中野サンプラザでツアー最終公演を行ったSCANDAL
11月22日(木)、東京の中野サンプラザで、4人組ガールズバンドの「SCANDAL」が、全国ツアーのファイナル公演を行った。9月26日に発売された最新アルバム「Queens are trumps -切り札はクイーン-」を引っ提げての今回のツアーは、昨年の秋に続いて2度目のワンマンホールツアー。10月12日に埼玉県の和光市から始まり、全国13か所、15公演を行った。最終日となったこの日、会場に押し寄せたファンは2,000人以上で、男女比は男7に対し女3。客層はとても幅広く、彼女たちに憧れる中高生から親世代、更には家族連れや外国人の姿も見られた。

定刻をわずかに回った19時5分、SEのボリュームが上がり、会場内が暗転した。いよいよライブが始まる。すると突然、ステージ奥の時計台が暗闇の中に浮かび上がり、時を刻み始めた。カッチカッチという音が鳴り響くなか、中世の城塞を思わせるレンガ造りの階段が、徐々に煙で覆われて行く。薄っすら紫色に照らし出されたステージは、まるで魔法にかけられているかのよう。時計の針が12時を指すと、メンバーの数と同じ4回、鐘が鳴り響いた。

ツアーファイナルで2,200人を動員したSCANDAL
ツアーファイナルで2,200人を動員したSCANDAL


ライブスタート。ドラムのRINAのカウントで始まった一曲目は「Rock’n Roll」。最新アルバムの中でも特にロックテイストの強いナンバーだ。ステージ上が明るくなり、Aラインのミニドレスをまとったメンバーの姿が照らし出されると、会場は大興奮に包まれた。ギターのMAMIの荒々しいカッティングでイントロが始まると、ベースのTOMOMIがハイポジションからのフレーズで絡みついて行く。そこへヴォーカルのHARUNAが加わり、観客に手拍子を要求。ドレスアップしていても持ち味の激しいアクションに手抜きはない。髪を振り乱し最初から全力だ。また、彼女たちの持ち味としてもう一つ欠かせないのが、フロントメンバー3人のいずれもが、ヴォーカルとしてメインにもサブにも回れる点だ。特にこの曲はHARUNAのハスキーヴォイスと、TOMOMIのアニメ声のコントラストが鮮明になる曲。サビではそこにMAMIもコーラスで加わり、正にトリプルヴォーカル状態。一つの歌詞をここまでドラマチックに展開させられるバンドはそうはいない。

その一曲目をHARUNAの「なかのー!!」という掛け声で締めくくると、間髪入れず2曲目に突入。曲は「瞬間センチメンタル」。2010年のリリース以降、セットリストから殆ど外れたことが無いこの曲が、ライブを更に加速させた。そして3曲目が始まろうとした時、突然、ヴォーカルのHARUNAがギターを置き、ハンドマイクを手にした。始まった曲はアルバムのタイトルチューン「Queens are trumps」。ミディアムテンポのロックナンバーを、身長153センチと小柄なHARUNAが妖艶に歌い上げて行く。リーダーで24歳の彼女はバンド内で最年長。いつも男前キャラとして振る舞っている分、時折にじみ出る“オンナ”の一面はとても強烈だ。ステージ際、まるで挑発するかのように見渡す彼女に、観客は男女を問わず大興奮。挨拶がわりの3曲があっと言う間に終了した。

余韻さめやらぬ中、HARUNAが「こんばんは、SCANDALです!」というと、フラットな照明に4人の姿が照らし出された。歓声の中「ファイナルだよ、みんな気合入ってんの?」と客席に向かって問いかけると、イエーイ!と、更に大きな歓声が返ってきた。コール&レスポンスで観客のテンションを上げた後、いつもの決め台詞「今日はここにいるみんなで、最高の夜にしようねー!」と呼びかけると、会場はこの日一番の歓声に包まれた。

続いて演奏された曲は最新シングル「ピンヒールサーファー」。同世代の働く女性に向けた応援賛歌というこの曲は、ミュージックビデオのOLコスプレが話題になった。かつて女子高生の制服姿がトレードマークだった「SCANDAL」。そのことを思うと、時の流れを感じずにはいられない。立て続けに演奏された曲は「Rising Star」。目まぐるしくリズムが替わるこの曲は、ステージと客席の真剣勝負。息切れした方が負けと言わんばかりに、RINAのドラミングが激しさを増すと、遅れを取ってなるものかと、観客も必死に食らいついて行く。そんな丁々発止が繰り広げられた後に演奏されたのは「ビターチョコレート」。これまで演奏された曲とは打って変わったミディアムテンポのバラードだ。作詞したベースのTOMOMIがメインヴォーカルを取るこの曲は、切ない乙女心を綴ったもの。甘い彼女の声は曲のタイトルそのものだった。

いつもと違うバンドスタイルで曲を演奏するSCANDAL
いつもと違うバンドスタイルで曲を演奏するSCANDAL


演奏が終わると同時にステージが暗転。再び時計台がカッチカッチと時を刻みだした。するとドラムのRINAが暗闇の中おもむろに立ち上がり、すぐ横にセッティングされているキーボードへ移動。白いヘッドフォンを装着し、何やらスタンバイし始めた。それと同時にヴォーカルのHARUNAも、ギターを置き、マイクスタンドの隣に用意されている小さな卓に向かい始める。遠目にはDJが使うターンテーブルのように見えるが、実際は「KORG」から発売されているタッチパッド式シンセサイザーというもの。これまでに無い変則的なバンドスタイルで、TOMOMIヴォーカルの「Kill the virgin」を演奏し始めた。最新アルバムに収録されているテクノ調のこの曲は、「SCANDAL」に加わった新たな一面。映画『デッド寿司』の主題歌でもあるこの曲の演奏が終わると、バックの3人が順にステージ袖に消えて行った。だが、ヴォーカルのHARUNAだけが一人残って演奏を続けている。徐々に音量を増すシンセサイザーの機械音。並列している同じくタッチパッド式のエフェクターを駆使し、会場の空気を圧迫して行く。やがて音量がリミッターギリギリまで来たところで自動演奏に切り替え。残響音が鳴り響く中きびすを返し、彼女もまたステージから姿を消した。

SCANDALの関西出身メンバーTOMOMIとRINA
SCANDALの関西出身メンバーTOMOMIとRINA


これまでにない演出にざわめきが残る客席。すると突然、会場内に「六甲おろし」が響き渡った。想定外の場面展開に、質の異なるざわめきが客席を上書きする。そこへ関西出身であるRINA×TOMOMIが、阪神タイガースの帽子と半被、そして応援バットを片手に登場。歓声と笑いが起こる中、大阪のおばちゃんの生態をコミカルに歌った「OSAKA」を歌い始めた。ステージの一番高い所から行進するように歌う2人を、客席は手拍子しながら目で追う。すると間奏に入った途端、応援バットを手放し、新しい武器を肩にかけた。それは、おもちゃのエアーガン。ステージ上を縦横無尽に駆け回りながら、RINAが関西弁で「TOMOMIとRINAのサインボール欲しない?」というと、2人のサインが入ったスポンジボールをヘイ!ヘイ!という掛け声とともに客席めがけて打ち始めた。その姿はもう、ただのイタズラっ子。客席を掻き回すだけ掻き回し、ステージから姿を消した。

アコースティックギターを奏でるSCANDALのMAMI
アコースティックギターを奏でるSCANDALのMAMI


その後を引き受けるのは名古屋組のHARUNA×MAMI。黒いドレスの2人がマイク片手にステージ袖から現れた。開口一番、HARUNAが「楽しんでますか?」問いかけると、客席はイエーイ!と答えながらも、どこかまったりムード。会場全体を見渡しながら、しみじみ「東京に帰って来たなって気がするよ」というと、客席の方々から「お帰り!」という声が飛んだ。「先ほどの2人には、はっちゃけて貰ったんで、ここから私たちがアコースティックを一曲やっちゃおうかな」と、用意された椅子に腰かけ、MAMIがギターを抱えた。観客にも座るように促し演奏し始めた曲は「会いたい」のアコースティックバージョン。セカンドアルバムの11曲目に収められているこの曲は、シングルカットされていないにも関わらず、3月に行われた日本武道館でのライブでも演奏され、今回のツアーでも唯一、過去のアルバムからセットリストに加えられた曲。多くのファンから高い支持を得るこの曲をしっとりと歌い上げた。

歌い終わると赤いドレスを着た関西組の2人が、「ただいまー」とステージに戻ってきた。メンバー4人がマイク片手に横並びになると、最新アルバムとツアーのことについて語り始める。まずHARUNAが「今回のアルバムは自分たちがやりたいことを詰め込んだアルバムだから、思いのほか激しいというか、息あがっちゃう系が多いよね」と口火を切ると、ドラムのRINAが「このツアー回ってて、凄く感じたことがあるんやけど、初めて私たちに会いに来てくれた人が殆どやったやん。きっと今日も初めてライブに来たとか、一人で来たとかっていう人がおると思うんやけど、勇気をもって会いに来てくれて凄く嬉しいです。今日はありがとう」と続けた。そんな、ほのぼのとした会話が暫く続いた後、HARUNAが「じゃあ、ここからまた上げて行こうか!」と気合を入れ直すと、観客もその言葉を合図に立ちあがった。演奏が始まった曲は今年の春にリリースしたシングル曲「HARUKAZE」。この曲から後半戦がスタートした。

続いて「Bright」、「声」と、今回のアルバム収録曲が続く。「Bright」を作詞したRINAによれば、この曲はある意味、今の「SCANDAL」を投影した曲だとか。結成からこれまで、最悪な時期があまり無く来た自分たち。だが、それとは裏腹に、“幸せの中に隠れている怖さ”みたいなものがあるのではないか……。その辺を書きたかったそうだ。一方、「声」はギターのMAMIがフルに歌う曲。彼女がリードヴォーカルを務める曲は、これまでも2曲あったが、バンドサウンドとして一曲を完全に通して歌ったのはこの曲が初めて。どこか突き放すような男っぽい彼女の声質が詩世界とマッチし、今回のアルバムの中で好評価を得ている曲だ。続いて演奏された「Welcome home」は、春先に行われたライブハウスツアーでセットリストに加わった曲。シングル曲「太陽スキャンダラス」のカップリングの一つで、ライブは自分たちのホームだという思いから作ったという。

中野サンプラザでツアー最終公演を行ったSCANDAL
中野サンプラザでツアー最終公演を行ったSCANDAL


そんな3曲を演奏し終えると、ヴォーカルのHARUNAが、まだ自分に照明もあたっていないうちから「楽しいー!!」と客席に向かって叫んだ。思わず口をついて出た言葉だが、普段、あまり感情を表に出さない彼女が、ここまで開放的になるのは珍しい。そして「SCANDAL」がデビューした頃から夢と目標に掲げてきた、大阪城ホールでのライブが決まったことを改めて報告。「3月3日は私たちの夢だったということは関係なしにして、みんなで素敵な夜を作りましょう」と呼びかけると、客席から拍手が起こった。「でも、まだまだ今日は終わってないでしょ、もっともっと暴れようぜ!」と場の空気を切り替えて始まった曲は、インディーズ時代のデビュー曲「スペースレンジャー」。この曲が発表された4年前に比べ、格段に技量が増している彼女たちだが、いつ聞いても良い意味での“荒削り感”が失われていない。ベースのTOMOMIとヴォーカルのHARUNAが、まるでバトンを渡しあうかのように交互に歌う様は、曲のスピード感と相まって実にカッコイイ。

立て続けに演奏された曲はメジャーデビュー曲の「DOLL」。イントロが流れると観客は、待ってました!と言わんばかりにタオルを準備し始めた。手拍子とタオル回しを交互に繰り返すこの曲は、ステージと客席が一つになれる曲。観客全員が一斉にタオルを回すサビの部分は圧巻という以外の何ものでも無い。懐かしい曲はまだ続く。次に演奏されたのは2ndシングル「SAKURAグッバイ」。TOMOMIのランニングベースが光る曲だ。ハイポジションで複雑なフレーズを弾きまくる彼女は正真正銘のベーシスト。ステージ以外で見せる天然な立ち居振る舞いとのギャップもまた、彼女の大いなる魅力である。

続いてHARUNAの「まだまだ行くよ!」という掛け声で始まった曲は、3rdシングルの「少女S」。まるで「SCANDAL」のディスコグラフィーを時系列に沿って見ているかのようなセットリストだ。この曲は自分たちで考えたという独自のステップを踏みながら演奏するのが特徴。揺れるMAMIの金髪ポーテールに合わせるかのように、観客も一緒にステップを踏んだ。そして遂に「SCANDAL BABY」の時がやってきた。ファーストアルバムの最初に収録されているこの曲は、これまで何度もライブの閉めで演奏されてきた曲。イントロ部分を全音符で伸ばしながら、HARUNAが「最後の曲です」というと、歓声と一緒に、えー!と悲鳴にも似た声が上がった。「ワン!ツー!ワン!ツー!レッツゴー!」という掛け声とともに会場全体がジャンプ。それを合図にMAMIがイントロ弾き始めた。ヘイ!ヘイ!と最後の力を振り絞って拳を振り上げる観客。まるでライブ終焉が近づいている寂しさを吹き飛ばさんとばかりに、みんな汗だくだ。この曲では途中でギターのMAMIと、ベースのTOMOMIがポジションを交代して演奏するのが恒例。ステージの左右に別れ、ヘッドを持ち上げるアクションで観客を煽って行く。更に後半では、上手にHARUNA、中央にTOMOMI、下手にMAMIという並びで演奏。2010年の「TEMPTATION BOX TOUR」のアンコールで同曲を演奏した際に見せたフォーメーションを、ここで再現してみせた。

自ら飛び上がり客席を煽動するSCANDALのギターMAMI
自ら飛び上がり客席を煽動するSCANDALのギターMAMI


そして遂に曲が終わった。会場全体に歓声がコダマする中、HARUNAが「ありがとうござました!スキャンダルでした!」とお礼をいうと、4人は楽器を置きステージから姿を消した。暗転した会場にアンコールの声が幾度も響き渡る。約4分後、再びステージが明るく照らし出されると、ステージ袖から色違いのツアーTシャツを着た4人が現れた。HARUNAが「アンコールありがとう!」というと、客席からは拍手と歓声が起こった。それを受けて「一発目、ひさびさの曲です。でも、最近はよくテレビで聞いているかも」と、思わせぶりな紹介で始めた曲は「サティスファクション」。マイクロソフト社から発売されている「Windows 8」のCMで流れている曲だ。最終日ということもあり、これまでアンコールで演奏してきた「LOVE SURVIVE」をあえて封印。話題のCMソングを持ってくるという粋な計らいを見せた。この曲は昨年の春に発売されたシングル曲「ハルカ」のカップリングとして収められており、軽快なリズムが印象的。そんな曲調がマイクロソフト社側の耳に止まり、今回CMソングに抜擢されたのだという。

続いてMC。この日はファイナルということもあり、解禁される情報が盛りだくさんだった。そのため、ツアー途中にHARUNAの無茶ぶりから恒例になった、TOMOMIのテレビショッピング風グッズ紹介も省略。そのぶんHARUNAが「今日の私、いっぱいいっぱいだわ」というくらい、ファンにとって嬉しいインフォメーションが続いた。中でも特筆すべきは12月8日公開になる映画『今日、恋をはじめます』のテーマソングに「SCANDAL」の「ハッピーコレクター」という曲が起用されたこと。水波風南によるコミックを実写化したこの映画は、武井咲と松坂桃李 主演による恋愛作品。「楽しいキュンキュンする映画になっているんで、是非、観に行ってみてください」と勧めた。

ツアーTシャツに着替えアンコールに応えたSCANDAL
ツアーTシャツに着替えアンコールに応えたSCANDAL


一通り伝え終えると、HARUNAの「次の曲いっちゃいますか!」という一言でライブ再会。「みんなと一緒に歌いたいなと思って作った曲です」といって始まったのは最新アルバムの最後に収録されている「Right Here」。まるで口ずさむように歌えるこの曲では、HARUNAとTOMOMIがハンドマイクのまま歌った。そして最後の最後に用意されていた曲は「太陽スキャンダラス」。今年の夏を彩ったサマーチューンだ。“最高以上に熱くなろう“というテーマ通り、ステージ前の観客は全員が汗だく。正に最高以上の盛り上がりを見せ、全21曲の演奏が終了した。

大歓声の中、メンバー全員が楽器を置いて横並びに。最後の最後にメンバー紹介をするのも「SCANDAL」流だ。HARUNAが、RINA、MAMI、TOMOMI、そして自分の順に名前を呼ぶと、メンバーは各々、客席に向かって深々とお辞儀。手を振りながら歓声に答えた。最後にHARUNAが「またライブで会いましょう!今日は本当にありがとう!」と代表してお礼をいうと、メンバーは順にステージ袖へと消えて行った。これにてツアーファイナル、2時間5分のステージが終了。それと同時に全国13か所、15公演を行った「Queens are trumps -切り札はクイーン-」のツアーも完結した。

ツアーに入る前、ヴォーカルのHARUNAが「色んなシーンを見せられると思う」といっていた通り、今回のツアーはこれまで彼女たちが蓄積してきたものを集約した内容になっていた。例えば、HARUNAがハンドマイクで歌うことも、RINAがキーボードを弾くことも、MAMIがアコースティックギターを奏でることも、TOMOMIがおちゃらけることも、これまで場面によって披露されて来たこと。だが、それらをライブという一つのパッケージに集約した時、「SCANDAL」がライブバンドとして、いかに引き出しが豊富で、多面的な魅力を持っているのかが改めて分かる。

ツアー中、何人かのファンの方に、愚問と思いつつも彼女たちの魅力について聴いてみた。共通して返ってきた答えは「ひとことでは言い表せない」。その言葉が「SCANDAL」というバンドの全てを物語っているような気がした。

(文/矢沢隆則)

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