「税金使うな、働けよ」「DV夫選んだバカは誰だ」…誹謗中傷に負けず子供2人を育てる母親が生活保護で得た「幸せ」
■モラハラ夫から逃げた
賃金はあまり上がらない一方、物価が異常に高騰する昨今、生活に困窮する人の増加が予想される。日本にはセーフティーネットの「生活保護」があるが、これはどんな制度なのか。どんな人が利用でき、希望者は支給を受けられるのか。また受給後はどんな生活をして、生活保護からどのように卒業して再び社会に戻っていくのか。そうした実態を明確にすることで、不正受給を含む生活保護に対する批判や恐怖を減らし、救われる人や機会を増やしていきたい――。
関西地方に住んでいる水沢彩音さん(仮名・40代)に生い立ちを尋ねると「両親は私が物心ついた頃にはすでに不仲でした」と答えた。
父親は毎日、浴びるように酒を飲んだ。勤労意欲がまるでないため、母親は朝から晩まで働き詰めだったが、小学生の水沢さんに、父親に関する愚痴をくどくどと話した。「あんたができたから籍を入れた」と聞かされた水沢さんは、「生まれてこなければよかった」と自分を責めた。

父親と離婚した母親は、水沢さんと弟とともに暮らすように。水沢さんは高校卒業後、アルバイトを掛け持ちし、月数万円の収入は母親へ渡した。ひとり暮らしをしたかったが、経済力のない母親を放って出ていくことははばかられた。
それでも、いいこともあった。勤務先のバーで大手メーカー勤務している紳士然とした男性客と出会い、29歳の時に結婚したのだ。2人の子供にも恵まれようやく幸せな時間が到来と思いきや、水沢さんがうつ病で苦しむ姿を見て見ぬふりの夫は、家事も育児も全くしなかった。そこで「このままでは私も子供たちは潰れてしまう」と、離婚を決意。「法テラス」の弁護士の助けを得て、夜逃げならぬ昼逃げをする――。
■口が悪く過干渉な祖母
昼逃げに成功し、実家で、母親・祖母・子供2人で暮らし始めてから1カ月ほど経ったある日、4歳の次男が風邪気味で機嫌が悪く、泣いていたところ、「今日は泣き方がしつこいなぁ……」と祖母が一言。
さらに長男が帰ってきて一緒に遊んでいたところ、「次男くん、今日はビービー泣いてアホやったなぁ。全然賢くなかったわ。おばあちゃん、アホな子は嫌い!」と言い放つ。
びっくりした水沢さんは、すぐに次男に「ママは大好きだよ〜」と言って抱きしめた。
「なんだか祖母は2人目の夫みたいでした。生きてきた時代が違うとはいえ、ひ孫に『嫌い』って言っちゃうの? しかも体調不良で泣いてたのに? と腹立たしさを通り越して呆れてしまいました」
水沢さんは実家を出ることを考えていた。
「母には『離婚が成立して落ち着くまでいればいいじゃない』と言ってもらっていました。確かに実家にいれば、子どもたちを見てもらえたり、体調不良のときは本当に助けられています。でも実家には祖母がいるので、私がひとりになる時間はありません。ひとりになるために出かけることが多くなったら、『遅かったわね』『どこ行ってきたの?』と質問攻めにあい、(モラハラがひどかった)夫とかぶって精神的にキツく感じるようになりました」
■生活保護受給が決まるまで
現在水沢さんは、生活保護を受けながら、息子たちと3人でアパートを借りて暮らしている。2025年2月に申請し、3月から受給が始まったが、受給開始までの道のりは平坦ではなかった。
水沢さんが最初に生活保護課(地区の保健福祉センター)へ相談に行ったのは、昼逃げしてすぐのこと。配送会社で働き始めたものの、夫からの婚姻費用が毎月必ず入るかどうかわからないため、どうしても生活費が不足する。
しかし、対応した女性職員は、あしざまに「生活保護なんてそんな簡単に受けられるものじゃないんですよ。お若いですよね? 労働能力がある方は働いてください」と言い放った。
「若くても、見た目にはわからない病気を抱えている人もいますが、この時は、生活状況や私の精神疾患(うつ病)のことなど何も聞かれずに帰らされました。今でもトラウマです。どう頑張ってもダメで、わらにもすがる思いで保護課に相談に行ったのに、門前払い状態で心が折れました。ブログに生活保護申請に関することなどをつづると、『税金を無駄に使うなよ! 働けよ!』とか『DVとか嘘だろ。DVするような男選んだバカは誰だよ』とか、見飽きるほど誹謗中傷の書き込みをされました」
それでも先立つものがなければ子供を食べさせていくことはできない。不足する生活費をクレジットカードのキャッシングで補っていたために、返済額はついに100万円に膨らみ、2度目の申請に出向いた。2023年4月のことだ。
「この時の職員の方は、とても親身になって話を聞いてくれました。でも、『自己破産ってご存じですか?』とたずねられた時、自分が自己破産をするなんて全く考えていなかったので怖くなってしまって、『もっと頑張って働きます!』と断ってしまいました」
■受給額は月4万8000円の家賃を含めて6万円
しかし現実は厳しい。働けど働けど返済額は減らない。水沢さんは毎日お金のことばかり考え、不安になり、うつ病が悪化した。
そして2025年3月頃、話だけでも聞いてもらおうと思い、3度目の保護課へ。今回もダメかもしれないと半ば諦めていた水沢さんだったが、幸い申請でき、受給できることに。
扶養照会があったものの、高齢で祖母を介護する母親に水沢さんを支援する余力はなかった(母親は軽度認知症が始まった祖母の介護をしていた)。また、生活保護受給にあたり、「負債」があってはならないとのことで、結局、自己破産手続きをすることになった。

「正直なところ、2度も断られていたので、正式に決定しても、本当に受給できるか全く確認がもてませんでした。いろんな悩みのほうが大きくて、冷静ではなかったのだと思います」
水沢さんは現在に至るまで、夫との離婚が成立していない。そればかりか、裁判所が決めた婚姻費用(月15万円)の支払いも滞りがちで、受給する保護費は、月4万8000円の家賃を含めておよそ6万円だった。
ただ、水沢さんは、「生活保護が受給されるようになって、婚姻費用に完全に依存せずに生活できるようになったことが精神的に大きい」と話す。
「私のように相手が離婚を拒否している場合、養育費が入らないばかりか、実質母子で生活していても児童扶養手当は入ってきません。夫からの婚姻費用は、2カ月振り込まれなかったこともありました」
■収入月1万円の内職も始めた
生活保護を受給するようになってから水沢さんは配送会社を辞め、シール貼りや箱を組み立てる内職をするようになった。うつ病の悪化により外で働くことがしんどくなってきたのだ。現在、うつ状態、適応障害、パニック障害と診断されており、2週間に一度通院し、服薬を続けている。
「内職の収入は月1万円です。これでは子ども2人を育てていくのは難しい。でも生活保護費があったので、金銭面での不安が減りました。また、医療費の負担もなくなり、助かりました。子どもがいたり、私のように精神疾患があり、定期的に通院している家庭はとても助かります」
水沢さんはいわゆるアダルトチルドレンだ。父親がアルコール依存症で、物心ついた時には両親の喧嘩が絶えず、恐怖に怯(おび)えて暮らしていた。水沢さんは、「自分のようなつらい思いを、自分の子どもにはさせない」と思っていたが、皮肉なことに、無意識のうちに自分が育った家庭とそっくりな家庭を、自らも作り出してしまっていた。
また、祖母から暴言で支配されるかのように育てられた母親も、暴力で家庭を支配しようとするかのような夫(水沢さんの父親)を選んでしまい、その負の連鎖は続いてしまう。水沢さんは見た目だけは紳士のモラハラ男性を夫に選んでしまったのだ。
■「生きるため」に必要な人に届くべき制度
水沢さんは生活保護受給者となってから、Web上だけでなく、現実でも嫌な思いをしたことがあると話す。
例えば、生活保護受給者が自治体(福祉事務所)から発行される「医療券」を病院窓口で出した時に、ひどく嫌そうな対応をされたり、あえて大きな声で「医療券の方ですね」と言われたり。
「やはり『生活保護=底辺』『生活保護受給者は働いていない、税金で生きている、ラクをしている』といったイメージは根強く残っています。私は働いて、生活に足りない分を保護費で補ってもらっています。そういう一部受給のケースもあることを知ってもらえたら、本当に困っている人が『相談しよう』と思うハードルも下がるのではないかと感じます」
昼逃げから3年が経過したが、夫とはまだ正式に離婚できていない。

「2026年中に再度、離婚訴訟を起こす予定です。まもなく別居して5年になるので、離婚成立の可能性が高くなります。夫と離れて暮らし始めて、贅沢はできませんが、毎日楽しく暮らせています。おかげでうつの症状がかなり緩和されました。寛解まではまだまだですが、怯えて暮らす生活から逃れられたことは私にとってとても良いことでした。本当に離れて良かったと思っています。生活保護は、『生きるため』に必要な人に届くべき制度だと感じています」
水沢さんは離婚が成立すれば、児童扶養手当などが出るため、そのタイミングで生活保護からの卒業を考えている。
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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社新書)刊行。
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(ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
