親会社が「赤字173億円」で“ジャングリア沖縄”の正念場…つなぎ融資「30億円」で“資金不足リスク”は解消できるか…知られざる“半官半民”の特殊な実態
「2つの赤字」をどう読むか
9月24日、ジャングリア沖縄をめぐって2つの赤字が報じられた。パークを運営するジャパンエンターテイメント(JE)の親会社・ジャパンエンターテイメントホールディングス(JEHD)は、2026年6月期に約173億円の最終赤字。沖縄タイムスが関係者の話として伝えられたJE自体の最終赤字は、約89億円に上るという。一方、読売新聞オンラインは26日、JEHDが、〈「資金ショート(不足)のリスクに対応するため」として、金融機関に追加の融資を求め、新たな出資企業も募っていることが分かった〉と報じている。いずれにせよジャングリア沖縄が正念場に立たされていることは間違いない。【篠原章/批評家】
(全2回の第1回)
【写真を見る】ネット上で「ひどい」「チャチい」との声が飛び交う「ジャングリア沖縄」のアトラクション
JEの89億円は、実際にジャングリアを運営する会社が営業の結果として出した赤字である。とはいえ、それだけの現金が1年で手元から消えたという意味ではない。建設費を何年かに分けて費用にする減価償却のように、支払った時期と、帳簿に費用を記す時期がずれるものが含まれる。逆に、現金が出ていても帳簿上の損失には表れにくいものもある。営業によって現金が増えたのか減ったのかは、内訳を見なければ確定できない。

親会社であるJEHDの173億円は、保有するJE株式の価値を帳簿上で引き下げたことが主な理由だという。JEHDは子会社に投じた資金を将来回収できると見込み、その株式を資産として計上してきた。評価を引き下げても、処理したその日に173億円の現金が出ていくわけではない。だが、当初の額のままでは投資の価値を示せなくなったという判断は重い。ただし、これで将来の回収が不可能と決まったわけではないし、会計監査が事業計画を否認したとまで断定できる材料もない。
JEはパーク開業前の2025年6月期にも50億9800万円の最終赤字を出していた。26年6月期を合わせた2期分だけで約140億円にのぼる。ただし、これを累積の赤字総額と言い換えるには、それ以前の決算も合わせて見る必要がある。JEは2018年6月の設立で、2025年6月期は第7期にあたる。
その前期の決算は、2025年10月15日付の官報に公告されている。損失の額だけでなく、貸借対照表の主要な項目も開示されており、報じられたところでは資産合計は約627億円、負債合計は約376億円、純資産は約251億円、自己資本比率は約40%だった。開業前の大型事業としては、財務の土台は保たれていたと言える。
今期の89億円が事実で、資本の追加がなければ、純資産は160億円台に落ちることになる。1年で3分の1以上が失われる計算である。26年6月期の決算公告も、前期と同じ時期であれば間もなく官報に載る。そこで確かめられるのは三点だ。純資産がいくら残ったのか。資本の追加があったのか。そして、負債がどう動いたのか。本稿の見立てが当たっているかどうかは、数週間のうちに検証できる。
来場者数「年間100万人」が隠すもの
来場者数は、25年7月の開業から約1年間で、併設のスパを含め延べ約100万人。当初想定の150万人を下回った。ここまではよく報じられている。
だが、途中経過の数字と突き合わせると、別の事態が見えてくる。JEによれば、開業から26年1月までの半年間の来場者数は、スパのみの客を含めて65万人だった。年間の約100万人から差し引くと、後半の半年はおよそ35万人である。1日平均にすると、前半が約3500人、後半が約1900人。半期の比較で4割以上減ったことになる。
経済波及効果の推計も同じ動きを示す。りゅうぎん総合研究所は開業半年の経済効果を322億円、1年間では494億円と発表した。差し引き、後半の半年は172億円である。こちらも半期で約47%の減少となる。二つの数字がほぼ同じ率で減っているのは、波及効果の推計が来場者数にほぼ比例する仕組みだからだろうが、いずれにせよ方向は同じである。
この分析には留保が要る。前半には開業直後の話題性と夏休みがそのまま入っており、季節の影響は小さくない。半年の区切りと年間の区切りも、厳密に同じ長さではない。だが見落とせないのは、後半に4月開業の新アトラクション「やんばるトルネード」とゴールデンウィークが含まれているという点である。てこ入れを行った半期のほうが落ちていると観察できるのである。
客の不足が損失の何割を生んだのか、何人来れば黒字になるのかは、売上と費用の内訳がなければ分からない。それでも、「1年で100万人」「経済効果494億円」という発表の数字が、後半の落ち込みを平均のなかに溶かしこんでいることは指摘しておかねばならない。
この事業には、公的な資金が複数の経路で入っている。政府が全額出資する沖縄振興開発金融公庫が出資と融資の両方を行い、官民ファンドが主導企業に出資した。本稿が「半官半民」と呼ぶのはその意味であって、政府が株式の半分を持つという話ではない。以下、順に見ていく。
「政治的な看板」となったテーマパーク
決算の内訳が公表されていない以上、営業から現金が生まれているかどうかを直接に判定することはできない。だが、外から見える事実が一つある。
9月25日、日本経済新聞は、沖縄公庫がさらに30億円のつなぎ融資を行う方向で調整していると報じた。4月にも、公庫などによる計20億円の追加融資が報じられている。30億円はまだ実行が確定した資金ではない。それでも、開業から一年あまりのあいだに運転資金の追加調達が繰り返されているという事実自体は、営業から生まれる現金が必要額に届いていないことを示す材料になる。
これは帳簿を見ずに言える推論として、おそらく最も確かなものだ。そして公的資金の観点からは、建設段階の支援よりも重い意味を持つ。計画どおりに進まなかった後の運転資金にまで公庫が関わるのであれば、その判断が何を根拠にしているのかが直接に問われるからである。
沖縄における大型テーマパーク構想は、以前から政治との接点を持っていた。2015年、USJのグレン・ガンペルCEO(当時)と、株式会社刀CEOの森岡毅氏は、沖縄への進出構想を菅義偉官房長官に説明した。候補地は国営海洋博公園の周辺である。菅氏は政府として応援する考えを示し、翁長雄志知事も期待を表明した。辺野古の問題では激しく対立した官邸と県庁が、この計画にはともに前向きだったのである。
同年暮れには、佐喜眞淳宜野湾市長が市長選を控え、返還後の普天間飛行場跡地にディズニーリゾート関連施設を誘致したいと官邸に要請した。運営会社オリエンタルランドとの合意書はなく、結局この案は実現しなかった。先に掲げたUSJの計画も、親会社の交代によって白紙となった。
場所も事業主体も異なる二つの案だが、同じ年のうちに、同じ官房長官が、ともに前向きな姿勢を示している。「テーマパーク」が、沖縄振興の将来像を手短に示す政治的な看板になっていたことは、ここからはっきりと読み取れる。
森岡氏が率いる株式会社刀は、その後、オリオン嵐山ゴルフ倶楽部の跡地にパークを造る計画を進め、2018年にJEを設立、2025年7月にジャングリアを開業した。以前のUSJ計画と現在のジャングリアは同じものではないし、官邸がこの計画にお墨付きを与えたとする資料を、筆者は確認できていない。
クールジャパン機構からの80億円
ただし、現場を取材してきた側の理解は異なる。ジャーナリストの座安あきの氏は、朝日新聞の記事に寄せたコメントで、この事業は一民間事業ではなく、菅元首相の時代から官邸主導で進められ、普天間移設の政治的文脈のなかで生かされ続けた北部振興・沖縄振興策の象徴であり、辺野古の新基地受け入れとも連動する国策案件だ、というのが取材経験から得た自身の理解だと述べている。メガバンクが融資に難色を示すなかでクールジャパン機構が刀に80億円を出したことも、その特殊性を示すという。
これは文書で裏づけられた事実ではなく、取材にもとづく一ジャーナリストの見解だが、問われるべき論点がどこにあるかは明瞭になる。この計画が官のお墨付きを得たかどうかではない。「沖縄に大型テーマパークを」というフォーマットが、内容を吟味される前に歓迎される対象になっていたとすれば、後の審査もその空気のなかで行われたことになる。民間の事業を公的資金がどの程度支え、どのような審査を経たのかは、ある程度まで明らかにすることができるはずである。
なお座安氏は、9月の県知事選を控えて負の材料が出にくい空気があること、知事選の結果によっては国策案件という建て付けが崩れ、追加支援の行方が左右されうることも指摘していた。その知事選は政府与党が肩入れする「古謝玄太知事」の誕生というかたちですでに終わっている。つなぎ融資の報道が知事選の後に出てきたことの意味は推して知るべしである。
第2回【巨額赤字「ジャングリア沖縄」の苦境…改めて問われる「クールジャパン機構」はなぜ「刀」に80億円出資したのか】では“失速”の背景についてさらに詳報している。
篠原 章(しのはらあきら)
批評家。1956年山梨県生まれ。経済学博士(成城大学)。大学教員を経て評論活動に入る。主なフィールドは音楽文化、沖縄、社会経済一般で、著書に『日本ロック雑誌クロニクル』、『沖縄の不都合な真実』(大久保潤との共著)、『外連の島・沖縄』などがある。
デイリー新潮編集部
