「ねんきん定期便」では年金見込み額は確認できるが、実際にもらえる額までは確認できない。ファイナンシャルプランナーの川淵ゆかりさんは「老後は年金の額面だけでなく、社会保険料や介護費まで含めて、最終的にいくら残るのかを見る必要がある」という--。
写真=iStock.com/years
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/years

■年金18万円なのに手取りは…

月18万円の年金があれば、ひとまず暮らしていける。そう考える人は多いかもしれません。ですが、実際に口座へ入る金額は額面どおりとは限りません。

日本年金機構によると、65歳以上75歳未満で一定の条件を満たす人は、以下の保険料や税金などが年金から特別徴収されます。

・介護保険
・国民健康保険
・住民税・森林環境税
所得税

こういった徴収分が、特に単身高齢者には重くなっていきます。たとえば、年金月18万円で年216万円を受け取る68歳の単身者(都内在住)の場合、以下のようにそれぞれ引かれ、年間の差し引きは合計44万4000円になりました。

・国民健康保険料が年18万円
・介護保険料が年9万6000円
・住民税と森林環境税が年15万6000円
所得税が年1万2000円

月額に直すと約3万7000円ですから、額面月額18万円の年金でも、手取りは月14万3000円程度まで下がってしまいます。もちろん実際の額は自治体や所得状況で変わりますが、社会保険料の重みが家計に強く響く構図は、多くの単身高齢者に共通しています。

「年金月18万円」という額面の数字だけを見て安心するのではなく、そこから何が引かれ、最終的にいくら残るのかまで確かめる必要があります。

■非課税ラインで大きく変わる年金の手取り

東京都の公表資料では、2020年の東京都の65歳以上の単独世帯は81万1408世帯で、2015年より7万1897世帯増えて9.72%増となっています。

出所:令和2年国勢調査人口等基本集計結果概要|東京都

また、東京都は将来推計として、2045年には高齢の一人暮らしが122.3万世帯になり、高齢世帯全体の46.4%を占める見通しも公表しています。

出所=「東京都世帯数の予測」の概要|3月|都庁総合ホームページ

こうした単身高齢者の増加を考えると、他人事ではありません。物価高が進む中、住民税の非課税ラインが気になる方も多いようです。

65歳以上の単身高齢者の場合、住民税の非課税ラインは公的年金等控除110万円を踏まえると、年金収入ベースでおおむね155万円前後が一つの目安になります。(均等割・所得割の基準による)

ただし、国民健康保険料や介護保険料の軽減判定は、住民税の非課税かどうかで決まるため、自治体によっては年金収入100万~120万円前後で負担が大きく変わるケースがあります。

■年24万~30万円の収入増で負担も増

結果として、年間10万~30万円の負担増になることも珍しくありません。特に、企業年金の分割受け取りや個人年金の受け取り、退職後のアルバイト収入などが合算されると、本人が気づかないまま非課税ラインを超えてしまうケースが多くあります。

年金の額面だけでなく、住民税非課税の境界ラインを意識することが、老後の手取りを守るうえで非常に重要です。

たとえば、企業年金の分割受取で年24万~30万円の収入が増えると、非課税から課税に転落し、国保・介護保険料・住民税が一気に跳ね上がります。結果として「収入が増えたのに手取りが減る」という逆転現象が起こります。

【住民税非課税ラインの目安(単身高齢者)】
・年間所得45万円以下(均等割非課税)
・年金収入ベースで約100万~120万円以下

【非課税→課税に変わると起こる負担増】
・国保:年+5万~10万円
・介護保険料:年+1万~3万円
・高額療養費の限度額アップ
・介護サービス自己負担アップ
・行政サービスの減額消失

■非課税から外れて跳ね上がる自己負担上限額

なお、以下のケースは実際に介護サービスを利用している単身高齢者の事例です(単身高齢者・全国平均ベース)。介護サービスを利用している人は、住民税が課税か非課税かで自己負担額が大きく変わります。

非課税の場合は保険料が軽減され、介護サービスの自己負担割合も原則1割です。課税されると保険料の段階が上がるほか、本人の所得水準によっては自己負担割合が2割・3割になることもあります。

また、1カ月あたりの自己負担上限額(高額介護サービス費)も、非課税世帯は2万4600円、一般的な課税世帯は4万4400円と差があり、結果として月々の負担が数千円~数万円単位で増えるケースがあります。

つまり、住民税が課税されることで介護保険料の負担が増え、さらに所得水準次第では介護サービスの自己負担割合や上限額も上がるため、複数の要因が重なって「社会保険料と介護費の二重の負担増」につながることがあります。その結果、家計への影響が、想定より大きくなることも十分考えられます。

<ケース設定①年金負担のシミュレーション>
年金収入:年130万円(住民税は非課税)
企業年金の分割受取:年30万円追加
合計年収:160万円→住民税が課税される

これにより、国保・介護保険料の軽減が消え、負担が大きく増えます。

【年間の総負担増(典型例)】
・国民健康保険料:+10万円
・介護保険料:+5万円
・住民税:+7000円
・介護サービスの自己負担増:+5万円
合計:年間+20万~30万円の負担増

年金収入が増えても負担も増えてしまい、結局は手取りがほとんど増えなくなります。

■+24万円のはずが手取りは+8万円

企業年金(確定給付企業年金・厚生年金基金など)は、公的年金等控除の対象になるものが多い一方で、企業年金の種類や自治体の計算方法によっては、公的年金等控除が適用されず、受け取った金額がそのまま所得として扱われるケースがあります。

そのケースをご紹介します。

<ケース設定②実際に課税扱いになってしまった人の例>
年金収入:年110万円(制度上は非課税になることが多い)
企業年金の分割受取:年24万円追加
合計年収:134万円

※自治体によっては、企業年金の扱いや控除の計算方法により住民税が課税扱いになるケースがあります(実務上の差)。

【非課税時】
・国民健康保険料:年7万円
・介護保険料:年5万円
・住民税:0円
合計:年12万円

【課税扱いになったケース(実務例)】
・国保:年17万円
・介護保険料:年10万円
・住民税:7000円
合計:年27万7000円

※負担増:+15.7万円

企業年金の分割受取が年24万円なのに、負担増が年15.7万円となり、手取りは実質8万円しか増えていません。

年金の額面だけでなく、住民税非課税ラインを意識することが、老後の手取りを守るうえで非常に重要です。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■引かれすぎた年金の税金を取り戻す方法

公的年金のうち老齢年金は、条件に当てはまると振込のたびに所得税が源泉徴収されます。

そして、年の終わりに確認すると引かれすぎになっていることがあり、その場合は確定申告で戻ることがあります。

出典:日本年金機構「『令和7年分公的年金等の源泉徴収票』の送付について」

特に、次のようなものなどを受ける場合は、確定申告をすれば還付を受けられることがあります。

・対象の扶養親族がいるのに扶養親族等申告書を出していなかった場合
・医療費控除・セルフメディケーション税制
・社会保険料控除
・生命保険料控除

配偶者や扶養親族がいるのに申告していないと、年金からの天引きが不利になりやすいです。申告は「扶養親族等申告書」を日本年金機構に提出することで行います。以下のようなケースはよくあります。

・父親が亡くなったことで母親を年の途中から扶養することになった
・働いていた妻が仕事を退職したことで年の途中から扶養することになった

なお、令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除や給与所得控除が物価上昇に合わせて引き上げられる仕組みが創設されました。これに伴い、住民税側でも非課税限度額や基礎控除の扱いを見直す方向が示されており、今後は住民税の非課税ラインが変動する可能性があります。

年金生活者にとって住民税非課税かどうかは、医療費・介護費・保険料の負担に直結するため、税制改正の影響を定期的に確認することが重要です。

出典:
・財務省「令和8年度税制改正の大綱」
・総務省「地方税制度の概要(住民税)」
・国税庁「公的年金等の源泉徴収」

■薬の領収書は5年間捨てずに残しておく


「医療費控除」とは、自分や生計を一にする親族のために1年間に支払った医療費が10万円を超えた場合、税務署に確定申告することにより、その超過支払い分の医療費が課税対象の所得から控除され、税金の一部が還付される制度です。

なお、医療費控除の「自己と生計を一にする配偶者やその他の親族」は、日本年金機構に出す扶養親族等申告書に書いた人だけを指すわけではありません。

例えば、同居していない母の医療費でも、生計を一にしていて子が実際に支払った場合や所得のある配偶者等の医療費でも、生計を一にしていて実際に支払った人は控除の対象になります。

また、市販薬の購入が多い年は「セルフメディケーション税制」の対象になります。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制は、いずれか一方を選択して適用を受けることになります。

写真=iStock.com/MJ_Prototype
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MJ_Prototype

また、セルフメディケーション税制は、対象医薬品の購入額から1万2000円を引いた額が控除対象なので、少額の場合は大きな効果は得られません。市販薬購入の際、セルフメディケーション税制対象の商品には識別できるようマークが付いています。

申告の際は、レシート等に記載された該当商品の購入金額を計算して、明細書を提出する必要があります。なお、明細書を添付することで、レシート等の提出は不要ですが、5年間は捨てずに保管しておくようにしましょう。

他にも社会保険料控除(国民健康保険料・介護保険料)、生命保険料控除や損害保険料(地震保険)控除などを受ける場合は、確定申告により還付を受けられる可能性があります。

■額面だけでは安心できない老後のお金

年金は「額面」ではなく「手取り」で生活が決まります。

国保・介護保険料・住民税・所得税は、年金から自動的に差し引かれます。さらに、住民税非課税ラインを1円でも超えると、保険料の軽減が消え、年間10万~30万円の負担増になることも珍しくありません。

企業年金の受け取り方や退職後の収入によっては、「収入が増えたのに手取りが減る」という逆転現象も起こります。

老後の家計を守るためには、以下のことがとても重要です。

・自分の年金の手取り額を把握すること
・住民税非課税ラインを意識すること
・必要に応じて確定申告で還付を受けること

年金の額面だけで安心せず、「最終的にいくら残るのか」を確認することが、老後の生活を安定させる第一歩になります。

----------
川淵 ゆかり(かわぶち・ゆかり)
ファイナンシャルプランナー
川淵ゆかり事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学や専門学校での非常勤講師としても勤める。
----------

(ファイナンシャルプランナー 川淵 ゆかり)