欧州責任者が語る『フィアット』のあるべき姿 原点に立ち返り再出発 課題はパンダ後継車 新型『グリズリー』の車名に込めた意味とは
ブランドのアイデンティティ
再び「ビッグ」な存在になるために、フィアットは「スモール」という自身のアイデンティティを受け入れる必要があった。
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これは一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれないが、イタリアの国民的自動車ブランドとして全盛期を迎えてから数十年にわたる苦闘の末、フィアットはついに成功への道を見出した。それは、これまで最も得意としてきたこと、すなわち小型車の生産に注力することだった。

フィアットの欧州責任者ガエターノ・トレル氏とグランデパンダ
フィアットの「名車」と呼ばれるモデルを思い浮かべれば、その多くは小型車だろう。近年の大型車の開発は、いずれも成功には至らなかった。
そこで、ステランティス傘下で再出発を果たしたフィアットは、自社の強みに注力するようになった。『500e』や『パンダ』に加え、『500ハイブリッド』、『グランデパンダ』などが登場し、超小型四輪車『トポリーノ』も好調な売れ行きを見せている。フィアットの現在のモットーは「ビッグ・イン・スモール」だ。
この再出発を牽引しているのは、約15年にわたりCEOを務めてきたオリヴィエ・フランソワ氏だが、彼は8月末に退任を発表した。しかし、同社の欧州部門責任者であるガエターノ・トレル氏もまた、重要な役割を果たしてきた人物だ。
フランソワ氏の壮大な構想とマーケティング手腕だけでなく、トレル氏の細部へのこだわりと販売手腕も過小評価すべきではない。そう聞くと堅物な印象を受けるかもしれないが、トレル氏はしばしば演劇的な身振りとともに、情熱を持って自身の想いを語る。
今やステランティスを支える存在に
その紛れもないイタリア人的な気質は、いかにもフィアットの精神と相性が良さそうだ。
しかしながら、トレル氏は実際にはフォードで20年以上勤め、わずか10年前に当時のフィアット・クライスラー・オートモービルズに移籍し、2021年に現在の役職に就いたばかりだ。それでも、彼はフィアットで働いていること、そして同社の再出発における自身の役割を誇りに感じているようだ。

フィアット・グランデパンダ
「わたし達は砂漠を横断し、生き残ったのです」とトレル氏は言う。
「今、フィアットブランドを本来あるべき位置に据えたい。それは長い道のりですが、わたし達が向かっている方向にはとても満足しています。フィアットは現在、ステランティスの欧州における成長の原動力です。毎月10万台以上を安定して販売しているのです」
販売を牽引しているのはグランデパンダだ。トレル氏によると、欧州でよくみられる法人向けの販売ではなく、一般消費者への直接販売の割合が高いという。
「ブランドの強さを測るには、B2C(ビジネス・トゥ・コンシューマー=企業が一般消費者に対して提供する製品やサービス)のシェアを見るべきです。なぜなら、ブランドを選ぶのは一般消費者だからです」とトレル氏。
今年に入ってから、フィアットは欧州のB2C販売台数ランキングで5位についており、昨年の13位から順位を上げている。
まだ伸びる余地のある新型500
「まだ完璧とは言えません。500ハイブリッドについては、現状の成果以上に高い期待を抱いています。しかし、2年間も市場から引いていたモデルを再び市場に定着させるのは容易ではありません」
500ハイブリッドは、近年のフィアットの柔軟な対応ぶりを示す1台である。当初の計画では、現行世代はEV専用モデルとなり、前世代のガソリンモデルは生産終了する予定だった。しかし、500eへの需要が予想通りに伸びなかったため、フィアットはプラットフォームを改良し、小型ガソリンエンジンとマニュアル・トランスミッションを搭載できるようにしたのだ。

フィアット500ハイブリッド
500は2007年の復活以来、大きな成功を収めており、その人気はブランド自体の人気を凌駕するほどだ。したがって、ステランティスのコスト重視のスマートカー・プラットフォームをベースに、フィアットのもう1つの小型クラシックモデルの精神を蘇らせたグランデパンダこそが、小型車に特化するというブランドの専門性を確固たるものにしたと言えるだろう。
フィアット最大の新型SUV
トレル氏は、「フィアットには2つの領域があります。小型車と小型商用車です。乗用車に関しては、フィアットのルールは明確で、全長は2.0mから4.5mまでです」と述べた。
最小モデルはトポリーノだが、今年フィアットはその反対側に位置するCセグメントのSUV、新型『グリズリー』を発表した。グリズリーは当初、欧州市場を念頭に開発されたわけではなかったが、開発中に方針が変わった。

フィアット・グリズリー
「グリズリーは、フィアットらしいプロジェクトの典型例です。グローバルなモデルであり、トルコやラテンアメリカでの競争を想定して設計されていますが、ここ欧州においても、これまでとは異なるコンセプトのファミリーとして提供できるからです」とトレル氏は語る。
全長が4.5m近くに達するにもかかわらず、グリズリーはグランデパンダと同じコスト重視のスマートカー・プラットフォームを採用しており、トレル氏は「価格を公表した際、市場を驚かせるでしょう」と自信を見せる。
グリズリーは、SUVモデルに続いてファストバックモデルも投入される予定で、いずれもEVおよびハイブリッド車が用意される。
低価格のパンダ後継車も計画中
さらに、トレル氏の大きな課題として、パンダの後継車がある。現行世代のパンダは2012年に発売され、英国ではすでに販売終了しているが、イタリアでは今もベストセラー車であり続けている(イタリアでは現在『パンディーナ』として販売)。
トレル氏は「パンダユーザー」への責任として、EVへの乗り換えを望まない顧客のために手頃な価格の後継車を開発する意向を示している。これは容易な課題ではない。小型車への需要は確かに存在するが、利益率は低いからだ。そのため、多くの競合他社が小型車から撤退してしまった。

パンダは今もイタリアで『パンディーナ』として販売されている
「これはブランドの社会的役割に関わる問題です」とトレル氏は言う。「わたし達がイタリアにおいて社会的責任を負っているのは明らかです。イタリアは小型車の国ですから」
そうした姿勢から、パンダ後継車をイタリアで生産するよう推進しているという。トレル氏は「経済的には最善の決断ではないかもしれませんが、わたしにとってこれは経済的要因を超えた問題なのです」と指摘する。
万人のためのブランドではない
欧州におけるこうした課題に対し、フィアットとトレル氏は明確な戦略と確固たる決意を持って立ち向かっている。すなわち、「スモール」な製品に力を入れることで、再び「ビッグ」な存在になるというものだ。
「自らの理念が明確であれば、すべてがずっと容易になります。Dセグメント車などを開発する必要性は感じていません。ステランティスには、そのためのきょうだいブランドがあるからです」
「フィアットは万人のためのブランドではありません。そう装うつもりもありません。小型車として認知されている--それだけで十分です」
なぜ『グリズリー』と名付けたのか
車名の由来となった動物のグリズリーは、ご存知の通り抱きしめたくなるような可愛い存在ではない。獰猛な肉食動物であるため、誰も空腹のグリズリーを怒らせたくはないだろう。トレル氏も、「厳密には攻撃的な動物」だと認めている。
フィアットは、恐ろしい動物にちなんで名付けられたSUVを、小さくて愛らしいモデルが揃うラインナップにうまく溶け込ませなければならない。なぜこの名前を選んだのだろうか?

フィアット・グリズリー(ファストバックモデル)
「これはパンダファミリーの中で最大のモデルだからです」とトレル氏は説明する。
「フィアットには、パンダとグランデパンダがあります。パンダより大きなクマといえば何でしょう? グリズリーです」
「今の課題は、グリズリーをフィアットらしい動物として、親しみやすく、笑顔あふれる存在にすることです。でも、信じてください。広告をご覧になれば、わたし達がどのように実現したか、きっとお分かりいただけるでしょう」

