基本はすべてアウト! 特に注意すべき3条件

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■200億円以上の訴訟になる可能性も

「ハグをしようが、頬を合わせようが、全く気にならない。むしろ親愛の情を感じる」という絶対的な信頼関係がある男女であれば、もちろんセクハラは起こりにくい。だが、その関係性は、あなたが勝手に都合よく解釈しているものではないだろうか。「自分(たち)に限ってそんなことはない」――セクハラは、そうした勘違いから起こるものだ。

たとえば、普段から和気あいあいとした雰囲気の職場で、歓送迎会が開かれることになったとしよう。お酒もほどよくまわり、最後に記念撮影をすることになった。すると部長の男性が特別な意識もなく、部下の女性の腰や肩に手を回した。女性は嫌だったが、場の雰囲気を壊したくないがゆえに、笑ってやり過ごした。

ここまでであれば、損害賠償請求が成立するほどのことはない。ところが、その後も飲み会のたびに部長が女性の肩に手を回したり、手相を見てあげるといって手に触れたりするとなれば話は別だ。セクハラとして訴えられても致し方ないだろう。

上司と部下の関係は、男女という関係に加え、立場上の力関係による“強制”が生じかねないだけに複雑だ。たとえば強制猥褻行為といえば、殴る蹴るの暴力行為によるものと考えられがちだが、圧倒的な力関係が働く場合にも、一種の強制力が働くと考えることも可能だろう。上司と部下という関係は、まさにそうした関係にあるとみなされかねないわけだ。

おさわりではないが、上司と部下の関係においては疑似恋愛型のセクハラも要注意。上司の男性が部下の女性を夜の食事に誘えば、部下としては「つき合いが悪い」と思われたくないからついていく。会話もそれなりに上司に合わせるだろう。すると上司はお酒を飲んでいることもあり、楽しい気分になる。やがて「この娘は自分のことを嫌ってはいないな」と勘違いをし始め、それが2、3度と続くと、もう一歩を踏み出す行為に出てしまう。そこでようやく部下に拒否され、目が覚めるのだ。

この典型例で最も有名なケースが、2006年に発生した北米トヨタ・セクハラ事件。会社側の対応にも問題があったこともあり、当時の為替レートで200億円以上の訴訟を起こされた。結局、和解が成立したので真実は藪の中だが、セクハラによって大きな代償を払わなければならなくなったケースは枚挙に暇がない。

もちろん上司と部下にも恋愛の自由はある。だが、特に上司に家庭がある不倫関係では問題が起こりがちだ。不倫が崩れた途端に「セクハラがあった」と訴えられるケースが多々あるのだ。かつての合意などどこかへ追いやられ、最初の頃から「意に反した」として訴えられるから厄介だ。

もったいないことに、訴えられるのは功を成し名を上げた人が多い。地位・権力・お金を得ると、どうしてもそれを行使したくなり、女性に向かってしまうのだ。だが結局は、人生を棒に振ることになる。

また、私のところへ持ち込まれるセクハラ案件のかなりの割合がお酒がらみだ。日本人は欧米人に比べお酒が弱いうえ、酒席では無礼講の文化がある。お酒が入ると、どうしても緩みがちになるから危険だ。

うっかりセクハラ事件を引き起こすと、高額の損害賠償を背負わされることも珍しくなく、仕事では日陰に追いやられ、家庭もバラバラに崩壊するケースが珍しくない。

アメリカではボディゾーンといって、両腕を広げた範囲まで異性に近づくのはリスクがあると考えられている。それくらいの意識は持ったほうがいい。不用意に部下の女性と1対1で食事をするのも避けたほうが無難だ。もちろん、酔った勢いでのおさわりは、すべてNGである。

(山田・尾崎法律事務所 代表弁護士 山田秀雄 構成=小澤啓司 撮影=的野弘路)