「ギャラはわずか」「メイクと衣装は自前」…急増する「ショートドラマ」制作現場は”やりがい搾取”なのか?
感情を次々とかき立て続ける物語と1話わずか1分~3分の超短尺の縦型動画で、人々をとりこにしている「ショートドラマ」コンテンツが、日本でも近年急増している。
スマホのスクリーン比に合わせた中国発の動画コンテンツの人気は中国で社会現象となり、同国の市場規模は2兆円を突破。国内の視聴者は約7億人に上り、今や映画産業をも凌ぐ存在となった。
今年5月にBSスペシャルで放送された『中国 ショートドラマの光と影』では、視聴データを絶対視するクライアントからむちゃな注文が繰り返され、制作現場が疲弊する様子を紹介。低コストで最大の利益を上げるためのシステムが人間を追い詰める実態が明らかになった。
日本テレビやテレビ東京など日本のテレビ局も製作に乗り出すなか、日本のショートドラマを取り巻く制作現場の環境とは、どのようなものなのか?
ツテを頼って“トモダチ価格”で出演依頼
中国でバブルの様相を呈しているショートドラマ業界。同国では地方の農村に住む高齢者にも、ショートドラマアプリでのスマホ視聴が根付き、制作費400万円で100倍以上の儲けが出るといった話もあるようだ。
「縦型ショート動画は日本だとPRのための、刹那的なコンテンツというイメージが強く、広告に近い業界とも思われがちです。ですが、演者や監督・脚本家など中のスタッフは映画・ドラマ出身の人も多く、不思議な業界でもあります」
そう語るのは映画プロデューサーのX氏だ。
コロナ禍を機にショートドラマ作品を手掛けるようになり、現在は映画制作の傍ら毎月8本ほどの撮影を同時進行で動かしている。
「小・中規模の映画で10日間の撮影を行う場合だと、カメラマンの報酬だけで1日3万円で合計30万円程度です。さらに機材レンタル費で10万、アシスタントが1人入るとプラス15万円というかたちで、だいたい50万円以上は掛かります。これが映像の質を担保する相場なんですが、予算の関係でショートドラマはその半分くらいしか出せません。なので、うちはツテに頼って“トモダチ価格”でお願いしています」(X氏)
日本国内のショートドラマ視聴者の多くは、YouTubeやTikTok、InstagramなどのSNSで視聴している。YouTubeの場合、ショートドラマと一般的な動画(長尺動画)の最大の違いは、広告費が分配される仕組みと1再生あたりの単価だ。
YouTubeショートでは個別の動画に広告を紐付ける個別配置ではなく、全体の広告収入を一度まとめて分配するクリエイタープール方式。また、一般的な長尺動画に比べて、再生数が伸びやすいショートドラマは、単価が低い傾向にある。
「1本の動画を数千万再生させても広告収入は数万円程度。予算感はテレビ局などとコラボすると、また違ってきますが、すでに基準が業界で浸透していて、発注側も積極的には上げにくい状況です」(X氏)
漫画より手軽とも言われるショートドラマの代表的な人気ジャンルといえば不倫・浮気などの修羅場・復讐モノだが、近年はハートフル系の日常ネタやホラー、コメディといったジャンルも台頭している。
ショートドラマでのブレイクやアワードでの受賞を機に、俳優やクリエイターが地上波へ進出を果たす登竜門的な動きも目立ち、SNS動画制作チーム・チャンネルごとの作風などによって視聴者層は大きく異なる。
「私が携わるチャンネルの視聴者さんは、約7割が40~50代男性です。グラドルや元アイドルなど異業種から、役者に転向してショートドラマの世界で活躍するケースも多く存在します。稀にテレビでもお馴染みの有名俳優などをゲスト出演者としてお呼びすることもあり、その際は出演料なども多少配慮していますが、本当に若干の差ですね」(X氏)
1日で4~6話を撮影 「衣装・メイクは自前」
「制作本数が増加し、現在は制作の一部を外部の制作会社に委託しています。スケジュール感としては、撮影の2週間ほど前に制作会社の監督・助監督さんと打ち合わせし、遅くても1週間前にはグループLINEで出演者さんに日程などを共有・調整するというかたちです」(X氏)
激しい競争が繰り広げられているショートドラマの本場・中国では、毎月1000本を超える新作が配信され、撮影スタッフが長時間労働を強いられる一方、AI俳優の起用なども進む。だが、日本の制作現場でのAI活用はVFXなどに用いる程度で限定的なようだ。
大学時代に有名演劇サークルに加入し、現在も舞台俳優として活動するYさん(30代・女性)は3年前、自身が出演する短編映画が関係者の目に留まったことがきっかけで、ショートドラマの世界に飛び込んだ。
「事務所経由で『今度ショートドラマやるので、もしよろしければ』と、お声がけいただきました。撮影の1週間~5日前に脚本が送られることが多く、セリフを覚えて当日に1回合わせて本番という流れなので、スケジュールはタイトと言えばタイトですね。ショート動画のため長セリフはありませんが、全体だとそれなりのセリフ量になることが多いです」(Yさん)
中国では60話のドラマをわずか5日で撮り切り、「命を削る仕事」とも呼ばれる過酷な制作現場も少なくないようだが、Yさんがメインで出演しているチャンネルの撮影日は月2回。1日で4~6話分を撮影する。
「ありがたいことに最近はいろんなチャンネルさんから声をかけていただく機会もあり、舞台と重なると、体力的にも気持ち的にもハードに感じるタイミングもありますね。ただ、撮影自体は1日だけなので、そこまで支障は感じていません」(Yさん)
ショートドラマの撮影は基本的に朝8時/9時から現場に入り、昼休みを挟んで12時間に及ぶことも多く、よほど特殊なものではない限り、衣装やメイクは自前。所属事務所が請求書をやり取りし、作品ごとの契約書や発注書などは交わしていないという。
「その代わり縛りも少なく、自由に他のチャンネルや制作チームの作品に出演できるメリットもあるのかなと。撮影日は1話分を撮り終えたら、すぐに着替えて次の撮影という感じで、出番待ちはほとんどありません。
役の出番が1話分ない時は1~2時間待機することもありますが、ショートドラマでは主要キャストもエキストラに使われることも多いです」(Yさん)
「微々たるギャラ」でも役者のモチベが高い理由
「具体的な数字は控えたいんですが、所属事務所と出演料を分配していることもあり、時給換算だと手残りは正直、微々たるものですね。企業PR案件だと現場にメイクさんや衣装さんがいて、ギャラも若干高かったりするんですけど。私の知る限り、どこのチャンネル・現場も懐事情はそこまで大きく変わりません」(Yさん)
地上波の連続ドラマ出演の経験もあるYさんだが、ショートドラマに出演するようになってから街で声をかけられることが格段に増え、影響力を実感するという。
「定期的な映像のお仕事があること自体、役者には非常に珍しいことなので、そこがモチベーションとしては一番大きいですね。認知されることも生き残っていくうえで大事ですし。
ショートドラマであっても長く残る映像の仕事ではあるので、その意味では努力が自分に返ってくる感覚はあります。できる限りの範囲ですが、なるべく後悔しないように役作りもしたいなと。最近は出演者もスタッフもお互いに気心が知れた仲間になってきて、撮影後、飲みに行くこともあり、意外と劇団に近い雰囲気も感じます」(Yさん)
日本のショートドラマ制作は、視聴者の好みを分析するアルゴリズムとビッグデータに支配され、AIによるドラマ制作に舵を切る中国の制作環境とは違う部分も多いようだ。
前出のプロデューサー・X氏は、世界的にも成長が著しいショートドラマを足掛かりに映像業界でステップアップを目指すスタッフや出演者も多いからこそ、他の映像業界に見劣りしない労働環境の整備が必要だという。
「規模の大きいチャンネルだと、その場限りの関係性のメンバー・チームの現場も多いので、労働基準法上の問題をはらむ働き方やハラスメントの温床になる面はあるのかなと。撮影現場をハシゴしている人はハードワークに陥りやすい印象ですが、とくにショートドラマで問題なのは、やはり報酬面ですね。
過去に仕事した役者から、成果報酬で支払われる仕組みだったため再生回数が伸び悩み、ほぼノーギャラになったケースもあったと聞いたことがあります。」(X氏)
映画界では撮影現場の労働時間や契約内容など、適正な制作環境が整った作品に認証を付与する「映適マーク」制度の導入が進んでいる。TVドラマやTVCMの撮影現場でも、労働環境に対する意識が高まっているなか、相対的にショートドラマ業界は “やりがい搾取”と指摘されかねない労働環境や収益構造の課題があるようだ。
「それぞれ事務所との分配の割合などもあるので単純比較はできませんが、我々のキャストさんも時給で言ったら最低賃金より低いレベルだと思うので。『いつも撮影楽しみにしています』と言ってくださる役者さんが多いんですが、労力に見合った真っ当な報酬を保証できる環境を1日でも早く実現していきたいです」(X氏)
【もっと読む】『昔は年収2000万、いまや700万 どん底に落ちたフジテレビ社員たちの肉声』
