日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

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弊社のコンサルティングの主たるテーマは新規事業と新市場開拓であり、それに業務改革のデザインが続く。その過程で、そもそも手探りで顧客にとっての価値の在りかを探る必要に駆られるとか、環境が変わってしまったために新しい付加価値を提案しないと通用しなくなったといった事情を背景に、営業改革をお手伝いすることが時々ある。

このシリーズではそうしたいわゆる「提案型営業」とか「コンサルティング営業」とか呼ばれる価値創造型法人営業を念頭に、営業改革における課題を考えていきたい。

最初に申し上げておきたいのは、「営業は科学だ」ということである。このとき対比される概念は「経験主義」とか「精神論」といったものであるが、さすがに昨今、「KKD(経験、勘、度胸)が一番重要ですよ」と声高に云う人は少ない。しかし実際に営業の現場がやっていることは十年一日のKKDの世界、という企業はまだまだ少なくない。

「営業は科学だ」と聞いて、ビーカーとフラスコをイメージしないで欲しい。「仮説と検証の繰り返しで進歩する」と申し上げたいのである。

例えば新しい客をどう喜ばせて次の受注につなげるか、個々の営業マン(「女性の営業職もいるぞ」というお叱りはごもっともだが、云い易いのでご勘弁を…)は必ず仮説を頭の中で描く。優秀な営業マンの場合、その仮説の精度が高いうえに、検証サイクルが速く、修正・調整も適切である。そしてその営業プロセスそのものには無駄が少ない。

営業に疎い人ほど、営業のベテランがぽろっと漏らす「やっぱり営業は経験ですよ」という言葉に妙に納得してしまいがちだが、実際のところは、科学的アプローチで工夫している優秀な営業マンには、どれほど長い経験があるベテランでもあっさりと成績を逆転されてしまう。そんな例を小生は随分観てきた(小生自身も元法人営業マンである)。

そんな科学的な営業のやり方に改革しようとしたら、その改革アプローチもまた科学的であるべきだ。すなわち、「仮説を描き、事実データに基づいて検証する」態度が不可欠である。

改革プロジェクトでは、一つひとつの状況や誰かのコメントを、「事実」に基づいた客観的なものなのか、個人的な経験や認識に基づいた「意見」なのかを峻別する態度が常に求められる。そして「事実」ベースであれば説得力も強い。

例えば、オフィスで攻略作戦を考えている営業マンに向かって、ベテラン営業上がりの上司が「理屈より行動だ」といった精神論的な考えで、外出するように闇雲に仕向けるケースがいまだによくある。しかし作戦なしに行き当たりばったりで訪問するアプローチでは、実は成果は高がしれている。それは我々にとっては常識である。

しかしその常識は、異なるアプローチを比較したことがない「経験主義」の信者には往々にして通用しない。同じ営業マンが一定期間、そうした「行き当たりばったり訪問」アプローチで上げる成果と、「準備に時間を掛けて計画的に訪問」というアプローチで上げる成果とを比べて、「実証」するまでは納得してくれない。

それほど「経験主義」というのは、営業現場では根深い「信仰」なのである。

(本稿は2013年3月のコラム記事に加筆修正したものです)