「成人向けSNS」合法化に「プーチン大統領」が頭を抱える日…ウクライナが真面目に議論する“アダルト動画”の税収で“軍用ドローン3万機購入”
“成人向け動画”で稼いでドローンを買おう--。 ロシアとの戦争が5年目に入り、戦費が膨らみ続けるウクライナではいま、そんな冗談のような話が国会にあたる最高会議で真面目に議論されている。実現すればプーチン大統領の「頭痛のタネ」が増えることになる。【昼間たかし/ルポライター・著作家】
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国会で231人の賛成票
実は、他の西欧諸国などと違い、ウクライナでは販売・配信する目的で成人向けコンテンツを制作したり、流通させたりする行為は刑事罰の対象になり得る。そうしたなか、成人同士によるSNSを利用したコンテンツについて刑事処罰の範囲を狭め、地下に潜っている産業を表に出す、つまり“合法化”することで税金を徴収しようという議論が続いているのだ。
キエフ在住のウクライナ人記者が解説する。
「このアイデアは単なる思いつきではなく、既に7月14日のウクライナ国会で231 票の賛成を集め、次の審議へ進んでいます。この議論を進めている中心人物の一人が、ウクライナ最高会議のヤロスラフ・ジェレズニャク議員。財政や税制を担当する議会委員会の第一副委員長で、日本とも縁が深く、議会の対日議員交流グループで共同代表を務めています」
そのジェレズニャク議員がSNSで公表した内容によれば、2023年にアダルトSNSサイトで収入を得たウクライナ人の数は7914人。総収入は約48億9000万フリヴニャ(約1億3175万5000ドル)。もしも正規の税金を納めていれば国庫には9億5300万フリヴニャ(約2500万ドル)以上が入った計算になるという。

これだけの税収があれば、軍用ドローンを約3万機購入できるというのが、議員の主張だ。成人向け動画が税金に変わり、税金がドローンに変わってロシア軍に向かって飛んでいく--というわけである。
世界的な広がりを見せる「成人向けSNS」
しかし、戦時下のウクライナでどうやって数千人ものウクライナ人が成人向けコンテンツで稼いでいるのか。それを可能にしているのが、イギリスを拠点とする成人向けコンテンツで知られる課金型SNS「OnlyFans」の存在だ。OnlyFansを知らない人のために簡単に説明すると、YouTubeと有料ファンクラブを合体させたもので、成人向けコンテンツを販売するのにうってつけのサービスである。投稿者が自分のページを開設し、写真や動画を載せ、それを見たいファンが月額料金を払う。さらにチップや個別販売などでも稼ぐことが可能だ。
とはいえ、成人向け動画を見るだけならPornhubのような巨大サイトは昔から存在する。では、なぜOnlyFansがこれほど巨大化したのか。欧米の決済業界とデジタル産業に詳しい金融コンサルタントは、こう説明する。
「Pornhub が“巨大な動画置き場”だとすれば、OnlyFansは“ファンが好きな人を追いかけ、その人に直接お金を払う場所”です。客が買っているのは一本の作品だけではない。月額料金を払い、新しい投稿を待ち、チップを送り、場合によっては自分向けのコンテンツまで注文する。つまり成人向けの“推し活”なんです」
作品ではなく「人」にファンを紐づけ、その関係性が課金を生む。これが従来の成人向け動画サイトとの大きな違いだ。しかもOnlyFansには、もう一つ強力な武器がある。決済である。
クレジットカードで課金できる
「Pornhub では2020年にVisaとMastercardがカード決済を停止しました。一方、当局に財務情報を開示しているOnlyFansでは主要なクレジットカードで課金できる。成人向けビジネスでは、どれほど客がいても代金を回収できなければ意味がありません。しかもOnlyFansの手数料は2割で、売り上げの8割が投稿者に入る。一人の投稿者が、出演者であり、制作会社であり、販売店にもなれる。スマホ一台で世界市場を相手に商売できるわけです」(同)
こうしてOnlyFansは、無名の個人からプロのアダルト女優、さらには著名人までが参入する巨大プラットフォームへ成長。2024年度には約463万に上るクリエイターアカウントと、約3億7700万個のファンアカウントを抱え、利用者が支払った金額は年間約72億ドルに達している。
だが、本当に重要なのはそうした数字だけではない。OnlyFansの登場によって成人向け産業の稼ぎ方そのものが変わってしまったのだ。
「以前であれば、プロの女優は制作会社に呼ばれて撮影し、会社が作品を売り、出演料を受け取っていました。ところがOnlyFansでは、出演者が自ら撮影し、自分で客を集め、自分で売ることができます。そのため、すでに名前の売れたプロの出演者であっても、スタジオでの撮影を減らしたり、やめたりして、OnlyFansを仕事の中心に移す例が出ています」(同)
2025 年にイギリスの学術誌に掲載された論文では、この現象について「全地球規模の市場」が生まれたとしている。では、なぜ戦時下のウクライナにおいてもOnlyFansで稼ぐ女性が増えているのか。
戦時下でも外貨を稼げる仕事
「戦争が始まって、それまで普通に働いていた人たちが突然仕事を失いました。店も会社も閉まり、別の仕事を探そうにも簡単には見つからない。一方、OnlyFansなら職場へ通う必要もないし、スマートフォンと通信環境さえあれば、自宅から世界中の客を相手にできます。しかも代金は国外の利用者から入ってくる。戦時中でも外貨を稼げる仕事として、非常に相性がよかったのです。実際、開戦後に職を失ったことをきっかけにOnlyFansを始めた若者は複数います」(前出のウクライナ人記者)
実際、米メディアの取材には、ロシアの侵攻直前に職を失い、その後OnlyFansで月に数千ドルを稼ぐようになった女性や、飲食店の仕事を失って参入した男性らが登場している。そこで紹介された“成功者”の実態は、戦時下とは思えないほど派手だ。
OnlyFansで約100万人の購読者を抱えるスビトラナ・ドボルニコワ氏は、前線に近い自宅を離れ、数週間おきにフランスやスペインの地中海沿岸へ向かう。そこで高級ヴィラを借り、撮影を行っている。
「ドボルニコワ氏は、単に国外の客から稼いでいる人気クリエイターというだけの存在ではありません。2025年にはゼレンスキー大統領に成人向けコンテンツの非犯罪化を求める請願を出し、自分は5年間で4000万フリヴニャ以上を納税した、これはウクライナ軍向けのFPVドローンなら約2000機分に相当すると訴えました。ところが本人によれば、その一方で成人向けコンテンツを制作したとして刑事事件まで起こされた。税金を払えば収入源が当局に分かり、払わなければ脱税になる。こうした矛盾が、いま議会で“取り締まるより、非犯罪化して税収にした方がいいのではないか”という議論につながっているのです」(同)
成人向け動画がドローンに
もっとも、年間2500万ドル、ドローン3万機と聞けば景気のいい話に見えるが、ウクライナが必要としている戦費全体から見ればわずかな額でしかない。2026年だけでも、追加の防衛支出には約270億ドルの資金不足が残っている。
「2500万ドルという金額だけを見れば、戦費を左右するような規模ではありません。重要なのはそこではない。これまで刑事罰の対象として地下に押し込めてきた市場まで、議会が“税金を取れる産業ではないか”と数え始めたことです。戦争が長期化すれば、財政は“大きな財源を一つ見つければいい”という話ではなくなる。取れるところから一つずつ取っていく。OnlyFansをめぐる議論は、ウクライナの情勢が“そこまで来ている”ことを象徴しています」(西側研究所所属のアナリスト)
成人向け動画が税収に変わり、その税収がドローンに変わってロシア軍へ飛んでいく。そう考えると、プーチン大統領にとって成人向けコンテンツは、ある意味ではドローンそのものより厄介な存在かもしれない。ドローンなら防空システムで迎撃できる。だが、世界中からOnlyFansに流れ込む課金までは迎撃できない。
プーチン大統領にとって、まことに厄介な「敵」がまた一つ増えたというわけだ。
昼間たかし(ひるま・たかし)
1975年岡山県生まれ。ルポライター・著作家。 都市文化・地域の歴史・大衆文化をテーマに全国を旅しながら取材を重ね、埋もれた事実と市井の人々のリアルを描いてきた。 現在は、デジタルインフラ・プラットフォーム経済をテーマに国内外で取材を続ける。
デイリー新潮編集部
