乳児が“半年間ほぼ24時間”着けっぱなし……安全性は

写真拡大

 ここ数年、ちまたで目にする機会が増えた。そう感じている方も多いのではないだろうか。ラグビーやボクシングのヘッドギアのようなものを着けた、生後1年にも満たない乳児の姿。歪(ゆが)んだ頭を治す矯正目的のヘルメットなのだが、果たして本当に必要なのか。

 ***

《無料漫画を読む》行き過ぎた教育が「虐待」に…ある家庭が踏み外した“人としての道” 壊れた兄は妹に

 わが子の頭の形をきれいにしてあげたい――。親が抱く自然な感情である。その願いをかなえるため、目下、40万〜60万円と高額な自由診療のヘルメット矯正が流行しているのだ。

「赤ちゃんの頭のかたち外来」で乳児診療を行っているユアクリニックお茶の水の杉原桂院長によれば、

「ヘルメット矯正の始まりは、1992年に米国で乳幼児突然死症候群の予防に、“仰向け寝”が推奨されたことにさかのぼります。当時は乳児の顔が枕に埋もれて窒息死するケースが問題視されていました。その対策で仰向け寝を勧めたところ、突然死は大幅に減少。代わりに斜頭症や短頭症が急増してしまったのです」

乳児が“半年間ほぼ24時間”着けっぱなし……安全性は

“乳児版プチ整形

 後頭部が平らになる、いわゆる“絶壁頭”も増えたのだ。そこで防止策としてヘルメット矯正が米国で誕生し、急速に広まった。一方の日本では、従来から頭の歪みは1歳までには自然に治るという考えが医者の間でも根強かった。ところが2021年、その定説をひっくり返す論文が発表され、流行の引き金となる。

「さらに3Dプリンターの技術が向上し、価格も安く容易にヘルメットのカスタムメイドが可能になったこともあります」(杉原氏)

 今や大学病院やクリニックなど数百の医療機関で行われるまでに。ルッキズムの気運が高まったことも後押ししたのか。ブームとなったプチ整形と似ていて、ヘルメット治療は生まれてすぐに始める、いわば“乳児版プチ整形”状態なのだ。

半年間ほぼ24時間

 その治療法は、頭部の形に合わせてスポンジを入れたヘルメットを作成。多くの歪みは、寝ている時に頭の重みで床に接した部分の血流が悪くなり、十分に成長しないのが原因だ。そこでヘルメットで圧迫から保護し、頭部を均等に形成する。頭蓋骨の柔らかい生後3〜6カ月が治療対象で、半年の着用期間はほぼ24時間着けっぱなしというから、やや安全性が気になるところではある。

「治療効果は有効とされていますが、皮膚炎などのリスクがあります。病気でない場合は必ずしもヘルメット治療が必要なわけではありません。親御さんが、装着期間を過ぎても“かわいいから”“安心感がある”といって着け続け、その結果、覆われていない耳の周りの骨が出っ張ってしまった事例もありました」(杉原氏)

10万円で紹介

 急激に市場拡大したことで、ビジネス的側面が強まっている点も挙げておこう。さる小児科医の話。

「数値に異常がなく私は矯正を断ったのに、その患者が他の病院で矯正を勧められたケースがありました。ヘルメットメーカー経営のクリニックから、1人につき10万円支払うので患者を紹介してくれと依頼されたこともあります」

 もはや“一大市場”と言っても過言ではあるまい。関西医科大学教授で、日本小児神経外科学会の埜中(のなか)正博理事長が警鐘を鳴らす。

「治療が脳機能に与える影響について、現状では否定的な論文はほとんどありません。しかし、患者の長期追跡データはまだなく、将来的には分かりません。一番心配なのは、頭蓋骨についての知識が浅い医師の参入です。頭の変形が寝癖によるものか、“頭蓋骨縫合早期癒合症”などの病気によるものか、判別せずにヘルメット治療を始め、病気が見落とされるリスクがある。いかに専門知識のある医師に歪みの原因を診断してもらえるかが重要です」

 こまめに頭の向きを変えてあげるのが、なによりの愛情であろう。

週刊新潮」2026年8月27日号 掲載