「明日、何時に来る?」は地獄の言葉…40年以上不登校親子を見てきた相談員が、先生に伝える5つの視点
書籍『不登校から人生を拓く--4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)は、ジャーナリストの島沢優子さんが、相談員の池添素さんと不登校を経験した親子を取材し、その葛藤や歩みを描いた一冊だ。
夏休み明けのこの時期、学校に行き渋る子どもが増える。そんな子どもや親に40年以上寄り添ってきた池添さん。この夏、島沢さんは池添さんに、不登校の子どもたちや親、先生たちに今伝えたいことを聞いた。そこで語られた言葉を、10通の手紙にして届ける。前編【夏休み明け「学校に行きたくない」と言われたら。40年以上不登校親子を見てきた相談員が、親に伝える5つのこと】は保護者へ。後編は、先生たちに向けた5つの手紙を紹介する。
先生へ5つの手紙
手紙1
「明日、何時に来る?」と訊かないで。
この夏出会ったある小学校の先生は5年生の担任。1学期に不登校になった子どもに「明日は何時ごろ来る?」と訊いたそうです。子どもが「午後から」と言えば、それでいいよと返しました。それがやがて4時間目になり、3時間目になり……と登校時間を本人と相談しながら調整してきました。ところが夏休み前になって、突然学校へ来なくなりました。
「何がまずかったのか」と悩む先生に、私は「本人が自分から『明日は何時に行く』と言うのならいいけれど、明日どうする? と訊くのはやめてみましょう」と話しました。なぜなら「明日、どうする?」は、子どもによっては「地獄のような言葉」になります。あくまで自己決定させたほうがいいのです。
この先生が悪かったという話ではありません。子どもを何とか学校につなぎ止めようとしていました。午後からなら来られる、3時間目なら来られる。その小さな成功を積み重ねようとしたものの、結局来られなくなった。となると、ここで必要なのは「上手な再登校の方法」ではありません。行けない時間の短縮化が一番の目的になってしまうと、子どもを置き去りにしてしまいます。
手紙2
「なぜ?」を大人が想像する、考える。
「ゲームやりたい放題、宿題もやらなくていいとなれば、子どもはどんどん甘えてしまいませんか?」
講演会で小学校の先生がこんな質問をしてくださいました。
不登校でもゲームしてもいい、宿題もしなくていいと私は言っています。しかし「ゲーム依存症にならないために親子で話し合ってルールを決めましょう」「約束しましょう」とよく言われます。ところが、大体の場合うまくいきません。
私は「なぜゲームばかりしているのか?」「なぜ宿題をやらないのか?」この「なぜ?」を大人が考えなければ、問題の解決には迫れませんと答えました。つまり、約束したり、罰を与えたり、叱ったりしてもやめない。そうすると言ってやめさせることは現実的ではないわけです。だったら言わなかったらいいと私は考えます。
ゲームばかりするのは必ず理由があるはずです。ゲームしかすることがないのか。ゲームが楽しいのか。そこで「ゲーム」と向き合ってみたら、ゲームはすごく「褒め上手」なんです。すごいね! もっとできるよ! 次はこれをクリアしよう! とすごく褒めて、気分を上げてくれます。
だから、不登校についても「どうしたらいいか?」ではなく「なぜ?」を大人が考えること。子どもに聞くのではなく、親御さんと担任、スクールカウンセラー、校長先生たちみんなで考える。そうすると子どものこころが見えてきます。見えてきたときは、子どもの気持ちになって考えているということ。それは空気として「自分は大事にされている」「生きてていいんだ」と子どもに伝わります。
手紙3
「褒めて」や「宿題がわからない」を知る。
親御さんたちには「ゲームやってる子どもの背中には『褒めて』って書いてあるよ」と言います。ゲームの褒め上手に、人間のほうが負けています。だからいくらでものめり込んでいく。ゲームはすごく研究されて作られています。だから命令やルールや約束だけでやめないでしょう。だとすれば、そのゲームの面白さを大人も知って、なぜそれにのめり込むのかをわかってあげなければ次の一手は打てません。
宿題はもっとわかりやすいです。やらないのではなく、やれない。わからないので、わからないことに取り組むことはできません。宿題をやらない背後には、その子にとってそれが難しいというSOSが隠れているのです。苦手なこと、できないことほど頑張って取り組まなくちゃと言われるけれど、子どもからすれば、わからないものはわからない。それにどう取り組んでもらうかは先生に考えてもらわなくてはいけないのに「わからない子ども」のほうに矢印が向いてないでしょうか。
子どもが何かをできない裏側にある「なぜ?」に目を向けてください。その「なぜ?」を考えてあげることが、先生や大人の仕事だと、講演会では答えました。そして、それは不登校をはじめあらゆることに通じます。
手紙4
「この子が自分の足で歩き始めるには、今何が必要なのか」を考える。
不登校の理由は複合的ですが、その背景に「いじめ」が潜んでいることもあります。いじめは「いじめている子どもの問題」です。だから、いじめられている子どもを守りつつ、いじめている側の問題を解決しなくてはなりません。そこを避けていると、また同じことをやってしまいます。
いじめている子どものケアは難しく、その子の親の理解がまず必要です。うちの子はちゃんと家でいい子にしていますと言われたら、学校で起きていることを理解していない証拠です。親にわかってもらえていないことがねじれにねじれて「ほかの子をいじめる」ことにつながっていきます。場合によっては、いじめた子もいじめられていることも少なくない。したがって、いじめの問題で不登校が起きたら、いじめた子どもたちに着目しなければ解決しません。
いじめられている子どもは休んで充電しなくてはいけませんが、家庭が「充電器」になっているか否かも見てあげてください。学校を休んだ日くらいは、安心して休める時間にする。ゲームをする子もいる。YouTubeを見る子もいる。一日寝ている子もいる。その子によって充電の仕方は違います。
宿題を持って行くとかではなく、「この子が自分の足で歩き始めるには、今何が必要なのか」を考えることが重要です。すでに伝えましたが、学校を休んでいるのにゲームをしているとか、サッカークラブに行ったという事実だけで、子どもを「怠けている」と判断しないでください。
保護者とともに「この子はいま、何をしてエネルギーを戻しているんだろう」とじっくり眺めてあげてください。
手紙5
保護者対応は「親がひとりで抱えない」を第一に考える。
家庭訪問、電話、手紙が親の負担になっていないか確認してください。そういったことが子どもや保護者にとって負担となる場合のほうが多いようです。それをする際は、保護者の意向を確認することが重要です。学校に「保護者対応マニュアル」などあるかもしれませんが、とにもかくにも「親がひとりで抱えない」ことを第一に考えてください。
そのためには「聞く」「聴く」「訊く」「効く」を使い分けましょう。例えば保護者面談では、子どもの様子を情報収集として聞く。親の話を途中で遮らず聴く、つまり傾聴することが肝要です。質問の背景を尋ね返すのは「訊く」です。役立つ回答を示すといった「効く」話を届けることもあっていいでしょう。複数の「きく」を使い分け、コミュニケーションを工夫しましょう。
不登校はゴールではなくスタートです。学校、フリースクール、通信制高校等を含めた次の一歩は子ども自身が決めること。そこに寄り添うのが学校です。学校は人・施設・友人・学習機会を備えた、非常に有用な社会資源だと考えます。その学校を支えるのが先生方です。
子どもは大人が一方的に「育てる」対象ではなく、自ら「育つ」存在です。育てなければと力まずに、何かの縁で出会った親子と一緒に育ちあおうと考えてください。
