(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

国土交通省が発表している「不動産価格指数(令和7年公表データ)」によると、東京都の区分所有マンション価格は2010年平均を100とした指数で220を超え、過去約15年で2倍以上に跳ね上がっています。都心部の新築マンション価格が1億円の大台を突破するなか、需要は23区内の周辺エリアや住宅街へと波及し、中古市場全体の大幅な底上げを引き起こしています。本記事では、事例を通して不動産価値の変化と、現代の住宅市場のリアルを考えます。

20年前の身の丈に合った決断

都内の企業に勤めるコウジさん(仮名/49歳)は、現在、パート勤務の妻と高校生の息子の3人で暮らしています。当時の月収は約32万円(賞与別)。贅沢ができるわけではありませんでしたが、家族3人が穏やかに暮らせる生活基盤を整えてきました。

コウジさんが現在住んでいるマンションを購入したのは、いまから約20年前のことです。当時、30歳手前だったコウジさんは家族の将来を見据えて持ち家の購入を検討しはじめました。しかし、人気の山手線沿線やブランド力のあるおしゃれなエリアは、その後の昇格により給与増を見込めるものの、当時のコウジさんの年収では到底手が出ない高嶺の花でした。

そこで物件探しを始めたのが、結婚前に現在の妻と同棲しているときに住んでいたエリア。23区内に位置しながらも都心からはやや距離があり、これといった商業施設もない区でした。駅近であること、近くに寂れながらも商店街があり、食費が安く済むことが一番の魅力でした。

コウジさんは現実的な予算と、子どもが生まれても生活に不自由しない広さを優先。約4,000万円で販売されていた新築のファミリータイプマンションを、頭金を入れ、35年の住宅ローンを組んで購入したのです。当時は毎月の返済に追われながらも、「これで家族の住まいが確保できた」と胸を撫でおろしていました。

築20年、売りに出された隣室の「驚愕の値段」

月日は流れ、購入から約20年が経過しました。建物自体もそれなりに年数が経ち、何度か管理費や修繕積立金の高騰を経験しながらも暮らしてきたコウジさん一家。そんなある日、同じフロアの隣室が空室になり、売り出し物件として不動産サイトに掲載されているのを目にしました。間取りも広さも、コウジさんの部屋とほぼ同じ条件の部屋です。そこに書かれていた販売価格を見たコウジさんは、思わず目を疑いました。

「7,200万円……?」

購入当時、約4,000万円だった部屋と同等の物件に、購入時の約1.8倍に相当する値段がついていたのです。20年近く築年数が経過し、建物としても決して新しくはないはずの部屋が、新築時を遥かに超える高値で売り出されている現実に、激しい衝撃を受けました。  

「このエリアの築20年の物件に7,000万円以上なんて、一体この価格で誰が買うんだ……?」あまりの価格設定に、驚きを通り越して呆然とするばかりでした。

「あのとき買っておいてよかったが…」

現在のコウジさんの月収は49万円(賞与別)です。妻のパート収入を合わせても世帯収入に極端な伸びがあったわけではなく、もしいま、同じマンションを7,200万円超で購入しようとすれば、住宅ローンの審査や毎月の返済に到底耐えられません。

「あのとき、背伸びせずに無理のない範囲で買っておいて本当によかった」コウジさんの胸に込み上げたのは、過去の自分への感謝と安堵の気持ちでした。もしあのときに購入を見送り、賃貸生活を続けていたら、いまの相場のなかでは家を買う機会を完全に失っていたかもしれないと感じたからです。また、これからこの物件を売却して、息子が独立したあとに夫婦でコンパクトな家に住み替えるという選択肢も生まれました。

一方で、これからマイホームを持とうとする息子世代や、現在の高騰に苦しむファミリー層のことを考えると、素直に喜んでばかりもいられない複雑な心境が残ります。

23区不動産高騰の背景と「住まい探し」の現実

今回の事例のように、過去に「人気が薄い」「特徴がない」とされていたエリアの物件であっても価格が倍近くまで跳ね上がっている背景には、以下のような点があります。

都心の不動産価格高騰の影響拡大

都心部や人気エリアのマンション価格が1億円を超えるなど高騰し過ぎた結果、一次取得者層の需要が周辺の「比較的割安だったエリア」へと流れていきました。

その結果、23区全体で底上げが起こり、地味とされていたエリアの地価・中古相場が押し上げられています。建築資材・人件費の高騰による新築の供給抑制新築マンションの建築コストが急増したことで新築の売り出し価格自体が跳ね上がり、買い手が中古市場へと集中したため、築年数が経った中古物件の資産価値が落ちにくくなっています。

実用性重視のニーズ増加

「ブランドエリア」よりも「23区内であり、通勤・生活利便性が担保されていること」を重視する実利的な需要が増えたことで、特徴が少ないとされていた区も使い勝手のよさが再評価されています。

予測不能な不動産市場においては、「資産価値が高まりそうな人気の街」を無理して追うよりも、コウジさんのように「身の丈に合った予算で着実に買える物件を選ぶ」という視点が、結果として長期的な生活防衛につながるケースも少なくありません。ただし、築年数が経過したマンションには、今後の「修繕積立金の値上げ」や「管理体制の維持」といった課題もついて回ります。表面上の価格高騰に過度にとらわれず、将来的な維持コストも見据えながら、生活の基盤となる住まいを守っていく視点が求められています。