高田史拓氏(右)と山火武氏(YouTubeチャンネル「wakatte.tv」より)

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学歴モンスター

 YouTubeの学歴バラエティー「wakatte.TV」が行った国立大学法人福島大学への侮蔑的な発言が、物議を醸し続けている。この問題は複雑。表面的に捉えるだけでは本質が見えてこない。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 wakatte.TVは2017年に開設された。チャンネル登録者数は約77万8000人。映像の総再生回数は約13億回に達しているという。

 物議を醸したのは今回が初めてではない。2019年には「法政大学、第一志望0人説」という映像を公開し、大炎上した。

 同大の入学式会場の周辺で、新入生たちに「第一志望だった?」と聞く企画だった。同大は社会に貢献する幾多の人材を輩出している名門だが、wakatte.TVにはなぜか一貫して過小評価されている。

高田史拓氏(右)と山火武氏(YouTubeチャンネル「wakatte.tv」より)

 wakatte.TVに登場しているのは2人。ともに30代の高田史拓氏と山火武氏である。2人は全国400校以上を展開する大学受験向けの大手学習塾「武田塾」で教務を担当している。

 高田氏は京都大学経済学部中退、山火氏は早稲田大学教育学部卒であることをwakatte.TV内などで明かしている。ともに難関大への合格経験があるためか、大学に進学していない人や、比較的入りやすい大学の学生や卒業生を軽んじる発言を繰り返してきた。

 特に「学歴モンスター」を自称する高田氏は、難関大に一般入試で合格した人以外を評価しない。認める大学は東大など旧帝大と一橋大、東京科学大、早稲田大、慶應大、さらに一部の医学部などに限られる。そんな価値観で動画をつくるのだから、内容は自然と挑発的になる。推薦入学組も軽んじている。

 2020年にも問題が起きた。高田氏が取材で訪れた広島県でパンを食べたのだが、「高卒が作った単純なパンでした」と評した。やはり大炎上した。

 福島大への侮蔑的な発言は社会的通念に反すると言わざるを得ないが、高田氏の過去の言動を考えると、意外に思わなかった人もいるのではないか。

 まず、2人で同大を訪れた。全国の大学を紹介する企画「キャンパス調査」の一環である。その中で学生が、東日本大震災後の2013年に新設された「環境放射能研究所(IER)」を紹介したところ、高田氏は「放射能とか原子力ってエネルギーで超重要な問題なわけですよ。福島大には触らせたくない」と言い出した。8月28日に公開された映像だ。

 これに学長の佐野孝治氏が抗議した。福島市長の馬場雄基氏、いわき市長の内田広之氏も続いた。無理もない。同大は東日本大震災による福島第1原発事故以降、県民の利益のために原子力災害や環境放射能に関する研究に取り組んできたのだから。

 そもそも高田氏は最初から同大を軽んじる発言をしていた。同大もまた有為な人材を数多く輩出してきたが、高田氏の認める難易度に達していないからだ。

学歴主義は別人格?

 もっとも、ここからが複雑なのだが、動画に出ているときの高田氏と山火氏は、本人たちとは別人格ということになっている。動画内の高田氏は「ふーみん」、山火氏は「びーやま」という独立したキャラクターなのである。

 確かにwakatte.TVを離れた2人には異なる顔がある。武田塾の動画での高田氏は常識人そのもの。真摯に受験指導を行っている。入りやすい大学を否定するようなこともしない。

 山火氏もそうだ。受験生に向けた啓発本『17歳のときに知りたかった受験のこと、人生のこと。』(ダイヤモンド社)まで書いている。

 一体、どういうことなのか。高田氏は9月1日、福島大問題についての謝罪コメントを「X」を通じて出したが、それより早い8月9日に「wakatte.TVの炎上による今後について」と題した動画をアップしている。その中で高田氏とふーみんの使い分けについて説明している。

 この動画は同時期、九州大学法学部の岡崎晴輝教授が「X」でwakatte.TVを強く批判したことを受けて制作された。「強い嫌悪感を覚えます」と岡崎教授は投稿した。その後、同調者が相次いだ。

 これを受けて高田氏は「思いのほか、いまさら」と切り出した。さらに「今の子供たちにはwakatte.TVがエンタメということが伝わっていると思っていたし、いまさらエンタメですよと説明するのも変だと思ってたし。それを真に受ける人も一定数出てきちゃって」と語った。

 ふーみんになって難関大ではない学生たちを揶揄しているのは、エンタメだと説明した。放送倫理規定がザル状態だった1990年代までのテレビ界の思考法と似ている。あのころのテレビ界は驕り高ぶり、「洒落が分からないほうがおかしい」という姿勢だった。

 この映像で高田氏の話の聞き役を務めたのはwakatte.TVのプロデューサー。法政大の騒動についてプロデューサーは「(知名度を得ようと)火をつけに行って、ボヤを起こそうと思ったら、大火事になった」と語っている。

 wakatte.TVはYouTubeからの収益が目的でやっているのだろうか。高田氏、山火氏の表の顔である武田塾と無関係なのか。受験生に難関大に入れと追い立てると、利益を得るのは受験産業なのではないか。

 過去にもwakatte.TVを強く批判する人はいた。その1人が、ひろゆき氏(49)である。2024年5月24日、動画配信のABEMA Primeで「学歴厨」をテーマに討論した。学歴厨とは、他人を大学名や偏差値だけで評価する人を指すスラングである。

 高田氏は「学歴は努力の証し」とする一方、高学歴の基準は「旧帝大以上」と主張した。山火氏は「高校時代にもっと勉強しておけばよかったと後悔する大学生もいる」と語り、学歴の大切さを気づかせるwakatte.TVの存在意義を訴えた。

 だが、ひろゆき氏は厳しかった。「低学歴の人を罵倒する必要があるのか」と戒めた。場慣れしていることもあり、ひろゆき氏がスタジオをリードしているように見えた。スタジオにいたほかの人たちもひろゆき氏に同調した。

吉村知事との蜜月

 それでもwakatte.TVは軌道修正しなかった。撮影に協力する高校、大学が次々と現れたことも一因に違いない。受験の参考になる動画として教育界から認知されたわけである。高学歴でない人を見下すところは不問に付された。

 近畿大学は2人が取材に訪れると、医学博士でもある松村到学長が案内役を務めたほどだった。2022年、大阪府立大と大阪市立大の統合によって生まれた大阪公立大を案内したのは吉村洋文・同府知事(51)である。2025年11月の動画だった。

 3人は同年9月に開設された森之宮キャンパスを巡った。映像のタイトルは「【吉村知事参戦!】未来すぎ!大阪公立大学・森之宮キャンパスがヤバいレベルで進化中だった!」。

 一方、福島大の動画のタイトルは「【入試ラクすぎ?】国公立最下位!?震災復興・放射線研究から驚きの入試事情まで!福島大学キャンパス調査!」。両者の扱いには開きが見られた。ちなみに河合塾の2027年度の入試難易予想ランキングを見る限り、同大が国公立大学の最下位というわけでは決してない。

 吉村氏との映像は今年8月にも公開された。大学ではなく、高校である。タイトルは「【レベル高すぎない?】大阪No.1公立天王寺高校に吉村知事と潜入!公立高校改革の現場のリアルに迫る!」である。

 高田氏が吉村氏と高校の視察をしたいと思い、連絡したという。近大の松村学長や吉村氏を伴っているときの高田氏は辛辣な発言をしていない。

 今やYouTubeはテレビと同じく、子供も含めて誰もが観られる環境にある。それなのにテレビ並みの倫理規定がない。厳しくなっているものの、影響力に規制が追いついていない。

 SNS上でのwakatte.TVへの怨嗟の声が続いている。一部視聴者の不満や怒りは福島大問題の前からシャボン玉のように膨らみ、いつ割れても不思議ではない状態になっていたように思う。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部