「父親を安楽死させたい」娘が限界に…認知症の父との同居で起きていた、家族の壮絶な日常
「積極的安楽死」が許容された世界
「安楽死」と聞いて、どんな光景を思い浮かべるだろうか。
耐えがたい苦痛から逃れるための最後の選択。自ら死期を決めることのできる制度。けれど、その日が決まったあと、人は何を思い、どんな日々を過ごすのだろうか。
安楽死制度・法律・社会的議論について情報を発信する「RiP:D」によれば、安楽死とは、耐えがたい苦痛や凄絶な不快感を抱える患者の死期を早める行為の総称で、「積極的安楽死」「消極的安楽死」「間接的安楽死」に分類される。
2026年7月刊行の『終末パートナー』(北村みなみ著/KADOKAWA)が描くのは、「積極的安楽死」が許容された世界。日本では現在違法とされている、医師が薬物投与などによって意図的に死を引き起こす「安楽死」が制度化された近未来の日本だ。
だとしても、誰もが自由に選べるわけではない。
安楽死が認められるには、「治る見込みのない疾患であること」「耐えがたい肉体的・精神的苦痛があること」「本人が明確な意思を示していること」という厳しい条件がある。疾患や苦痛については医師の診断書、意思については面談などで確認されるが、診断書を書くことを拒む医師も多く、申請は主治医探しから始まるともいわれる。本人や近親者による嘆願書が必要となる場合もあり、承認までの道のりは決して平坦ではない。
実際、こうした制度をめぐる議論が現在もある。ヨーロッパではすでに13カ国が安楽死を合法化しており、日本でもその是非への関心は高まりつつある。
では、厳しい審査を経て、実際に「安楽死」できると認められた人は、その後をどう過ごすのか。
漫画『終末パートナー』は、その問いを、安楽死プランナーという立場で寄り添う女性の視点で描き出す。
「安楽死パートナー」として働く主人公
『終末パートナー』をベースに、安楽死について考える短期連載記事の第1話では、安楽死が制度化された日本で、「安楽死プランナー」として働く小桜要の姿をお伝えしている。安楽死の決まったお客様の最後の願いに、全力で寄り添おうとする要に、上司は「入れ込みすぎるな」と忠告する。納得のいかない要は、「安楽死」を望みながら、なかなか申請が通らない夫・纏くんに話を聞いてもらいたいと思う。
だが、続く第2話で夫の纏くんの安楽死申請が通ったことを知ると、複雑な表情を見せる。それでも、これまでともに申請が通るよう尽くしてきた要だけに、夫の「安楽死プランナー」に立候補し、纏くんも頼ることを決める。ふたりは1年間の猶予をもって、やりたいことを全部やり、最後の時間を一緒に過ごすことにした。
客の要望をできるだけ叶え、笑顔で逝くことを望む要は、それが最愛の夫であっても「やりたいこと」を叶えた夫が笑顔で逝くことを受け入れられるのか。それが本作のテーマとなっている。
望まない「安楽死」を申請させられる父
第3話では、要の施設で「安楽死申請テスト」を受ける、まだら呆けで認知症レベル3の田村勝吉(74歳)とその娘・果林の話をお伝えしている。
認知症レベルが進み、4以上になると安楽死の申請は禁止されるという決まりがあるため、果林は、勝吉に安楽死申請テストを受けさせ、早く安楽死させようとする。が、肝心の父親は安楽死を希望しておらず、自分が署名しようとしている書類が「安楽死申請」と気づいた途端、「安楽死なんか絶対にしない」と暴れる。
要の上司は、「強要は大変な違法行為」と果林を厳しく注意するが、果林は諦めないという。
果林はなぜそれほどまでに、父親の死を望むのか。
第4話では、勝吉と同居する果林夫婦の日常を描く。
肌身離さずにいる、亡くなった妻の写真を手に、記憶をたどろうとする勝吉。だが、妻の最後の笑顔も言葉も思い出せない。
家族3人の幸せだった頃を思い出そうとした時、なぜ果林が自分が厄介者扱いするのかにはっと気づく。自分がタダ飯食らいの居候だからではないか。家族としての役割をきちんと果たし、みんなの役にたてば、きっと……そう考えた勝吉は、果林夫婦が出掛けると、早速料理を始める。
ところが包丁とまな板の距離がつかめず、人参の皮の剥き方すら思い出せない。
実は認知症が進むと、距離や物の位置関係を把握する「視空間認知」が低下することがある(日本神経学会の『認知症疾患診療ガイドライン2017』より)。
人によっては、勝吉のように「まな板が何キロも遠くに見え」たり、記憶障害+注意・実行機能の低下が組み合わさり、「自分が何をしていたのか」自体を忘れてしまうこともある。
だが、仕事から帰宅した果林夫婦からすれば、たまったものではない。鍋は焦げ付き、リビングの床は水浸し。やっと片付けが終わったと思えば、勝吉は黙って家を出ていき、深夜の街を徘徊する。
挙げ句の果てに亡くなった妻が「待っている家に早く帰らなきゃ」などと言う。
罪のない顔で言い訳する父親にたまりかねた果林は、激しい言葉を投げつける。
◇2025年厚労省「国民生活基礎調査」によれば、要介護者等と主な介護者が同居している割合は46.1%で、その続柄は「配偶者」22.5%、「子」18.2%、「子の配偶者」4.2%となっている。要介護者等のいる世帯が約500万世帯規模あるので、果林夫婦のような介護家族は数百万世帯にもなるはずだ。
だが、果林がここまで父親に辛く当たるのは、本当に介護が大変だからという理由なのか。
続く第5話で、勝吉の妻で果林の母親の絵美が生きていた頃の過去が明かされる。
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