猛暑は人間の健康状態や認知機能、経済状況などさまざまな側面に悪影響を及ぼすことが知られています。新たな研究では、たった1週間でも暑くなると1年以上にわたって経済状況が悪化する可能性が示唆されました。

Temperature Fluctuations and Economic Conditions: Evidence from Weekly U.S. Data | NBER

https://www.nber.org/papers/w35529

New study shows how a single hot week causes a delayed economic slump

https://www.scienceofmoney.org/a-weekly-view-of-heat-and-the-economy-reveals-a-slow-burn-hit-to-u-s-labor-marke-1032/

経済学者らが気温と経済の関係を考える際、一般的には年間または四半期ごとといった長期的なデータに着目します。しかし、経済活動を数カ月または数年にわたって平均化すると、短期的な変動がわかりにくくなってしまい、暑さがもたらす細かい影響が見えなくなってしまう可能性があります。

そこでマイアミ大学やノートルダム大学などの研究チームは、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の記録に基づいたアメリカ各州の週次気温データセットと、2024年に開発された週次州レベル経済状況指数(ECI)のデータセットを用いて分析を行いました。

ECIは失業保険申請件数・雇用・国内総生産(GDP)・ガソリン小売価格・移動・クレジットカード決済など、約21の指標を組み合わせて州ごとの経済状況を測定したもので、「ゼロ」がアメリカ全体の長期的な成長率に対応するよう調整されています。つまり、ECIを見ればその州の経済状況がアメリカ全体と比べてどれほど良かったのか、あるいは悪かったのかがわかるというわけです。

研究では1987年4月〜2024年6月のアメリカ本土を対象としたデータが分析されました。この期間にはリーマンショックや新型コロナウイスル感染症のパンデミックなど、経済に影響を与える複数の出来事が発生したため、分析ではこれらのショックを吸収するように調整されたとのこと。



研究チームは気温変化による経済的余波を追跡するため、事態の展開を固定的なモデルで想定するのではなく、ある時点から将来の各時点におけるショックの影響を推定する(パネル局所投影)という手法を用いました。予測には特定の週から104週間後(2年後)までが含まれ、ある週における気温の高さが経済状況に与える影響を調べました。

データを分析したところ、ある週の平均気温が高くなると「最初の6週間ほどは経済状況が緩やかに上昇する」「約10週間後には累積的な経済的影響がマイナスに転じる」「状況が悪化を続けて80〜90週間後に底を打って安定する」という3段階の変化が生じることが判明しました。

研究チームによると、最初に起きる短期的な経済状況の改善は小幅であり、中期的な悪化が主な特徴だったとのこと。ECIはアメリカの長期的な成長率を基準として測定されるため、この結果はある州で暑い日が続くと、その州の経済成長率が1年以上にわたって本来予測される成長軌道を下回ってしまうことを意味しています。

また、同じ1℃の気温上昇がもたらす影響が寒冷な州と温暖な州で異なるかどうかを調べたところ、ショックから1年間はどの州でもおおむね似たような推移をたどりました。しかしそれ以上になると、温暖な州では経済状況の悪化が続いた一方、涼しかったり気温が平均的だったりする州では経済状況がより早く安定し、回復の兆しが見え始めたと報告されています。つまり、温暖なフロリダ州における1℃の週平均気温の上昇は、寒冷なノースダコタ州における同様の気温変化より長期的な経済へのダメージが大きいというわけです。

さらに気温変化が経済状況に与える影響を季節ごとに調査したところ、夏の気温上昇は冬よりも中期的な経済悪化幅がやや大きかったものの、その差はわずかなものでした。この発見は夏の猛暑だけが問題なのではなく、年間を通じて気温上昇が経済に悪影響を及ぼすことを示唆しています。



ECIは労働市場・移動・実体経済活動・経済的な期待・金融・家計という6つのカテゴリーに分解できるため、研究チームは各カテゴリーごとに同様の分析を行いました。すると、労働市場の反応が全体的な経済悪化の様相をほぼ正確に反映しており、中期的な経済悪化の大部分を占めていることがわかりました。

さらに研究チームは、月間の非農業部門雇用者総数、製造業生産労働者における月間平均の週労働時間、そして週間の新規失業保険申請件数という3つの労働指標に着目しました。すると、週平均気温の上昇が起きた当初はほとんど変化が見られませんでしたが、数カ月後から減少に転じ、中期的に低迷が続くことが判明。雇用者総数はわずかな減少が見られた後に安定しましたが、失業保険申請件数は30週間後あたりから着実に増加し続けたとのこと。

週ごとの気温上昇が1年以上も持続するメカニズムについて、研究チームは「気温上昇が労働者の疲労を増し、時間あたりの生産性悪化につながる」「生産性悪化がゆっくりと蓄積して長期的な経済的圧力へと変化する」「勤務スケジュールの変更や冷房設備の導入により、徐々に気温上昇のダメージが相殺される」というモデルを提案しています。これらの要素を組み込んだモデルによるシミュレーションは、実際の状況とほぼ一致する結果を示したと報告されています。

なお、今回の研究で用いられたECIは生産量を直接測定するものではなく複合的な指標である点や、パネル局所投影は因果関係を証明するのではなく相関関係を推定するものである点に注意が必要です。