この正五角形は10個のサブユニットが環状に配置した構造で、10個ある触媒ポケットには、酵素の働きを助ける補酵素の1種「ピリドキサールリン酸(PLP)」が結合している。

PLPはビタミンB6が体内で形を変えたもので、SelAのほか、さまざまな酵素の活性を担う存在だ。

そしてSelAの分子量は、通常のタンパク質が数万であるのに対し、50万を超える点が大きな特徴である。

具体的には、SelAとtRNASecの複合体では、合計10個のtRNASecがSelAに結合しており、総分子量81万の超巨大タンパク質-RNA複合体を形成しているのだ(画像4)。

この大きさは、すべての細胞に存在するタンパク質合成の場であるリボソームを構成する2つの粒子の小型の方である「30S粒子」(大型は「50S粒子」と呼ばれる)も匹敵するサイズである。

また、SelAと共通の先祖を持つほかの酵素は、2量体か4量体で機能しているのに対し、SelAは10量体であり、このような巨大な構造はほかに例がない。

そこで研究チームが次に取り組んだのが、なぜ超巨大な複合体が必要なのか、その詳細な機能についての調査であった。

その結果、SelAの中で、隣り合う2個の2量体に含まれる4個のサブユニットA〜D(画像5・6)は、1つのSer-tRNASecに対し、協力して4つの異なる作業を担うことがわかったのである。

サブユニットAのN末端ドメインがtRNASecの特徴的なDアームと結合してtRNASecを識別している仕組みだ。

具体的には、サブユニットAが(1)「Ser-tRNASecを識別し」、サブユニットAとBが(2)「Ser-tRNASecを固定し」、サブユニットCが(3)「Ser-tRNASecの先端をつかまえ」、サブユニットCとDが(4)「その先端にあるセリンをセレノシステインへと変換する」、という連続した作業により、1段階でセリンをセレノシステインに変換するとわかった。

なお、サブユニットはすべて同じ構造であるため、隣のSer-tRNASecに対しては、サブユニットCが(1)を、サブユニットCとDが(2)を、サブユニットEが(3)を、サブユニットEとFが(4)を担う。

また、向かい合うSer-tRNASecに対しては、サブユニットDが(1)を、サブユニットDとCが(2)を、サブユニットBが(3)を、サブユニットBとAが(4)を担う、というように、各サブユニットは4つの作業をすべて担うことができる。

これらのサブユニットをそれぞれのtRNASecに対して機能させるためには、2量体の配置が重要であり、これを実現するためにバクテリアでは、超巨大な正5角形型の星形構造を産み出したことが判明した。

さらに、環状に5つの2量体を配置することで、全体では(1)〜(4)の作業が10カ所で可能である。

もし、直線状に配置した場合は、両端に無駄ができるため、全体で8カ所だけとなり非効率的だ。

このように環状であることの重要性も判明した(画像5・6)。

また、セリンからセレノシステインへの変換は、反応性に富むSeを組み込む困難な反応であると共に、tRNASerなどほかのtRNAにSeを導入しないよう、正確に識別する必要がある。

そのメカニズムを詳細に調べたところ、SelAは、星型の構造から突出した領域(N末端ドメイン:画像3・右、画像5)が、tRNASecが持つ固有のDアームと結合することで、tRNASecを正確に識別しているとわかった(画像7)。

さらに、ヒト型で働くSepSecSとバクテリア型で働くSelAでは、セリンからセレノシステインへの変換を触媒する部位の構造がまったく異なることも判明。

セレノシステインを合成するこれらの酵素は、互いの構造も反応メカニズムも異なる。

つまり、ヒト型とバクテリア型の酵素は、別々の先祖から、それぞれ独立にセレノシステインを合成できるように進化(収れん進化)したという非常に興味深いこともわかったというわけだ。