90年代のゲーセンは、人生の縮図だった……って勘違いするくらい、命を燃やしていたんだけども、今はどうだろう? 当時のあるあるネタと、時代が変わったんだなあというセンチメンタルの詰まった一冊です。

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『僕らが格闘ゲームに夢中だった頃』という本のタイトルを見て、書店でツッコミを入れました。
いや待ってよ! 今でも夢中なんだけど!?

1990年代の格ゲーブームの思い出を描いた、エッセイアンソロジー。
当時、スト2から初まり、格闘ゲームブームが到来しました。
対戦台が各地に作られ、個人商店にまでゲーム筐体が置かれました。
ゲーメストはゲーマーのバイブルになり、交流ノートが置かれ、対戦台にはコインを置いて行列を作りました。
スト2、餓狼伝説、サムライスピリッツ、バーチャ2、ワーヒー2、豪血寺一族……画面の中で勝つために、多くの少年(あと一部少女)が青春を費やしました。

ゲームそのものの、あるあるネタが多め。
ただこの本の特徴は「自分がどういう経験をしたか」がメインです。
一番個人的にしっくりきた台詞はこれでした。
「いやね? もうゲーセンに行くために学校行く感じ?」
わかる。
友達少ないけど、学校終わればワーヒー2のジャンヌでジャスティスソード出せる!とか。
今日体育あって学校死ぬほど行きたくないけど、学校終わればサムスピで紫ナコルル使える!とか。
ぼく、格ゲーなかったら学校行かなかったと思う。

とはいえ、90年代のゲーセンは天国ではありません。むしろ戦場でした。
ハメ技からのトラブルによるリアルファイトは、風物詩だったもの。台パンの音が日常茶飯事だったのが描かれます。
当時は『ピコピコ少年』にあるように、蹴ったりツバかけたりする人もいました。是非比較して読んでみてください。
もっとも一番怖いのは、レバーの丸いやつが試合中スッポ抜けることでした。

男女関係の生々しい話も載っています。
「姫」扱いされていた、その店内での人気常連女性の話とか。
ゲーセン内の男女の出会い。常連によるコミュニケーションノートでの交流が主流でした。
サムスピの橘右京に夢中になって通っていたら、友達の女の子が店員さんと付き合ってしかも破局した、なんて話も。
鳥肌立っちゃうね。

薄暗い中(明るいと反射して画面が見えないから)で、ローカルルールに則ったキリキリ感、楽しかったんです。
「龍虎乱舞すげえ!」とか「ナコルルまじ最高」とか「ラウ使うんじゃねえ!」とか「ペットショップ禁止!」とか。自作ダイヤグラム、作りましたとも。
作家それぞれが、90年代自分がどう過ごしていたのかを描いているので、格ゲーへの向きあい方の比較もできます。
キャラ愛で通っている人もいれば、卑怯でも勝ちにこだわる人もいる。このへんも格ゲーならではです。

さて、このアンソロジーを象徴するような一節を引用します。
「発売タイトルが一気に増えて、友達と同じゲームを遊ばなくなって」「みんな忙しくて、じょじょに集まらなくなって……」
「昔は良かった」というだけの本ではありません。ぶっちゃけ今の方がキレイで入りやすい。
ただ、かつてはみんな「スト2」とか「餓狼SP」とか、同じゲームに顔つき合わせてやっていたけど、気がついたらみんな忙しくなっていた。社会人になって通う習慣が無くなった。通っていた小さな店は次々潰れた。新声社もなくなった。
格ゲー自体はずっとあっても「時代は変わったんだな」と感じた。

だから、この本のタイトルは『僕らが』です。
個々それぞれ格ゲーには今も夢中かもしれない。
ただ、友達同士でなけなしの小遣いを握りしめたり、身動き取れないような空間で目をギラギラさせたり、ノートで知り合いが増えたりした時代は、過去形です。
(今ももちろん、あるところにはありますよ)
ゲーセン通い経験がある人なら、「いやいやおれはこんな経験したよ」と更なる90年代トークをしたくなります。
SNK寄りの話が多いので、是非続編でカプコン寄りの話もお願いします。

『僕らが格闘ゲームに夢中だった頃』

(たまごまご)