firefox_os_dev_preview

写真拡大 (全4枚)

アプリをどちらのコードで書くかという議論が、アーキテクチャーの更新や分析ツール見直しの必要性といった本当の課題を覆い隠してしまっている。

HTML5かネイティブか。辛辣な意見が毎日のように飛び交っている。両者とも自分の正当性を証明するデータを持ち、議論のための理論武装もできている。この対立は当分続きそうだが、実はこの議論の中に、モバイル・アプリケーションについて企業が直面している本当の問題が埋もれてしまっている。モバイルに適したバックエンド・アーキテクチャーを持っているだろうか?ビジネス分析は正く行えているだろうか?企業やブランドや開発者たちは、アプリがどのコードで書かれるべきかを議論する前にそれらの準備を整える必要があるのだ。

HTML5かネイティブか?実はその質問自体が間違っている

モバイルの議論でよくフォーカスされるのは、爆発的に成長するデバイスとオペレーティング・システムに対し、優秀なアプリをどのようにマルチプラットフォームで展開させるか、という点だ。これが最近の、HTML5派とそれに対抗するネイティブ派による一連のテクノ宗教戦争を生じさせているのである。

この議論の叫び声にかき消されてしまっている、非常に重要な2つの問題がある。まず第一に、いままで企業を支えてきた従来のウェブ・アーキテクチャーはもはや古びてしまっている。モバイルが求めるパフォーマンスのためのメカニズムやアプリケーションへのデータを転送などによって、古いアーキテクチャーには相当な負荷がかかっている。金属疲労を起こした吊り橋のように、いつ壊れてもおかしくない状態なのだ。

第二に、モバイルアプリが実際のビジネスに与える影響について、多くの企業は全く分かっていない。従来のアプリケーションは必ずROI(投資対効果)測定をベースに運用されていたものだ。しかしモバイルのアプリケーションについてはほぼ勘や当てずっぽうで投資計画が作られており、まるで博打である。

見た目は良くても中身のデータが無ければ意味がない

古いウェブの時代に定義されたミドルウェアやバックエンドのデータ・アクセスなどのスタンダードは、モバイル界では通用しない。モバイル界では従来とは異なるデータ・タイプとソースが使われ、フォーマットや転送されるデータ・サイズも異なる。さらにトランザクションの規模も使用するプロファイルも違っており、常時接続を前提とすることすらできないのだ。Forrester Research社に言わせれば、モバイルは「ウェブ・アーキテクチャーを極限まで酷使している」状態なのである。

ウェブ世界にモバイルが与える最初の課題は、データ・ソースの拡張と多様化である。優れたモバイルアプリというものは、データをプライベートな企業システムからだけではなくクラウド(例えばソーシャル・メディア)や企業SaaSシステム(例えばSalesforce)、そしてやがてはスマート家電が構成する「モノのインターネット」からさえもデータを引き出して結合しなければならないのだ。

課題はこれだけではない。モバイル・ユーザーはいつでも/どこでもアプリを起動するため、これがアプリを通じたトランザクションの規模を増大させる。アーキテクチャ側もこのニーズに柔軟に対応しなければならない。その上モバイル・デバイスはいつ通信が途切れるか分からないため、オフラインのときにもアプリの機能を継続させつつ、接続が回復したタイミングでうまくバックエンドと同期する必要があるのだ。以下の表が示すように、モバイル・アプリにおける接続性はあらゆる側面でウェブのそれとは大きく違っている。

この新しい時代で成功するために、企業にはモバイルに最適化されたAPIとそれをバックアップするスケーラブルなクラウド・インフラストラクチャーが必要だ。正しくデザインされていれば、これらのAPIは次の3点を備えているはずである。

統合力:データを、どんな場所に存在するどのようなデータ・ソースからも集めてくる能力。

最適化:データセットを、モバイル・アプリの転送サイズに最適化する能力。例えばもし一般的なウェブ用のAPIが20フィールドを返すとするなら、モバイルは5フィールドくらいが適当かもしれない。

変換力:これまでの古いデータ形式(XMLやSOAPなど)からモバイルに最適化された形式(例えばJSON)に変換する能力。

我々の独自調査でも、企業がこの流れに気づきはじめているという結果が出ている。調査の対象となった企業のうち40%がモバイルに最適化されたAPIを最優先投資課題としているようだ。これらのAPIに柔軟なスケーラビリティとパフォーマンスが加わることで、次世代の企業インフラストラクチャーに関する新しいスタンダードへの道が開かれるだろう。

いい加減なフィードバックのせいで、アプリ戦略は博打状態

我々はデバイス社会に生きており、そこではユーザーこそが支配者だ。アプリが気に入らなければさっさと消去して、もっと良い物を探せばいい。

ユーザーの影響力の強さを証明しているのが、星形のアイコンを使ったアプリのランキング・システムだ。星が1つのアプリはすぐに消え、五つ星アプリが世の中を支配する。しかしこのランキング・システムは極めて未熟である。アプリのどこが良くてどこが悪いかを判断できるようなデータが少なすぎる。問題はアプリの安定性か、パフォーマンスか?それともインストールの問題、あるいはデザインなのだろうか?

このような雑なランキング・システムでは、企業が自分たちのアプリの理解を深めるために必要な情報が何も得られない。レーティングだけではユーザーの好み(怒り)やアプリの使われ方、次のバージョンで必要な戦略等について知ることはできないだろう。

データ・アクセスにおける問題と同様、モバイルではアプリのパフォーマンスの計測や分析についてもウェブ時代とは別の方法が必要となる。優れたモバイル分析ではアプリの動作だけでなく、ユーザーの動向も観察しなければならないのだ。

アプリの動作を理解することは重要だ。例えばアプリがクラッシュする際にはアラートを発動させて通知を行うべきだ。そうしないと、ユーザーの不満が爆発する前に問題を解決することはできない。

しかしアプリの動作を観察するだけでは十分ではない。全体像を見るためには、ユーザーの動向も把握する必要があるのだ。ユーザーはどれぐらいの頻度と長さでアプリを利用しているのか?いつどこでアプリを起動するのか?どのデバイスやプラットフォームで使っているのか?そして、一番使っている機能は何だろうか?

アプリを開発する際には必ず何らかの要件定義が行われるものだが、アプリを公開する際にも必ず何らかのユーザー目的が設定されるべきである。上記の分析は、アプリを改良するための定量的な評価方法だ。ユーザーの利用状況に関するデータをほとんど得ることができなかったモバイル以前のアプリケーションと、モバイル・アプリケーションとの決定的な違いはここにある。

「HTML5かネイティブか」という議論を眺めているのは楽しいが、それによってより重要な問題から注意を逸らされていることに気付かなければならない。古いウェブ時代のアーキテクチャーや戦略に囚われてしまっている企業は、HTML5とネイティブのどちらを選んだにせよ、モバイルに精通した競合他社に置いていかれてしまうだろう。クライアント側の技術がどうこうという問題ではなく、「モバイル」というプラットフォームこそがポスト・ウェブの世界そのものなのだから。

編集部注:本記事は、AppceleratorのCTO、ノーラン・ライト氏によって執筆されました。

Nolan Wright
[原文]