萩本欽一、田中美佐子

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倒産の理由

 萩本欽一(85)や田中美佐子(66)らのマネジメントを手がけていた有力芸能事務所「佐藤企画」が8月5日、東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。関連会社も含めると、負債総額は2億1992万円。ほかにも複数の芸能事務所が倒産している。芸能界に何が起きているのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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【写真を見る】萩本欽一に鍛えられ、今も第一線で活躍する芸能人たち

 企業の信用情報を提供する東京商工リサーチは8月21日、「芸能事務所に異変、倒産が相次ぐ」という記事を出した。

 昨年の芸能事務所の倒産件数は26社。2014年以降で最多となった。今年も7月までに12社が倒産している。佐藤企画も加わった。

萩本欽一、田中美佐子

 かつての同社は、萩本欽一や田中美佐子のほか、東貴博(56)、はしのえみ(52)らのマネジメントを手がけていた。もっとも、今年2月までに所属者全員が退所し、その後は事業を停止していた。

 同社には誠実なマネージャーがいて、経営も堅実と言われていた。それだけに同社と親しかった別の芸能事務所経営者も驚いていた。「何があったのか知らないか」と尋ねられたほどである。

 芸能事務所関係者の話を総合すると、同社にとって大きな打撃となったのは、2020年から23年にかけてのコロナ禍。萩本や東、はしのらが出演するイベントが次々と中止になったからだ。コロナ禍で損失を被ったのは同社に限らない。付き合いのある音楽イベント会社の経営者も、当時は深刻な表情を見せていた。

 ほかにも芸能事務所の倒産が続く大きな理由がある。ほぼ全ての芸能事務所に共通する問題だ。テレビ局の弱体化である。

 テレビ界は長年にわたって芸能界の「ハブ(集約点)」として機能してきた。だが、長引く景気低迷や動画配信の台頭によって、地盤沈下してしまった。

 このため、民放から支払われるギャラは10年ほど上がっていない。しかも、驚くほど低水準。3年連続で赤字決算だったNHKは、もともと民放より安い。

 民放の連続ドラマに5番手程度で出演した場合、ギャラは10万円以下にとどまる。芸能事務所は所属者の仕事を獲得し、30~40%程度のマネジメント料を徴収するビジネスだから、これでは苦しい。

 民放では、知られざるギャラの節約術も実践されている。5番手程度の出演者の登場回数が減らされている。その回に少しでも出演すればギャラが発生するが、出演しなければ支払う必要がなくなるからだ。かつてのドラマ界の常識では考えられない。

 ただし、民放を一概に責めることはできない。ない袖は振れないからだ。日本テレビの2015年度のCM売上高は約2484億円で、民放トップ。制作費には約967億円使っていた。

 10年後に当たる直近の2025年度決算でもCM売上高トップを守ったが、金額は約2437億円に減少している。これでは制作費を増やせず、その金額は約895億円に減った。他局も似た状況だ。

 昨年1月、人権侵害問題が深刻化し、一時CMが激減したフジテレビは深刻だ。2025年度のCM売上高は約840億円。高額の制作費を捻出できるはずもなく、約619億円にとどまった。

 これでは高いギャラは支払えない。経費も同じ。フジのドラマのロケ弁当は「のり弁だ」と、芸能事務所幹部から揶揄されているほどだ。かつては惜しみなく使われていたタクシーの宅送チケット(自宅までのタクシー乗車券)の配布も制限されている。

動画配信の事情

 芸能事務所は、テレビ局が衰退した分、景気の良い動画配信に軸足を移せばよさそうなものだが、そうもいかない事情がある。NetflixやAmazonプライムなどが制作する番組は月に数本しかない。

 ギャラは民放の3倍前後。動画配信のドラマに主演すれば、ギャラが1本(約60分)で1000万円に達することもあるが、制作数が少ない。民放ドラマのように、1人の俳優が続けて作品に出演することもあまりない。

 芸能事務所に所属せず、個人事務所を構えたり、フリーで活動したりする芸能人が増えたことも大きい。阿部寛(62)、堺雅人(52)、岡田准一(45)、瀧内公美(36)、満島ひかり(40)らである。個人で仕事を獲得できるだけの実績と知名度を持つ人たちだ。

 助演クラスの俳優もフリーが増えた。テレビ局からのギャラが安いことが強く影響している。数万円のギャラから30~40%程度のマネジメント料を差し引かれたら、大きな負担となる。

 求められる芸能事務所のあり方が変わりつつある。事業を取り巻く環境が激変したからだ。芸能事務所にとって最大の資産は、テレビ局や映画会社、レコード会社、広告代理店などとの人的ネットワークだった。しかし、これらの組織が持つ力が様変わりしてしまった。テレビが衰退しただけでなく、レコード会社などの力も低下した。

変わる芸能事務所

 芸能事務所幹部は「これからの芸能事務所は自立度を高めなくてはならない」と語る。環境の変化の影響を受けにくくするということだ。

「まず所属者のIP(知的財産)を活用した事業を強化しなくてはならない。所属者の海外進出も積極的に後押しすべき」(同)

 ほかには事業の多様化や先行投資がものを言う時代になるという。すでにモデルケースはある。北川景子(40)や仲野太賀(33)、横浜流星(29)らを擁するスターダストプロモーションの場合、M!LKを新たにスターダムに押し上げた。

 M!LKは短期間で人気を得たわけではない。同社は2010年、まず男性アーティスト集団「EB!DAN(恵比寿学園男子部)」を立ち上げた。この集団内で2014年に結成された5人組の男性ダンスボーカルグループがM!LKである。結成からブレークまで、長い時間をかけて育てた。

 同社は俳優の育成にも時間をかける。10歳前後で人材をスカウトすると、以後は無料でレッスンを受けてもらう。たとえば北村匠海(28)は小学校3年生のときにスカウトされた。

 戦後最大級のスター・山口百恵さん(67)を輩出したホリプロには、今も綾瀬はるか(41)や石原さとみ(39)、竹内涼真(33)らが所属している。しかし、同社はマネジメントだけを行う会社ではない。

 ホリプロは音楽制作や演劇制作などを幅広く手がけている。現在も東京・TBS赤坂ACTシアターで「ハリー・ポッターと呪いの子」を上演中だ。

 一方で、所属者のLINEスタンプも販売している。IPの事業化の一環である。さらに映像事業本部がドラマやCMなどの映像コンテンツも制作している。高橋一生(45)が主演したテレビ朝日の春ドラマ「リボーン~最後のヒーロー~」も、テレ朝とホリプロが共同制作した。

 前出の芸能事務所幹部は、「個人事務所やフリーでは難しい業務にも対応できるようにならなくてはならない」とも説く。

 一例がSNS対策だ。芸能人がSNSで批判されたとき、自分で対処するのは困難である。一方、芸能事務所は、雑誌などが報じる所属者の醜聞の影響を抑えるよう努めてきた。編集部と交渉し、深刻な表現を和らげようとしたりする。

 芸能事務所がSNS上でもダメージコントロールを図れば、芸能人たちはその存在をあらためて評価するはずだ。SNSへの対処は芸能事務所にとっても簡単ではないはずだが、ノウハウを研究する価値はある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部