(※写真はイメージです/PIXTA)

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長年、夫婦生活をともにしたあとに、定年などをきっかけに「熟年離婚」を選ぶケースが増えています。しかし、シニア世代が熟年離婚を検討する際には、離婚後に直面する「老後のお金」とあらかじめ向き合っておくことが欠かせません。65歳元会社員と58歳妻の事例をもとに、熟年離婚の注意点と老後の資金計画のポイントについて、CFPの山粼裕佳子氏が解説します。

大きな花束を抱えて帰宅…退職日の夜に待っていた「豪華な晩餐」

コウイチさん(仮名・65歳)は、42年間大手メーカーに勤務し、定年退職をしました。本当なら今頃は、4LDKのマイホームで妻と2人、穏やかな老後生活を送っているはずでしたが、コウイチさんは広い戸建てでポツンと一人暮らしをしています。

なぜなら退職と同時に、妻・エツコさん(仮名・58歳)から三行半を突きつけられたからです。

勤務最終日のこと。部下たちに見送られ、大きな花束を抱えて帰宅する道中、コウイチさんは「老後は安泰だな……とりあえず、夫婦で海外旅行でもするか」などと、今後の生活に思いを巡らせていました。

受け取った退職金は2,300万円で、手元の預貯金や金融資産と合算すると5,000万円にのぼります。住宅ローンは完済しており、他に債務はありません。

「ただいま、帰ったぞ。ほら、立派な花束だろ」

リビングに入ると、豪華な料理にシャンパン、コウイチさんお気に入りの日本酒までもが、完璧にテーブルにセッティングされているのが目に入りました。

「おかえりなさい。退職のお祝いをしましょう」

エツコさんはにこやかにコウイチさんに着席を促します。これまで、自分のためにこんな盛大なパーティを開いてもらったことはなく、喜びをかみしめます。

「一つだけお願いが…」豪華な宴から一転、58歳妻が突き出した〈1枚の紙〉

二人は向かい合って席につき、シャンパンで乾杯。「今まで、お仕事お疲れ様でした」「こちらこそ、長い間ありがとう」と、互いに感謝の思いを口にしました。

「なあ、退職金も入ったし、少し贅沢しないか? ヨーロッパ旅行なんてどうだ? 昔、行ってみたいって言ってたよな?」

晩餐も佳境に入り、酔いが回ったコウイチさんに、少しの間をおいてエツコさんは答えました。

「そうね……。旅行はもういいわ。あのね、今日は一つだけお願いがあって」

そういって1枚の紙を取り出すと、改まった口調で頭を下げます。

離婚してください。お願いします」

エツコさんが差し出した紙は、「離婚届」でした。あまりに唐突で状況が飲み込めないコウイチさんは、唖然とするばかりです。

「自分は家庭を円満に回すために、言いたいことを我慢してきた。これ以上、一緒にいる意味が見出せない。一人のほうが自分らしくいられると思う」

エツコさんは、離婚理由を述べました。コウイチさんにとっては「寝耳に水」です。

「ちょっと、待ってくれ……」

豪華なパーティから一転、二人は今後の生活について、粛々と話し合うことになりました。

【CFPの助言】財産分与、年金分割…離婚前に確認すべき「老後のお金」

2002年をピークに離婚件数は減少傾向にありますが、離婚を同居期間別の構成割合で見ると、同居期間が20年以上のカップルの「熟年離婚」比率が増えています。

シニア世代の場合、夫の収入で家計を支えていた家庭も少なくなく、女性のほうが経済的な困難に直面しがちです。そのため、離婚後に自身の住居や収入が確保できるのか、20〜30年先まで生活できる資産があるのかをあらかじめシミュレーションしておく必要があります。

では、コウイチさんとエツコさんの場合はどうでしょうか。

まず、コウイチさんには5,000万円の金融資産があります。年金は月額20万円です。一見すると余裕のある老後生活が送れそうですが、離婚となれば「財産分与」や「年金分割」により、この前提は見直す必要があります。

この先、医療費や介護費などまとまった支出の発生が予測されることから、一人暮らしのライフプランとキャッシュフローを立て直しましょう。

その際は、生活費や住居費といった「必要不可欠な費用」、医療・介護など「必要かもしれない費用」、趣味や旅行など「欲しいもの・やりたいことの費用」に分類し予算を立ててみることが大切です。

また、財産分与については、預貯金だけが対象ではありません。自宅を含めた不動産、有価証券、退職金など、婚姻中に築いた財産をすべて整理する必要があります。

一方、エツコさんは、さらに慎重な資金計画が必要です。

平均寿命から逆算すると、現在58歳のエツコさんは、離婚後の生活が30年以上続く可能性があります。仮に財産分与でまとまった資金を受け取ったとしても、「安心」と考えるのは早計です。

仮に2,000万円受け取ったとしても、毎月10万円を生活費として使えば、単純計算で16年で底をつきます。実際には年金や場合によっては運用益などの収入があるためこのとおりにはなりませんが、老後資金を延命させる方法を考えるべきでしょう。

老後の収入の柱が年金であることを考えれば、年金を増やす努力をするのも一つの手です。実際、60歳以降の就業率は上がっており、2025年には60歳〜64歳の女性の65%が就業しています。

厚生年金への加入要件は段階的に拡大しており、現在は従業員51人以上の企業で週20時間以上働くと厚生年金に加入できます。

仮に、正社員や派遣社員などで月収25万円、65歳まで6年間働くことができれば、65歳から受け取ることのできる年金は、年間約10.2万円増える計算(※)です。月にすると8,500円程度ですが、年金は生涯受給できるものであるため、老後生活に与える影響は決して小さくありません。

(※) 標準報酬月額×5.481/1000×加入月数で計算

“円満離婚”を経て二人が見つけた「新たな自分」

その後、コウイチさん夫婦は半年間の話し合いの末、「離婚」を選択しました。財産分与として2,500万円の現金を受け取り、エツコさんが家を出たそうです。現在は、契約社員として厚生年金に加入して働いており、65歳まで働く予定です。

一方、しばらくは寂しさに打ちひしがれていたコウイチさんでしたが、今まで妻任せであった家事にもだんだん慣れ、意外にも「料理を作る楽しさ」に目覚めたそうです。もし、離婚していなかったら気がつかなかった“新たな自分”です。

別々の道を歩む選択をした二人は、過去に縛られることなく、それぞれの人生を楽しんでいる様子。結果として、“円満離婚”だったといっても過言ではないかもしれません。

潤沢な老後資金があっても、「予想どおりの老後」が訪れるとは限りません。早いうちから、老後は「お金をどう使うか」はもとより、「誰と、どこで、どんな時間を過ごしたいのか」を含めた計画が必要だといえます。

山粼 裕佳子
FP事務所MIRAI
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®