――歌詞の世界で内面を見詰めているので、この精神状態でいるとキツくないのかなと。

柴田:よく言われますね、本当にキツいです(笑)。他のアーティストとかに比べて、あまりにも自分が密接すぎるというか。井上さんの場合、武蔵が人を殺したくなくても、殺さざるを得ないみたいなシーンが何ヶ月も続いちゃった時に、自分が飲み込まれてしまって連載中止にしたという話を聞いた時に、井上さんも私と全く同じだなと思ったんですね。みんなが求めるメロディとか、売れる感じとかを計算して作るんじゃなくて、自分をほじくってるというか。井上さんは武蔵を魂まで描けてるかが勝負で、井上さんにとっての武蔵は、私にとっては私自身なんですよね。生々しさというか、リアルさを書けた時にやっぱり手応えを感じるんですよ。ファンの人もそれを求めてたりするので、成功すればするほど、私を露出していくことになるんですよね。音楽って、私そのものだから。

今回も「ゴーストライター」という名前を付けたぐらい挫折しちゃった時に、「音楽やめようかな?」っていうだけだったら、まだ良かったんだけど。音楽も自分自身だから、「私、もう生きてる意味無いんじゃないかな?」とまで思っちゃうぐらい、音楽をやめて残るものが無いというか、自分自身になり過ぎちゃってる所があるかなと思って。いつもは「ちょっとアップテンポの曲が多くなっちゃったから、もうちょっとディープな曲を増やそう」とか、毎回コントロールして創作は出来ないんですけど、それでもホンのちょっとは、マイナーな曲が多かったからメジャーなコードを敢えて弾きながら生み出したり、計算することが出来たんですよね。歌詞にしても、自分自身を書くにしても、第三者の立場から自分を見た書き方みたいなことをしてたのが、今年は「私、生きてる意味無いんじゃないかな?」とか思っちゃうぐらいの状態だったので、客観的に書くことがまず出来なかったんですよね。

心がある方向を向いてたら、その方向を向いた言葉しか書けなくて。悲しいと思ったら、今までは「なぜ悲しいのか?」とか、何かフックになるような技巧というか技法というか、そこにもKO勝ち的な手応えを感じてたりしたら、またすごく自信になったんですけど。今までは言葉を選ぶにしても冷静に書けてた所が、今は悲しいと思ったら、なぜ悲しいのかもよく分からない、でも悲しい、みたいな歌しか書けなくて。自分の気持ちって、人に言われて初めて気付くことってあると思うんですよね。「この人のことがすごく気になって、すごくムカつくんだけど、何だろう?」って人に言った時に、「それって好きだってことじゃん」って言われて初めて、その人のことを好きだと気付くみたいな。それが一番分かりやすい例えかなと思って、いつも話してるんですけど。それと一緒で、ありのままの詞を書いていて、この主人公がどういう人なのか全く分からないまま出しちゃって、出した後にファンの方から「この女って、すっげー怖いですね」とか言われて初めて、「私って怖いんだ!?」とか思うぐらい、今回のアルバムは客観的に書けていないんですよね。これほどまでに今の自分をリアルに書けたアルバムは無いんじゃないかな、とは思ってるんですけどね。

――1曲目の「救世主」から、今までに無い激しめのロックですね。

柴田:でも、1曲目だけなんですけどね(笑)。

――柴田さんの声とサウンドとの相性は、非常に良いと感じました。なんで今までやってこなかったのかな?と不思議に思うぐらい。

柴田:本当ですか?ありがとうございます。今までもアレンジャーの松浦さんと何回かコラボしてるんですけど、作るのが自分なので。前からちょっとロックをやりたかったんですけど、まだ技術というか、自分の中でロックがあまり消化できていなくて、なり切れてないロックばかりになっちゃって。でも、今回ようやく自分でも納得のいくロックな曲だなと思える様な曲にはなれたと思ってるんです。元々、こういう感じの曲をやりたかったんですよ。

――是非、今後もやって下さい。

柴田:ありがとうございます。出てくれば、もう今すぐにでもレコーディングしたいぐらいですからね。

――そのコントロールは、なかなか難しいんですね。

柴田:やっぱり何だかんだ言っても出たとこ勝負だから。「今までの柴田淳はもう卒業して、これからはロックでーす」とか言えるもんなら言ってみたい(笑)。今までの柴田淳は簡単に出来るけど、なかなかロックは出来ないので、「今までのはもうヤメます」とか言っちゃうと、自分が困っちゃうし(笑)。ファンの方も、今までの世界も大好きな方がたくさんいらっしゃいますから、その人達の好きな世界も壊したくないし。でも「こういうロックだとファンは引くんじゃないか?」って心配する方もいるかもしれないですけど、何気にコアなファンの方のほうが「柴田淳のロックをもっと聴いてみたい」というリクエストが多かったりするので。やっぱり私の作った曲をいいと思うってことは、何かしら感性が似ていると思うので、私がいいと思ったロックも多分、共感してくれる部分は何かしらあるとは思うので。ファンが離れていくというような不安は無いです。その自信はありますね。