ブルーノートのロゴと配色がニクイ。『ブルージャイアント』は『岳』の作者が、自由な表現としてのジャズを、若い青年を通じて描いていく物語。力いっぱいジャズってます。

写真拡大

山岳救助を通じて「なぜ山を登るのか」を『岳』で描いた作者石塚真一。新作『ブルージャイアント』では、ジャズプレイヤーを目指す少年を描いています。

……ところで。「ジャズ」ってなあに? よくわかんない。
この疑問を、何も知らない主人公がジャズにハマる設定にすることで、膨らませました。

元バスケ部の少年、大。
ある日友人に連れられて見に行ったジャズの生アドリブ演奏に感動し、一人で夢中になってテナーサックスの練習をはじめます。
ところが楽譜は全く読めない。吹き方は見よう見まね。スタンダードナンバーも知らない。
リードを竹から自分で削ってみちゃったりまでします。(通常はダンチクから作りますし、そもそも自分でつくれるもんじゃない)
本当に無知のまま突き進んでいく。「絶対にオレは世界一のジャズプレイヤーに、なる」とまで言いはじめます。
どこに感動したら、こんな風になるの?

彼の感情は、河原で夕日を見るシーンで垣間見ることが出来ます。。
サックスの練習をするために河原にいつも向かうのですが、その日いつもより夕日がでかい。
大は言います。「ジャズってんなあー!」。
いいね、その動詞! どこかで使おう。
彼が心うたれたのは、音楽のジャンルではなかった。
変わり続ける瞬間の力です。
求めていた「変わリ続けるハゲしいもの」が、ジャズにあったということ。

ちょっとだけ作中にでてくる音楽について、補足説明を入れておきます。
大が好んでいるジャズは「ハードバップ」と呼ばれるスタイル。
出てくる名前が、ハンク・モブレー、ベニー・ゴルソン、デクスター・ゴードン、ジョニー・グリフィンなあたりで、分かる人にはニヤリなはず。
元になる「ビバップ」はコード進行にあわせながら激しく即興演奏をぶつけあう、ボクシングのようなスタイルでした。
「ハードバップ」はそれを引き継いでアドリブ重視にしつつ、自由な表現と、メロディアスな聴きやすさをミックスしたものです。
詳しく知りたい方は、こちらの記事がわかりやすいです。
「ハード・バップ」って、なに? [ジャズ] All About
大はジャズのウンチクを全く知りません。
求めるがままに「ハゲしいの」を探したら、このジャンルにたどり着いちゃってるのが、いいんだ。

さて、彼がはじめて人前で吹いた時は、あまりにもアドリブが強すぎて、客に怒鳴り散らされます。
「うるさいんだよ!!君は!!」「歌聴ぎに来てんだよ!!ジャズを聴ぎに来てんの!!」「頼むから飲める演奏してけれよ!?」
あー、なるほどね。「ジャズは大人なムードでゆっくり聞くもの」「オシャレなもの」という考えの人には、力強すぎる大のアドリブは、ただの騒音。わからんでもない。
かつて、ビバップ自体1940年代、演奏は盛り上がるけど楽しむ音楽ではなくなった、という批判を浴びたことがあったのを思い出します。

認められないことも多い。
それでも大は自由奔放に、悪く言えばめちゃくちゃに、サックスを持って我が道を突き進みます。
常に全力で吹き続ける、がむしゃらな彼の姿を描くことで、「ジャズ」そのものを表現する漫画です。

『ブルージャイアント』のイメージCDも発売されています。
ハンク・モブレー、ソニー・ロリンズ、セロニアス・モンク、クリフォード・ブラウンなどのハードバップ奏者、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、バド・パウエルなどのビバップ奏者の演奏からよりどりみどり集めてきています。
作者セレクトのアルバムだということで……作者もジャズってんなあ!

石塚真一 『ブルージャイアント』(Kindle版)
『ブルージャイアント』 CD

(たまごまご)