ブラジルW杯ベスト8への道

 2014年に開催されるワールドカップ(W杯)ブラジル大会。この4年に一度の祭典を誰よりも楽しみにしているプロ野球選手がいる。それがオリックス・バファローズの井川慶投手だ。子どもの頃からサッカーの魅力にはまり、今も時間さえあれば、日本、世界を問わずテレビ観戦に興じているという。そんな球界屈指のサッカーフリークである井川投手にW杯ブラジル大会の注目国、注目選手、そしてザックジャパンの可能性を語ってもらった。

―― プロ野球界きっての『サッカー好き』とうかがいました。

「確かに好きですね(笑)。Jリーグが開幕したのは僕が中学2年生の頃で、当時は部活動が忙しく、スタジアムまで観戦に行くことは出来なかったのですが、僕の地元である茨城県の鹿島アントラーズのファンになり、よくテレビ観戦していました。また、僕がプロ野球選手になってからもW杯は欠かさず観ていますし、阪神に在籍していた時はご招待いただいてガンバ大阪や水戸ホーリーホックの試合を観に行きました。生で観戦すると、ボールの動きだけでなく、たとえば味方が攻めている時に守備の選手は何をしているのかとか、ゴールキーパー(GK)はどんな動きをしているのかも楽しめる。くわえてスタジアムの臨場感もすごくいい。スタジアムに入る前から、歓声や応援のチャントが聞こえてくる感じがたまりません」

―― W杯はいつ頃から見始めたのですか?

「1994年のアメリカ大会はオンタイムで見ていましたし、僕のプロ1年目の時に開催された1998年のフランス大会もほとんどの試合をビデオ録画して見ていました。そのアメリカ大会の時に大活躍したベルギー代表のGKミシェル・プロドームのプレイに感動して、それから大ファンになりました。W杯でいうなら、2002年の日韓大会も長居スタジアムでの日本対チュニジア戦、神戸ウイングスタジアム(現ノエビアスタジアム)でのブラジル対ベルギー戦を生観戦しました。そのうち日本戦は、当時阪神のチームメイトだったカーライルというアメリカ人投手と一緒に行ったのですが、日本が勝って決勝トーナメント進出を決めた瞬間、彼がなぜか『USA! USA!』と大興奮していたのを今でも覚えています(笑)」

―― それにしても、GKのプロドームというのは渋いですね(笑)。

「以前、仲間たちと草サッカーをしていた時はGKをしていて、プロドームのような動きができればいいなと思いまして......以来、『尊敬する人は?』と聞かれると、彼の名前を挙げるようにしていました。今の日本代表の試合を見ていても、ついGKの川島(永嗣)さんのプレイに目がいってしまいますし、川口(能活)さんも大好きな選手のひとりでした。川口さんは、清水商時代に全国高校サッカー選手権大会で優勝した頃から見ています。GKって、どれだけ試合で活躍しても、最後の最後で失点したらこれまでの活躍が帳消しにされてしまうようなところがあるじゃないですか。それが野球のピッチャーに似ているというか。ピッチャーも、たとえその試合で好投していても、最後にホームランを打たれて敗れたら、『オマエのせいだ』ということになりますから。そういう共通点もあって、ついGKに目がいってしまうのかもしれませんね」

―― サッカー観戦が、野球をする上でヒントになったりすることもあるのでしょうか。

「それはあまりないですね(笑)。ただ、サッカーってすごい運動量を求められるじゃないですか。僕は練習でランニングをするのが苦手なんですが、『サッカー選手はもっと走っているぞ!』と自分に言い聞かせて、練習に励むことはよくあります」

―― 日本代表の試合もご覧になられたりしますか。

「もちろんです。最近は生で観戦する機会はないですが、テレビでは必ず見ています。世間では、日本代表についていろんな評価をされているようですが、僕は基本的にサッカーを楽しんでいるだけですし、日本の代表としてピッチに立つ彼らを純粋に一生懸命応援するだけです」

―― その日本代表も出場するW杯ブラジル大会が来年開催されます。ズバリ、優勝国はどこだと思いますか。

「6月のコンフェデレーションズカップはハイライトでしか見ていないので予想するのは難しいですが、開催国のブラジルは決勝に進むと思います。その対戦相手となるのが......改まって考えると難しいですね。前回の南アフリカ大会の時は、イングランドを推していたんですが、決勝トーナメントの1回戦でドイツに負けてしまって。僕の予想なんてそんなもんです(笑)」

―― でも、あえてブラジルと決勝を戦うチームを予想すると?

「前回大会優勝チームのスペインと言いたいところですが、なんとなくベスト4で負ける気がするんですよね。なので、決勝の相手はドイツと予想します。ドイツは前回大会3位ですし、今年のUEFAチャンピオンリーグの決勝もドルトムントとバイエルンのドイツ勢対決でしたからね。近年はすごくチーム力も高まっていますし、期待できると思います。あと注目はイングランドです。さっきも話したように、前回大会でイングランドを推していたのに期待を裏切られましたからね。僕自身のリベンジという意味も込めて、イングランドがベスト4に入ると思います」

―― ということは、準決勝でスペイン、イングランドを破ったブラジルとドイツが決勝で激突するという予想ですね。

「ありきたりの予想になっちゃいましたね(笑)。それで優勝チームですが、開催国ということもありますし、チームの実力を考えてもブラジルだと思います」

―― それでは注目選手を挙げてください。

「日本代表なら同じ歳の遠藤保仁選手。彼はプライベートでも親しくしている選手のひとりで、日本代表の中心選手としてもバリバリ活躍していますからね。彼の活躍は励みになりますし、今度で3度目のW杯ということで経験も豊富です。日本代表は若い選手が増えていますし、だからこそ遠藤選手のような存在が必要になってくると思います。とにかく全力を出し切って頑張ってほしいですね。外国の選手なら......やっぱりGKになりますが、スペイン代表のカシージャスですね。彼が18歳ぐらいでレアル・マドリードの試合に出始めた頃から見ている選手ですから。思い入れも強いですし、ぜひ頑張ってもらいたいです」

―― 同じスポーツ選手として、井川さんが考える「世界で勝つ秘訣」は何だと思いますか。

「まずは周りに流されず、自分をしっかり持ってプレイすること。その上で、自分がすべきこと、できることを精一杯やり切ることではないでしょうか。あと重要になるのはコンディショニングですね。ブラジルは南半球ですし、日本とは環境が違う国でどれだけベストコンディションで試合に臨むことができるかも大きなカギになってくると思います」

―― ザックジャパンに期待することは何ですか?

「ザッケローニ監督が就任されてから、攻撃の選手にタレントが増えた気がするので、彼らがどんな活躍をするのか楽しみですね。もちろん守備は大事ですが、純粋に見ていて、点が入る試合の方が面白いですし、世界の強豪相手に打ち合って、日本が勝てるのかというところにも注目しています」

―― ベスト8の可能性はあると思いますか?

「それぞれが自分の仕事をこなし、なおかつチームとしてうまく機能すれば、十分チャンスはあると思います。以前と比べると、世界との差はあまり感じませんからね。それよりまずはグループリーグを突破してほしいですよね。それだけでも十分すごいことだと思います」

―― 井川さんにとってサッカーとは何ですか?

「サッカーは競技人口がすごく多いですし、世界でいちばん人気のあるスポーツだと思います。つまり、アスリートナンバーワンを決めるスポーツとも言えるので、同じスポーツをする者として、純粋にサッカーに対して憧れと面白さを感じています」

―― それでは最後に、井川さんにとって野球とは?

「野球は......自分にいちばん合ったスポーツかなと(笑)。サッカーのように、試合中にいっぱい走ることもないですし。ピッチャーはプレッシャーのかかるポジションではありますが、自分の出来がチームの勝敗に影響しますし、やりがいを感じながらやっています」


高村美砂●文 text by Takamura Misa