捜査幹部から「この秋は忙しくなる…」と声が漏れる一方で…「蔵内前議長」を待ち構える第三者委と県警の“限界” 証拠固めだけでなく時効の問題も
前編【福岡県議会のドン「蔵内前議長」の唐突な議員辞職に“党本部の介入”はあったか…ベテラン政治記者は「沖縄県知事選を前に“判断”が下された可能性も」】からの続き──。福岡県議会を巡るさまざまな疑惑は、もちろん蔵内勇夫前議長の辞職で終わったわけではない。だが、第三者委の調査で真実に迫るのは、なかなか容易なことではない。ここで、福岡県議会の正副議長をめぐる金銭授受疑惑について、これまでの経緯を簡単に説明しておこう。【村田純一/時事通信社解説委員】(一部敬称略・前後編の後編)
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【写真】福岡で蔵内氏(72)と覇権を争ってきた「自民党副総裁(86)」のダンディすぎるボルサリーノ姿
悪しき「慣例」を暴露したのが、議長経験者の県議・吉松源昭(もとあき)だ。もともと自民党会派に所属していたが、今は少数会派の県議の一人。彼が、蔵内に対する議長職辞任勧告決議案の提出者でもある。

もともとは西日本新聞のスクープ(7月5日付)で始まったが、吉松は7月7日の記者会見で、2020年6月の議長就任前、自民党県議団幹部から総計2000万円以上の要求を受け、支払ったことを暴露した。
具体的には「他会派との懇親ゴルフ代」「県議団幹部との飲食代」「お車代」などの名目。吉松は「人の弱みにつけ込んだカツアゲ(恐喝)、みかじめ料的な要求があった」とも証言した。
当時、県議団幹部の要求に応じないと、自民会派内で冷遇され、ポストから外される恐れもあり、従ったという。
蔵内が直接要求して、吉松から金を受け取っていたわけではない。何人かの県議団幹部が関与し、最終的に蔵内に渡ったのではないかと見る向きがあるが、事実関係は定かではない。
一説によれば、県議会の議長ポストに就任するためには1000万円、副議長ポストには500万円の支払いが必要になると言われている。これに、他の飲食代、ゴルフ代なども加算されるという。議長に就任すれば、議長就任祝いの政治資金パーティーなどを開き、それまでに支払ったカネは回収できると言われている。
調査に立ちはだかる“限界”
吉松が議長就任前に自民県議団幹部に支払っていたとされるそのカネは、一体誰が最終的に受け取り、何に使っているのか。
福岡県議会の議長・副議長ポストは1年交代が慣例。議長ポストは最大会派、自民会派で回している。「もし、蔵内がカネを全部懐に入れているとすれば、4年間で議長就任予定者から計4000万円(4人分)、副議長予定者から計2000万円(同)、合計6000万円が入る計算になる」(元自民幹部)。
これが10年以上前から続いていたとも報道されているが、金銭を受け取ったとされる複数の自民県議(辞職者も含む)は事実無根と強調している。
吉松は証拠となる金銭受け渡し時の音声データや飲食店の領収書なども記者会見で明らかにしたが、これらがどこまで証拠として認められるか。
日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会の調査でどこまで真相が解明されるか。第三者委での証言拒否や虚偽答弁に対する罰則規定はなく、調査には限界があるのも事実。警察や検察のように、法的強制力による強制捜査はできない調査なので、「どこまで真実に迫れるかというと、ハードルは高い」(福岡の地元弁護士)とされる。
水掛け論が続く可能性
第三者委の調査はいつから始まるのか。実は、福岡県では日弁連のガイドラインに基づく3つの第三者委員会が9月17日に設置され、調査が始まろうとしている。
福岡県の知事部局は、【1】県職員の互助組織「部課長会」による組織的なパーティー券購入問題、【2】県や議会の高額な海外視察問題の疑惑解明に向け、それぞれ第三者委を設置して調査する方針。また、県議会は主に、正副議長ポストを巡る金銭授受疑惑について調査する第三者委を設置した。
いずれも県弁護士会に第三者委の委員となる弁護士の人選を依頼し、弁護士会側は3つの第三者委にそれぞれ5人ずつの弁護士を推薦したという。
今後は調査対象となる県議や、辞職した県議、県関係者らがどこまで自発的、積極的に真実を話すか、話せるかが注目される。「カネを支払った」「受け取ってない」の水掛け論が永遠に続く可能性はあるが、議長・副議長経験者の勇気ある証言を期待したい。
難しい証拠固め
「次の統一地方選には出馬しない県議、既に辞める決意を固めた県議が金銭授受について話す可能性はある」(元自民県連幹部)と指摘する声もあるが、いわば蔵内を裏切るような新たな証言は出て来るだろうか。調査に対し、誰がどう証言するか。第三者委は始まってみないと分からないとも言える。
福岡県警はどう動くか。県警からの聴取も受け、メディアへの告発に踏み切った吉松によると、捜査員は「通りいっぺんの捜査では終わらせない」と述べ、並々ならぬ決意を示していたようだ。
捜査幹部の一人が「この秋は忙しくなる」と漏らしたとも聞くが、それは当然とも言える。要は立件するまでの証拠や金銭授受などの事実関係を立証できるかどうか。
県警が捜査しているのは、正副議長ポストを巡る金銭授受の贈収賄の有無、高額海外視察における背任容疑、政治資金の虚偽報告や不記載といった政治資金規正法違反、脱税の所得税法違反──などだ。
いずれも事実関係を立証する証拠固めは難しい。時効の問題もある。第三者委員会での証言を聞いた上での判断や捜査もあろう。今は、捜査の見通しについて軽々しく言える段階ではないので、これ以上の言及は控えたいと思う。
蔵内王国の崩壊
福岡県議の高額な海外視察問題を巡っては、タイにおける「タイタニックごっこ」といった写真も出回ったばかり。「公費ですか? 皆、楽しそうですね」などと批判が殺到しており、多くの人が腹立たしいと思っているのではないか。
蔵内がネパールから帰国した際、県庁で記者団に「ネパールは天国だった」と発言したことや、記者会見で県議会の「海外活動」を「海外旅行」と言い間違えたことも物議を醸し、批判が相次いだ。
もう、「蔵内王国」は崩壊したのである。それでも吉松県議によると、蔵内後任の新議長は、蔵内を尊敬していると話していたという。蔵内が辞任しても県議会の自民会派はそう簡単に変わりそうにない気もする。蔵内は議員を辞めても院政を敷くのではないかと懸念する声があると、吉松は指摘していた。が、さすがにそれはないだろう。
来春の統一地方選、福岡県議選では、日本維新の会、国民民主党、参政党などが続々候補者を送り込んでくる。38議席の自民議席は半減するのではないかと予測する向きもある。全国注目の福岡県で何が起きるか、引き続き注視したい。
実は危機感が強かった自民党の若手県議の一部は、議長に対する「辞職勧告決議案」の採決に際し、造反して賛成に回る準備を進めていたという。
なぜ身の潔白を主張し、続投に意欲的だった蔵内氏は辞職に追い込まれたのか。
前編【福岡県議会のドン「蔵内前議長」の唐突な議員辞職に“党本部の介入”はあったか…ベテラン政治記者は「沖縄県知事選を前に“判断”が下された可能性も」】では、自民党本部が福岡に“介入”した可能性など、蔵内氏の辞任を巡る駆け引きについて詳細に報じている──。
村田純一(むらた・じゅんいち)
1986年、時事通信社入社。90年から政治部。海部政権で首相番。平河クラブで自民党の小渕恵三幹事長、小沢一郎竹下派会長代行らを取材。民社党、公明党を担当後、羽田政権、村山政権で首相官邸を取材。96年経済部で経団連など財界担当。97年政治部に戻り、自民党の山崎拓政調会長番。選挙班長、防衛庁担当などを経て、2001年8月から05年2月までワシントン特派員。外務省キャップ、政治部次長、福岡支社長などを経て20年7月より時事総合研究所代表取締役。23年6月より現職(時事総研研究員兼務)
デイリー新潮編集部
