが、本当に『ゼロ・グラビティ』以降は、そうなっちゃうでしょう。
『ゼロ・グラビティ』以前の3Dは、ちょっと凄いことができるってことではしゃいでたねーって感じになっちゃったもの。
なので、3Dは苦手だって人も、3D邪道って思ってる人も、ぜひ騙されたと思って3Dで観てください。

あ、もうどんな展開で、どんな映画なのかってのは書くつもりないというか、まだ興奮していて書けないので、そのあたりは、とみさわさんのレビューを読んでね→「宇宙ヤバイ。絶望の無重力アトラクション「ゼロ・グラビティ」を体験せよ」。
いつもの「とみさわ節」を封印しながらも、興奮を隠せない力作レビューになっております。

って、映画ということを忘れ、体験としかいいようのない91分。
終わって、あ、お茶買ったのに一滴も呑んでなかった。
と驚くが、いやいや宇宙空間であんなことになってたのだからお茶飲む暇があろうか、いやない。
と、からからに乾いた喉を潤すために、お茶飲みながら劇場を出て、心地良い疲れと助かった俺は助かったんだ俺(俺じゃないのに)という錯覚と、重力万歳&地球万歳という喜びに包まれながら、興奮さめやらず。
アルフォンソ・キュアロン監督作品を観なければ、どうして今まで観てなかったのかぎゃーという後悔の念と期待に包まれ、そのまますぐに『トゥモロー・ワールド』鑑賞会へ突入。
くはー、これも傑作。
『ゼロ・グラビティ』大好きな全人類のみなさんは、『トゥモロー・ワールド』も必見。子供が生まれなくなった近未来(原題は「Children of Men」)を描き、『ゼロ・グラビティ』同様、長回しによる緊迫感と奥行きのある映像で、あっという間の109分。

キュアロン監督作品の凄さは、「脳内の見たまんま」じゃないところだ。
なんつーのか。状況をシミュレートして描いている映像のよう。
いままでの映画が、監督が観たい世界をまんま作ろうとしていたのだ、ということに気づく。
たとえば、レストランで主人公と彼女が会話しているシーンだと、主人公と彼女を中心に絵作りをする。それ以外の人も、画面奥にいるが、それは主人公と彼女ほどに神経が行き届いていない。というか行き届かないようにしている。
画面奥の関係ない部分に観客の意識がそれないように、監督が描きたいものに意識が集中するように、映像を組み立てる。
それが普通だ。
ところが、『ゼロ・グラビティ』や『トゥモロー・ワールド』は、画面の奥まで神経が行き届きすぎているというか、画面全体がシミュレーションして作られたかのような、ある種の全体性を持っているように感じられるのだ。
映像的な伏線の豊かさに圧倒される。
ああ、なに言ってるのか、わかんない?
ごめんね。
観てよ、観て。とにかく。

【おまけコーナー!】
『ゼロ・グラビティ』を観て、興奮がさめない人のためのあれこれを紹介するよ。

1:「Aningaaq」を観賞する
『ゼロ・グラビティ』観た人は必見だ。『ゼロ・グラビティ』スピンオフ、ショートムービー。
Aningaaq (HD)。
観た人は「ああ、あれね」とニヤリ、粋なスピンオフです。観てない人には分からない映像なので、『ゼロ・グラビティ』を観てから、ぜひ。

2:「SomaFM:Mission Control」を流す
老舗ネットラジオサイトの「SomaFM」のたくさんあるチャンネルのうちのひとつ。
アポロ計画の通信記録音声を重ねたアンビエントミュージックがえんえんと流れる。BGMに最適。
『ゼロ・グラビティ』とちがって、緊迫感マックスの逆、カームダウン方面に空間を誘ってくれます。

3:「乗り物パニック映画特集」を聞く
映画大好きボンクラどもはみんな聞いてるTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、2011年2月2日に放送された「サタデーナイトラボ:乗り物パニック映画特集 By 三宅隆太監督」を聞くべし聞くべし聞くべし(検索するがよし)。
『ゼロ・グラビティ』以前の放送回なので、『ゼロ・グラビティ』はいっさい出てこないにもかかわらず、おおお、おおお、と膝を打つ話が飛び出てくる。途中、が出てくるのですが、これがまさに『ゼロ・グラビティ』。

1. 主要登場人物が集まり、乗り物に乗る
2. 何らかのトラブルが発生し、通常の運行が不可能になる
3. 最悪の事態が予測され、主要登場人物がパニックに陥る
4. 状況を打開すべく、何らかの作戦が実行される
5. 作戦が失敗し、事態はむしろ悪化する
6. 4〜5が何度か繰り返される
7. 打つ手がなくなり、絶望的な状況になる
8. リスクを伴う解決策を発見、迷った末に実行する
9. 策が成功し、事態が収束する
10. 主要登場人物が乗り物から降りる
ね?

4:アルフォンソ・キュアロン監督作品を観る
『ゼロ・グラビティ』すげぇって人は、『トゥモロー・ワールド』必見。レンタルで観たけど、セルDVD『トゥモロー・ワールド プレミアム・エディション』だとメイキング(あの、大興奮長回しシーンのメイキング!)がついてるんだって、買うよ、買いますよ、いまポチってしましたよ。
『リトル・プリンセス』は、少女小説「小公女」の映像化。少女セーラ役のリーセル・マシューズの体の動きの優雅さに見とれる(物語を語る手の動き、呪いのダンス、雪の振り込む窓辺でゆっくりと両手をあげる動き、などなど)。素敵な作品です。
他のキュアロン監督作品は、以下。
『最も危険な愛し方』
『大いなる遺産』
『天国の口、終りの楽園』
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

5:『ゼロ・グラビティ』、また観に行け!
はい、行きます。
(米光一成)