「役職定年で年収700万円が490万円、定年後の再雇用でさらに4割減の294万円に」…54歳社員が絶句【老後の生活設計をFPが助言】
役職定年、そして60歳以降の再雇用--。中高年会社員を待ち受けるのが「二段構えの減収ショック」だ。年収700万円が55歳で490万円に、60歳以降は約300万円になると知った54歳会社員は、「そんなに減らされて、どう生活すればいいのか」と頭を抱える。収入減を目前にして、何を準備すべきなのか。ファイナンシャル・プランナーの上原千華子さんが指南する。
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【Case】「来年から年収490万円、60歳からは約300万円に」社内セミナーで知った衝撃の減収
「えっ、収入がそんなに減るのか」--。社内で開催されたセカンドライフセミナーで、老後に向けての給与の見通しを聞かされた淳史さん(54歳)は絶句した。現在、都内の中小企業で課長を務め、年収は約700万円。それが、55歳からは役職定年となり、管理職手当がなくなり基本給も改定されるというのだ。提示された見込み年収は約490万円、実に3割もの減収である。

さらにショックだったのが、定年後の再雇用での給料だ。60歳以降も同じ会社で働き続ける場合、役職定年後の収入がさらに4割減となり、年収は約300万円になってしまうというのだ。
「先輩が『再雇用の給料なんてバイト代みたいなもの。東京都の最低賃金に合わせていると会社から言われたよ。定年後もこの会社にいるかどうか、今から考えておいたほうがいい』なんて言っていたのに、全然ピンときていなかったのです」
今、淳史さんの重荷となっているのが住宅ローンと、20歳になった一人息子の学費だ。息子が大学を卒業したら老後資金を一気に貯めはじめ、退職金で住宅ローンを返済しようと考えていたが、こうも収入が減るようでは生活していくので精いっぱいで、老後資金を増やすのは難しいのではないか……。淳史さんは頭を抱えている。パート勤務の妻も、「60歳になったら二人で海外旅行をしたかったけれど、それどころじゃなさそうね」と残念そうだ。
【FPの助言1】収入が下がる前に「家計の見える化」を急げ
「淳史さんのように、役職定年や再雇用が目前に迫ってから『こんなに収入が減るなんて』とパニックになる方は多いですね」
FPの上原千華子さんは、相談現場のリアルをそう語る。企業によって差はあるが、役職定年によって給与がそれまでの7割程度まで下がるケースも珍しくない。再雇用後の賃金は企業や勤務形態によって大きく異なるが、定年前より大幅に下がる例は少なくない。人手不足を背景に再雇用後も現役並みの待遇を維持する動きが一部の企業で出始めているものの、それはまだごく一部の例外に過ぎない。再雇用後に勤務日数を減らされ、月収が十数万円程度になるケースもある。
「避けたいのは、実際に給与が引き下げられてから慌てて生活費を切り詰めようとすることです。人は一度上がった生活水準を急激に落とすことに耐えられず、精神的に大きなストレスを抱えがちです。そうならないよう、収入が比較的高い50代前半から『どの時点で収入がいくら下がるのか』を正確に把握しておきましょう。同時に、退職金や公的年金の見込額も知っておきたいところです」
公的年金の見込額については、誕生月に日本年金機構から届くはがき「ねんきん定期便」などで知ることができる。
あわせて、住宅ローンの完済までの道のりや子どもの教育費が何歳まで続くのか、現在の生活費はどのくらいかかっているかといった、負債や支出の全体像も直視する必要がある。
「こうした資産と負債、収入と支出の全体像を紙に書き出して見える化すると、“年収が半分になる!”と過度にうろたえることはなくなります。というのも、定年を迎える60歳前後は、人生の中で支出が大きく減るタイミングでもあるからです」
多くの場合、定年前後になると子どもが大学を卒業して社会人として独立する。重くのしかかっていた教育費の支払いが終わり、子どもが独立すれば食費や小遣い、水道光熱費といった生活費そのものが丸ごと浮くことになる。
「一般的に、定年退職後は教育費の終了や交際費の減少によって、現役時代に比べて支出が2割近く減ると言われています。ただ、多くの場合は、その支出の自然減以上に収入の減少が大きいはずです。支出の自然減にまかせず、通信費や保険料といった固定費を今のうちにスリム化しておくことが、資産防衛の第一歩となります」
とくに見直し効果が高いのが生命保険だ。子どもが独立して夫婦2人の暮らしになれば、万が一の際に必要となる死亡保障額は激減する。過剰な死亡保障部分を解約するだけで、毎月2万~3万円の固定費を浮かせることができるケースも多い。
【FPの助言2】知っておくべき「高年齢雇用継続給付」と、退職金で一括返済の危険性
再雇用後に収入が急減した際、心強い味方となってくれる公的なセーフティネットが存在する。それが雇用保険から支給される「高年齢雇用継続給付」だ。これは、60歳以降も同じ会社などで働き、賃金が60歳到達時点の75パーセント未満に下がった場合に支給されるものだ。雇用保険の被保険者期間が5年以上ある会社員であれば、低下率に応じて再雇用後の賃金の最大10%相当(上限額あり)が賃金に上乗せされる。給付は原則として、60歳になった月から65歳になる月まで受けられる。
「この給付率はかつて最大15%でしたが、2025年4月1日以降に60歳を迎える人について、給付率が最大15%から最大10%に引き下げられました。給付率は縮小傾向にあるものの、フリーランスや個人事業主にはない、会社員ならではの恩恵です。手続きは原則として会社が行うため、定年が近づいたら担当部署に確認し、給付込みでの手取りを試算しておきましょう」
会社員にとってもう一つの大きな資産が退職金だ。これを「ローンの繰り上げ返済にあてる」か「投資にまわす」か迷う人は多い。
「住宅ローンを退職金で一括返済して身軽になりたい、全額を投資にまわして少しでも増やしたい……、いろいろな思いがあるかと思います。気持ちはわかりますが、退職金のすべてを返済や投資にまわすのはおすすめできません。古くなった住宅の修繕や自身の入院など、今後もさまざまな出費が待ち受けています。稼ぐ力が落ち、ローンを借りにくい老後においては、預貯金などですぐに引き出せる形で資金をある程度確保しておくほうが安心です。少なくとも生活費1年分は手元にしっかり残しつつ、それ以外で新NISAなどを手堅く運用する、一部を繰り上げ返済するなど、バランスよく配分することが大切です」
また、役職定年と定年退職後の減収を乗り切るための最大の鍵は、支出のコントロールだけでなく「働き方のシフト」にあると上原さんは強調する。
「老後も現役時代と同じようにバリバリ稼がなければと気負う必要はありません。たとえ夫の月収が十数万円だったとしても、妻もパートに出て月に数万~十数万円を得られれば、世帯収入の落ち込みを補い、生活費をカバーしやすくなります。65歳以降は公的年金も含めた世帯収入と支出をあらためて試算する必要があります」
50代のうちから家計の全体像を見通し、準備を整えておけば、給与明細の数字に怯えることなくセカンドライフを迎えることができるはずだ。
※プライバシー保護のため、記事で紹介する事例は、具体的な状況の一部を変更しています。
今回のアドバイザー/上原千華子さん
金融教育家/ファイナンシャル・セラピスト。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴25年以上。AFP、証券外務員一種、NLP(実践心理学)マネークリニック®認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。心理学を取り入れたライフプランと資産運用をアドバイスしている。現在は企業・大学でも登壇し、延べ5000名以上に金融教育を届けている。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)。
取材・文/鷺島鈴香
デイリー新潮編集部
