立ち飲み店が居並ぶ新橋。毎晩のように「せんべろ」をハシゴして飲み歩くサラリーマンは少なくない

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 酒とタバコをやめれば、「家が建つ」「ベンツが買える」--。愛煙家や酒飲みがうんざりするほど聞かされる言葉だ。「酒もタバコもない人生なんて」「稼ぐための息抜きに必要不可欠」「やめたらストレスでかえって体に悪い」と反論するものの、実際にこれらの費用を「見える化」してみると、そこには笑えない現実が。老後に向けて、酒・タバコ代をどうするべき? ファイナンシャルプランナー(以下FP)の上原千華子さんに聞いた。

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【case】新橋の赤提灯をハシゴ、気がつけば「月10万円」を飲み干すアラフィフ独身男性

「仕事上の憂さ晴らしのため、退勤後は毎晩のように新橋の立ち飲み屋へ直行しています。常連客同士の他愛のない雑談が楽しくて、彼らと2軒、3軒とハシゴしてしまう。立ち飲み屋なので1回の飲み代は安いのですが、1日5000円くらいは使っていると思います。酒といっしょにタバコもやりますから、結構な金額になっているかもしれません(笑)」

立ち飲み店が居並ぶ新橋。毎晩のように「せんべろ」をハシゴして飲み歩くサラリーマンは少なくない

 祥真さん(51歳・独身男性)は20歳のころから酒とタバコを続けており、飲みに出るのは週5日程度、タバコは1日1箱という生活を長年続けてきたという。都内の大手企業で働き、年収は800万円。手取りは月約37万円、ボーナスは額面で約80万円×年2回。独身ならば十分な金額にも思えるが、最近、老後のことが気になり始めた。

「貯金は現時点で1000万円。退職金もあわせるとそこそこの金額にはなりますが、独り身だと心もとない気もします。そこへ家賃を1万円上げたいという通知が大家から来て、『老後にこの調子で値上げが続くときついな、マンションを買っておけばよかったかも』と思ってしまったんです」

 そこでふと気になったのが、前述の酒・タバコ代というわけだ。

「いったい自分は総額いくら飲んできたんですかね……?」

【FPが助言】30年で「4560万円」が煙と泡に

「酒とタバコで家が建つというのは、単なる脅し文句ではありませんよ。実際に計算してみると、驚くべき金額になります」

 FPの上原千華子さんは、祥真さんの酒・タバコ代30年分を試算し、提示する。

 まず、飲み代は1日5000円、週5日だとすると、年間約130万円。30年で約3900万円になる。タバコ代は現在の価格だが、1日1箱600円とすると、年間約21万9000円。30年分で約657万円となる。

「過去の実支出額ではなく、現在価格による概算ですが、30年分の酒・タバコ代は計約4560万円。泡や煙となって消えたこのお金があれば、多摩エリアなら、中古マンションで広めの1LDKが買えます」

人生に息抜きは必要」と主張する飲兵衛も、さすがに無視できない金額だ。

【FPの処方箋1】「完全禁欲」は不要。「ちょい減らし」を積立投資に回す

「酒やタバコを完全にやめろとは言いません。嗜好品は人生をいろどり、人間関係を広げる潤滑油でもありますからね。それに、いきなり『明日から酒もタバコも一切やめろ』と言われても、ストレスが溜まって長続きしません。まずは、ゼロにするのではなく『頻度を少しだけ減らすこと』を考えましょう」

 そのうえで、上原さんが提案するのは、この「ちょい減らし」によって浮いたお金をそのまま資産形成へスライドさせる「つもり投資」だ。

「お酒は、週5回から週3回へ。タバコは1日1箱から2日に1箱へ。これだけで、飲み代が年間約52万円、タバコ代が年間約11万円浮き、年間で約63万円(毎月約5万2500円)の節約になります。そして、この浮いた月5万2500円を、年利5%で20年間運用できたと仮定すると、元本1260万円に対し、運用益は約900万円。70歳時点で約2130万円になる計算です」

 家1軒分のお金を飲み干す生活から、家1軒分の資産を作る生活へ。毎日の行動をほんの少し見直すだけで、未来の景色は180度変わる。

【FPの処方箋2】見直す順番は「固定費」が先。40~50代は「細く長く働く」健康への投資を

 家計の立て直しにあたっては、優先的に取り組むべき費目があると上原さんは強調する。

「嗜好品を削るには強い意志が必要で、実行するにはストレスも大きいでしょう。その前に、まずは『固定費』にメスを入れてください。スマホの通信費を格安プランに見直す、不要な保険や使っていない月額サブスクを解約するなど、自動的に出ていくお金を減らすのです。固定費をスリムにしたうえで、飲み会のハシゴをやめたり、週に何日かを家飲みに切り替えたりしていきましょう」

 祥真さんのように50代に入り、「今から20年も運用期間を取れないのでは」と焦る人については、上原さんはこうアドバイスする。

「40代・50代からのリカバリーの王道は、『細くても長く働き続けること』です。定年後も現役時代と同じ年収をめざす必要はありません。公的年金を生活のベースにしつつ、月に10~20万円程度を無理なく稼ぐことができれば、老後家計は十分に成り立ちます」

 そして、長く働き続けるには、健康であることが必要不可欠だ。

「そのためにも、酒とタバコを少し控えてみましょう。お金を浮かせるだけでなく、将来の医療費を抑え、長く稼げる身体を維持する最強の自己投資になりますよ」

※プライバシー保護のため、記事で紹介する事例は、具体的な状況の一部を変更しています。

今回のアドバイザー/上原千華子さん
金融教育家/ファイナンシャル・セラピスト。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴25年以上。AFP、証券外務員一種、NLP(実践心理学)マネークリニック(R)認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。心理学を取り入れたライフプランと資産運用をアドバイスしている。現在は企業・大学でも登壇し、延べ5000名以上に金融教育を届けている。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)。

取材・文/鷺島鈴香

デイリー新潮編集部