急成長メディア「Snapchat」が時代に求められている理由
モバイル、ビジュアル化、プライベート、無料、オープン。Snapchatにはすべてがある。
Snapchatでは、1日に4億枚以上の写真がやり取りされており、ユーザー層は主に中高生が多い。しかし、サービスの成功は、彼らの一部が行っているSexting(※)に依存しているわけではない。確かに中高生とSextingはSnapchatを成長させてきたが、それがこのメディアのすべてではないのだ。
※Sextingとは「sex」と「texting(メッセンジャーやSMSなどのメッセージサービス)」を合わせた造語で、Snapchatの数秒でメッセージが消えてしまう仕様を逆手に取り、性的な画像等を送り合う行為のことだ。
SnapchatはIT業界では引く手数多の状況にある。最近もfacebookからの30億ドルの買収提案を断ったばかりだが、既に40億ドルのバリューで2億ドルを調達している中国のインターネットサービス大手「テンセント」とさらなる大規模な資金調達ラウンドを検討していると言われている。
Snapchatとはそこまで価値あるプラットフォームなのだろうか。写真や動画を友達に送ることができ、受け取った側が開封したら数秒後にサーバーから自動的に消去される。ただそれだけであり、一見すると何でもないサービスに思えてしまう。お気に入りの画像や大切なひとときを保存できないサービスを一体誰が使いたいと思うのだろうか。と、普通は考える。これほど単純なサービスがなぜ(いまのところ)世界を席巻し、マネタイズできるかもわからないのに投資家達が群がるのか考えてみよう。
答えはとても簡単である。Snapchatは、現在のインターネット社会に完全に適したサービスなのだ。重要な3つの要素がこのサービスを価値あるものにしている。
1.「The Visual Web」〜情報のビジュアル化〜
まず1つが、「情報のビジュアル化」とでもいうべきだろうか。活字より写真、写真より動画といったように、なるべくビジュアル化されたメディアの方が好まれるというものである。例えばTwitterもvineを始めたし、Pinterestの止まらぬ人気もその一つであろう。こういった企業は高く評価され、何千億円にも上るバリュエーションがつくことが多い。たとえ赤字企業であってもだ。例えばGoogle+、Pinterest、Facebook、Flickr、Twitter等はすべてこの「情報のビジュアル化」企業に分類でき、すべての企業が投資家から高い評価を受けている。(特にPinterestは近々で調達の動きがあるだろう。)
Facebookを例に挙げるとわかりやすい。自分の写真や友達の写真をインターネットで共有するには、Facebookのプラットフォームが、最大で最良の方法であると言える。Facebookは画像とテキストで形成され、今では1日あたりにアップロードされる画像数は世界一だ。画像を用いたやりとりは、Web2.0(いささか古くさいキーワードに聞こえるかもしれないが)の最大の成長要因だった。
Snapchatは次のWeb3.0時代にも大きな優位性を持っている。モバイルの普及によって、情報のやりとりやコミュニケーションの方法は根本的に変わりつつある。Snapchatは元々SMSやインスタントメッセージから派生したサービスだ。時代の最先端を行く「プライベート」で「ビジュアル」なメッセージ・ツールなのである。
2.個人情報保護という幻想
Facebookは皆に愛されたソーシャルネットワークだった。しかしユーザーのプライバシーを営利目的に使いはじめた。今ではFacebookを懐疑的にみるユーザーも多く、自分のデータがFacebook自体はもちろん、パートナー企業や広告主、米連邦政府や全く知らない第三者へどう共有されているのかを懸念する声が後を絶たない(中高生までもが心配している、いや中高生だからこそ心配なのかもしれない)。
そろそろ現実と向き合おう。インターネットにはプライバシー等存在しない。あるのはプライバシー保護という幻想だけだ。最近ではその幻想すら崩れかけているようだが。
インターネット上のプライバシー神話は今年の米国家安全保障局(NSA)のスパイ疑惑で崩れたと言ってもいい。インターネットを使っている以上、この地球上の誰もがNSAの監視の目から隠れる事はできないのだ。NSAは躊躇することなくあなたのインターネット上の個人情報を覗き込み、Google、Microsoft、Apple、Facebook、Twitter等の各企業にもあなたの情報を根掘り葉掘り要求するようだ。アメリカ政府はどうやらプライバシーという概念を知らないらしい。
それに加え、最近のインターネット商法の常識としては「サービスに対してお金を払わない場合は、自らが商品になる」ということらしい。つまり、無料で使えるサービスの裏には必ず自分も何かを提供しなければならないカラクリがあるということだ。例えば、広告の入った「無料」サービスを使っていれば、広告を閲覧する行為が「あなたの行動パターン」として広告主に売られている。もちろん個人情報から得られる人物像も広告主にとっては重要で、その情報が多ければ多い程、精度の高い広告に繋がる訳だ。タダほど高い買い物はない。
インターネットは無料だが、実は広告収入で運営されている。Google、Facebook、Twitterは、すべてあなたの個人情報から大金を生み出しているのだ。
一方で、プライバシーの侵害に対するユーザーの反発も年々増加しており、無視できない状況になってきた。Facebookが新しいプライバシー設定を打ち出す度に問題になっているし、NSAの非道な行為がクローズアップされる度に人々はインターネットで個人情報を公開することを恐れるようになっている。
まさしくこんな時代だからこそSnapchatは成功していると考えられる。Snapchatの売りは、(本当かどうかは分からないが)開封数秒後にデータが消えてしまい、この世から完全に無くなる事だ。Snapchatこそ次世代技術の「Mission Impossible」なのだ。本当にSnapchatが完全に「プライベート」なのかは分からないし、snapが消える前にスクリーンショットを撮ることはどんなスマートフォンでも簡単にできる。また一部の画像はキャッシュに残ったりもするようだ。しかし、「プライベート」というコンセプトを打ち出す事こそが、このサービスの利用を大きく促しているのである。
3.メッセージサービスのNext Generation
AOL(America OnLine)こそがインターネット上でのやり取りをプラットフォーム化した最初のITの巨人である。1990年代初頭、AOLのチャットルームを中心に普及し、インターネットは人々のコミュニケーションツールとして進化してきた。様々なメッセージサービスがある中で、Google、BlackBerry、AppleやMicrosoftは自社サービスの開発を続けている。それは、コミュニケーションツールこそがインターネットの根幹にあるからだ。
ただ、自社サービスとしてソフト化されたメッセージングサービスの問題は、ユーザーがその世界に囚われてしまうことだ。Appleは、ほとんどのメッセージを問答無用でiMessageを経由させる。Google もつい最近AndroidのSMSアプリをGoogle Hangoutsに置き換えてしまったし、Microsoftも同じく自社の作った世界からユーザーを逃がしたくないようだ。
一方でSnapchatは、人気メッセージアプリWhatsAppと共にこのモデルを崩壊させた。
両アプリは、無料でAndroid、iOS、Windows Phoneのどれでも使用可能である。特に何かを売りつけられる訳でもなく、ユーザーの囲い込みをしようともしていない(これはその後の展開にいい影響を及ぼすとは思えないが)。
モバイル、ビジュアル化、プライベート、無料、オープン。これらが今インターネットのトレンドとなっている。Snapchatはまさしくこれらをすべて取り込んだビジネスであり、だからこそ絶大な人気を集めているのだ。これは「snap」という名前が表す通り、すぐに消えてしまう一時的なブームなのかもしれない。しかし、これほどまでにすべてのトレンドを持ち合わせているビジネスが他にあるだろうか。これからの動向に期待したい。
Dan Rowinski
[原文]