今年3月、JR大井町駅直結の複合施設「OIMACHI TRACKS」が開業した。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「JR東日本は整備費1200億円以上をかける。その背景には、不動産業に精を出さなくてはならない事情がある」という--。

■JR東による「大井町トラックス」の特殊性

東京都品川区にある大井町駅にはJR東日本京浜東北線、東急電鉄大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線の各電車が発着する。今年春にその大井町駅前に出現した新しい街がいまだ注目を集めている。JR東日本が開発を手がけ、3月28日に街開きとなった「OIMACHI TRACKS」(以下大井町トラックス)だ。

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JR東日本大井町駅から見た大井町トラックスA-1街区 - 画像提供=東日本旅客鉄道

大井町トラックスは南北に線路が延びるJR東日本の路線と、それに対して直角方向で東西に交わる東急電鉄の線路の、北西に位置に広がる。

細かく見ると、駅寄りにあるL字型の敷地のA-1街区と、A-1街区の西側にある長方形の敷地のA-2街区とで構成されている点が特徴だ。

大井町トラックスの敷地面積は、JR東日本によると約2万2300平方メートルという。筆者が地図上で計測したところ、A-1街区は東西方向が約250メートル、南北方向には最も長いところで約115メートル、最も短いところで約80メートルの長さとなっている。

A-1街区は大井町トラックスのメインの空間とも言える場所だ。約2万2300平方メートルの敷地には、大井町駅側からホテル&レジデンスタワー、それからビジネスタワーと、ともに地上26階、地下3階建ての高層ビル2棟が建ち並ぶ。

A-2街区はA-1街区から区画道路1号という道路をはさんだ西側に広がる。JR東日本によると敷地面積は約9100平方メートルだそうだ。

こちらのメインは公園や広場となっていて、一部にA-1街区から区画道路1号をまたぐ連絡通路を経由してOIMACHI TRACKS SHOPS & RESTAURANTSの店舗が営業を始めている。

■もともとはJR東日本の社宅だった

大井町トラックスの敷地の一部はJR東日本の社宅の跡地である。

この社宅はJR東日本の前身の国鉄が自社の職員の住宅として1965(昭和40)年から翌1966(昭和41)年にかけて建設した広町(ひろまち)アパートをルーツにもつ。約2万9000平方メートルの敷地に12階建てのアパートが6棟建ち並んでいた。

1棟当たり120戸、6棟合わせて720戸が居住可能で、合わせて2000人から3000人ほどの人たちが暮らしていたという。

老朽化などによって社宅は取り壊されたが、跡地に新しい社宅は建てられず、大井町トラックスとなった。別の場所に社宅を建設したのかとJR東日本に聞いたところ、そのようなことはないそうだ。

JR東日本で鉄道事業に従事していた社員数は2014(平成26)年3月31日現在で4万9537人いたが、10年後の2024(令和6)年3月31日現在では3万8576人と1万0961人減少した。

大井町トラックスとなった場所にあった社宅にいた人たちは同社の別の社宅などへの引っ越しで十分対処できたのだという。大井町トラックスとならなかった残る同社の社宅跡には品川区役所が新しく建てられる。

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大井町トラックスから見た東京総合車両センター(早朝) - 画像提供=東日本旅客鉄道

■整備費1200億円は適切な投資か

JR東日本は大井町トラックスの整備に当たって約1200億円(※)を投じる。同社によると、2031(令和13)年度以降の営業収益として約150億円を見込んでいるという。

※ JR東日本「2026年3月期決算および2027年3月期経営戦略 説明資料」より

営業利益は公表されていないが、JR東日本の2026年3月期の連結決算書に記載されたセグメント別の売上高、セグメント利益によると、同社の流通・サービス事業と不動産・ホテル事業とを合わせた売上高は9138億円、セグメント利益は1809億円であったから利益率は19.8パーセントとなる。

この数値を大井町トラックスの営業収益の予測値に当てはめると、利益は30億円と求められた。利益だけで投資額をまかなおうとすれば、回収には40年を要する。

JR東日本としては大井町駅に多くの人々が集まることから、大井町トラックスの集客力には問題ないと判断したのであろうが、果たして適切な投資なのだろうか。そこで、大井町駅の集客力を検証してみた。

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A-II街区から見た大井町トラックス - 画像提供=東日本旅客鉄道

『2021(令和3)年版 都市・地域交通年報』(運輸経済研究所、2024年7月)の「各駅旅客発着通貨状況」によると、コロナ禍直前の2019(令和元)年度の1日平均の大井町駅の乗降者数は、JR東日本が13万9274人、東急電鉄が7万4591人、東京臨海高速鉄道が8万8092人で、合わせて30万1957人だった。

大多数はそれぞれの大井町駅を通勤や通学で1日に2回に通る人たちと考えられるから、正味15万979人と言ったところであろう。

■大井町と似ているJR中央線のある駅

各社の路線どうしの1日平均の乗換者数も見ていきたい。JR東日本と東急電鉄とでは5万2959人、JR東日本と東京臨海高速鉄道とでは9303人、東急電鉄と東京臨海高速鉄道とでは1万8264人で合計8万525人となり、こちらも正味4万263人となりそうだ。

各社の大井町駅の乗降者数の一部には各社どうしの乗換者数も含まれていると見られるが、見当が付かないので無視することとした。したがって、大井町駅に鉄道で訪れる人たちの数は乗降者数と乗換者数とを合わせて1日平均19万1241人と考えられる。

単に人数だけ列挙してもイメージはわきづらい。東京郊外のターミナルとして同様の規模の駅を探すと、JR東日本中央線と京王電鉄井の頭線が発着する吉祥寺駅が挙げられる。2019年度の1日平均の乗降者数はJR東日本が24万0142人、京王電鉄が7万5446人で、合わせて31万5588人、両社どうしの乗換者数が4万4225人であった。合計35万9813人だ。

写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

例によって大多数の人たちは吉祥寺駅を1日2回通過すると考えて、正味17万9907人となる。吉祥寺駅の周辺には多数の商業施設が軒を連ねており、大規模な投資も行われてきた。そうした実績を加味すると、JR東日本による大井町トラックスへの投資は過大ではないと言えそうだ。

■技術系社員150人を増やす背景

ここまで長々と大井町トラックスの概要を記したが、筆者はここ数カ月、鉄道事業に関心のある読者から、JR東日本の事業に対する複雑な心境、いまどきの言い方ではモヤモヤとした気分があると聞いている。

モヤモヤの正体の一つは、JR東日本が不動産やホテル、ショッピングモールといった事業に熱心で、本分である鉄道事業が疎かになっているのではないか、という点だ。

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大井町トラックスにあるホテルメトロポリタンのトラックスビュー・スイート(バルコニー付き)ベッドルーム - 画像提供=東日本旅客鉄道

JR東日本の各線では2026年に入ってすぐの1月から2月にかけて大きな輸送トラブルを頻発した。1月16日には山手線と京浜東北線とで、1月30日には常磐線で、2月8日から翌9日にかけては東北線でそれぞれ停電トラブルを起こしている。また、2月2日には京葉線の八丁堀駅でエスカレーター火災を発生させた。いずれの輸送トラブルでも多くの旅客に影響が出て、JR東日本への信頼は低下した。

一連のトラブルを受け、JR東日本は2026年5月8日に「お客さまに安心してご利用いただける鉄道輸送の構築」と題して、今後の対策を公表した。そのなかで、同社は2027(令和9)年度の技術系社員の採用数を従来の計画より約150人増やすという。

輸送トラブルで大変な目に遭った経験を持つ読者各位にとっては、「技術者をいまごろ増やすのか」とか「新規採用を増やさなくても、多数保有している子会社にいる人たちを呼べばよい」とか怒りをぶつけた人も多いはずだ。「不動産事業にうつつを抜かさないで鉄道事業をもっと一生懸命やってほしい」という声は筆者も多くの人からうかがった。

■鉄道ではない事業でより多くの利益

筆者はJR東日本の回し者ではないという点を断ったうえで申し上げると、JR東日本が頻発させた輸送トラブルをはじめ、同社の鉄道事業への不満と同社が多方面に事業を展開している点とは切り離して考えたほうがよい。

先に挙げたJR東日本の2026年度3月期の連結決算書を見ると、鉄道事業やバス事業から成る運輸事業の売上高は1兆9458億円でセグメント利益は1761億円であった。

すでに記したように同社の流通・サービス事業と不動産・ホテル事業とを合わせた売上高は9138億円と運輸事業の半数にも満たないが、セグメント利益は1809億円と運輸事業を上回る。

JR東日本は今後も鉄道事業を安定して続けるために、多くの利益を得られる不動産事業などを積極的に展開しているのだ。同社が責められる時があるとすれば、(あってはほしくないが)大井町トラックスが事業として行き詰まったときだろう。

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大井町トラックスにあるThe TRAVELERS HOUSE ROOFTOP BAR - 画像提供=東日本旅客鉄道

別のモヤモヤも聞いた。大井町トラックスとなった土地は元々旧国鉄の所有で、1987(昭和62)年4月1日に実施された国鉄の分割民営化時にJR東日本へ無償で譲渡されたものであるという点である。

現・大井町トラックスのような都心の一等地であってもJR東日本に無償という破格の条件で譲り渡された理由は、同社がこの場所で今後も鉄道事業を続けるという前提が存在したからだ。その前提がなくなったのであれば、国なり沿線の地方公共団体なりに無償で払い下げるべきではないのか、という意見がある。

さらには、JR東日本が用地を売却し、その売却代金を2026年2月現在でもまだ14兆9538億円残っている旧国鉄の長期債務の返済に充当するべきだ--というのもある。

■国鉄から無償で譲られた土地

筆者もかつては同様に考えていた。ただそれは、1998(平成10)年10月22日に日本国有鉄道清算事業団(以下、国鉄清算事業団)が事実上破綻して消滅した経緯を知り、そうは思わなくなったのだ。

国鉄清算事業団とは、国鉄の長期債務、そして遊休地などの資産を引き継ぎ、資産を売却することで長期債務の償還に充当することを目的として設立された特殊法人である。旧国鉄の長期債務の約37兆1000億円のうち、約25兆5000億円が同事業団に承継された。

国鉄が保有していた遊休地のなかには都心の一等地にある価値の高い土地も多く、土地の売却が順調に進んだところも多かったが、さまざまな問題に見舞われて最終的には頓挫してしまう。

例えば、バブル期のように土地の価格が上昇している時期、周辺の土地の価格の暴騰を抑えるために国の指示で売却を控えるように言われて売り抜けられないケースも多かった。

そうかと言ってバブル崩壊後は国鉄の分割民営化時に想定していた売却価格を大きく下回ってしまい、仮に売れても国鉄の長期債務はあまり減らない。

結局のところ、国鉄清算事業団が抱えた旧国鉄の長期債務は利息がかさんで約28兆3000億円と、引き継いだ当初よりも増えてしまい、まさににっちもさっちもいかなくなったのだ。

JR東日本が頑張れば国が潤う

そのような経緯から、いまさら大井町駅前の土地を返却されてもかえって国が困惑することは容易に考えられる。JR東日本が始めた不動産事業は軌道に乗っていることだし、ここは同社に任せればよい--。国がそう考えるのは自然なことだろう。

なぜなら国にとっても悪い話ではないからだ。JR東日本の不動産事業などが順調に推移すればその分国に納める法人税などの税収が増えて国庫は潤う。

JR東日本の2026年3月期の連結損益計算書を見ると、法人税などの合計は853億1400万円で、前年同期の717億1000万円よりも136億0400万円増加した。納税制度上当たり前ながら、不動産事業のリスクはJR東日本が背負い、その果実の多くは国がありがたく受け取り、旧国鉄の債務の償還にも充てられる--。

こう考えれば大井町トラックスにモヤモヤしなくても済む。

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大井町トラックスから見た東京総合車両センター(深夜) - 画像提供=東日本旅客鉄道

旧国鉄の長期債務の償還の考え方から言うと、大井町のようなJR各社が保有する都心の一等地に空きが出た場合、売却して国に売却益を納税するか、または国または国鉄清算事業団のような組織に譲渡の二択となる。

前者がそうたやすいものではないことは先に説明したとおりだ。そして、後者のように無償で譲渡となるとJR各社は丸々損するように見えるが、そうではない。

■大井町トラックスの課題

国鉄から引き継いだ土地には固定資産税などの納税が全額または一部が免除されてきたが、株式市場に上場を果たしたJR各社が保有する土地はすべて課税されることとなった。上場を果たしたJR各社にとって、都心の一等地が遊休地となってしまったら多額の納税に追われるだけとなり、それならば物納したほうがよいというのは相続で生じる問題と同じだ。

どちらも事実上認められないのだから、JR各社が自ら不動産事業に進出して利益を上げる以外の選択肢を見いだしづらい。

順風満帆のスタートを切ったその大井町トラックスには課題も見える。

先に筆者は大井町トラックスの想定利用者数を単純に京浜東北線、大井町線、りんかい線それぞれの乗降者数、それから各路線どうしの乗換者数から求めた。しかし、この手の大規模な都市再開発事業では大井町トラックスに行きたいという人々をより多く集められるかどうかが成功の鍵となる。

■高輪ゲートウェイとの関係

大井町トラックスには十分な魅力があると筆者は思うものの、都内にはライバルとなる他の大規模な都市再開発が多い。

大井町トラックスの場合、京浜東北線で2駅先にある同じJR東日本が手がける高輪ゲートウェイが強力なライバルとなる。JR東日本は両者を結んで広域品川圏と呼んで共に成長すると期待しているが、新たにつくられる高輪ゲートウェイはより開発の規模が大きく、人を引きつける魅力も大きいように感じられてしまう。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

意地悪な見方をすると、JR東日本は大井町トラックスがダメでも高輪ゲートウェイが成功すればよいと考えて広域品川圏と言っているのだろうか。ともあれ、JR東日本がこれからも一生懸命鉄道事業に励んでもらうには、大井町トラックスを積極的に利用して同社がもっと納税するように貢献するとよいのかもしれない。

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梅原 淳(うめはら・じゅん)
鉄道ジャーナリスト
三井銀行(現三井住友銀行)に入行後、雑誌編集の道に転じ、「鉄道ファン」編集部などで活躍。2000年からフリーに。
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(鉄道ジャーナリスト 梅原 淳)