プレミアでは押し込まれる時間も増えるイプスウィッチだけに、守備で自陣まで戻り、そこから攻撃にも出ていける前田の走力は大きな価値を持つ。

 サンダーランド戦では左サイドを繰り返し上下動し、2-1の勝利に貢献した。2-5で敗れたマンチェスター・U戦では、味方のパスに反応して左から最終ラインの背後へ抜け出し、左足でゴールを狙った。シュートはGKに阻まれたものの、自慢のスピードをプレミアの舞台でも活かせることを感じさせた。

 だからこそ、ジョーンズ記者はリバプール戦だけで前田を判断するべきではないと話す。

「この試合だけを切り取って、ダイゼンの実力を判断するのはナンセンスだろう。我々の目標はあくまでもプレミアリーグ残留だ。強豪リバプールに負けたとしても、それは仕方がない。ダイゼンの走りは今後、活きてくるはずだ」

 その評価は、スタンドから伝わってくる空気とも重なる。

 キックオフ前、場内アナウンスで「Daizen Maeda」の名前が読み上げられると、歓声の音量が一段上がった。ジョーンズ記者によれば、プレシーズンマッチから前田を評価する声は多かったという。

「すでにファンのお気に入りだよ。ゴールやアシストができる選手は、もちろん高く評価される。でも、ダイゼンはチームのために戦える選手だ。持っているエネルギーをすべてチームに注いでくれる。その姿勢が素晴らしい。イングランドのフットボールファンは、ダイゼンのような選手が大好きなんだ」
 
 昇格組のイプスウィッチにとって、プレミアでは守る時間が長くなる試合も少なくない。そんな状況でも、前田は高い位置から相手を追い、自陣深くまで戻り、ボールを奪えば再び前へ走る。その献身性を、サポーターは早くも理解している。

 日の丸を背負った前田がマッチデープログラムの表紙を飾ったことも、クラブ内での期待の大きさを物語っている。そして、その期待をさらに大きくするために必要なものも明確だ。ゴールである。

 セルティックでは2024-25シーズン、公式戦33ゴールを記録した。ジョーンズ記者も「もちろん、ゴールにも期待している。セルティックでは、それを証明してきたからね」と話す。

 リバプール戦では、左サイドバックのレイフ・デイビスが大外を駆け上がると、前田が中央へ絞り、シャドーの位置からゴール前へ入っていった。29分、右からのクロスに合わせてファーポストへ走り込んだのも、その1つだった。

 守備では自陣まで戻り、攻撃に切り替われば一気にゴール前へ向かう。その長い距離を何度も往復しながら、前田は得点の機会を探している。

 プレミアリーグで3試合を終えて、まだゴールはない。

 それでもポートマン・ロードの住人たちは、すでに前田の走りに拍手を送っている。次に彼らが待っているのは、その走りの先でネットが揺れる瞬間だ。

取材・文●田嶋コウスケ

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