【taka :a(大石敬之)】「夏用カップヌードル実は失敗だらけ…?」それでも日清食品が《冷し》をこのタイミングで投入した理由
意図と狙いはよく理解できる。しかし…
いま、世間を騒がせているカップヌードルの新作がある。1971年(昭和46年)9月18日の発売以来、数えきれないほどのフレーバーを生み出し続けてきた世界初のカップ麺が、あろうことか“熱湯禁止”を提示してきたのだ。今年で発売55周年を迎える大御所だが、冷水専用の商品は前例がない。
その歴史的な瞬間に立ち会おうとSNSを中心に話題を呼び、大手のニュースサイトでも積極的に取り上げられている。しかも、絶賛の声が多いのだ。SNSに投稿されている一般ユーザーからの感想に、もちろん嘘はないだろう。
しかし、Yahoo!ニュースなどに掲載されるほどの大手ニュースサイトまで、こぞって手放しに高く評価している状況に、筆者は一抹の疑問と不安を抱いた。
夏場に温かいカップ麺の需要が落ち込む“夏枯れ”に対し、汁なしや激辛系の商品が増える傾向があるカップ麺市場。つまり、この時期はカップラーメンの売上が目に見えて落ちるのだ。この長年の課題に対し、日清食品の“熱湯から脱却した新しい市場を創出したい”という意図と狙いはよく理解できる。
無論、メディアや書き手の感想を疑っているわけではない。ただ、一人の専門家として客観的に試食した限り、この商品には手放しでは称賛できない明らかな改善点が存在していた。
今回の冷水専用「冷しカップヌードル ピリ辛キムチ味」及び「同 鶏塩レモン味」は、前述のようにブランド初となる“熱湯禁止”が最大の特徴だ。もうすこし踏み込んで解説すると、冷蔵庫で冷やした冷水(5℃〜10℃)を推奨している。
“新しい食べ方”を模索し続けたカップヌードル
実は14年以上前、2012年(平成24年)5月10日に「カップヌードル」の新しい食べ方として「夏はiCEで! カップヌードルライト」を提案していた日清食品。おすすめの2品として「カップヌードルライト」と「チリトマトヌードルライト」を推奨し、まずは麺がギリギリつかるまで熱湯(180ml)を入れ、30秒後に一度かき混ぜ、合計3分後に氷(180g)を入れて冷やす、当時としては画期的なアイディアだった。
さらに翌年も「夏はiCEカップヌードル」と題し、今度は「シーフードヌードルライト」と「カレーライト」もラインナップに加え、通常の氷ではなく牛乳を凍らせた“ミルク氷”で作る裏技「iCEミルクカップヌードル」まで提唱するなど、その頃から日清食品は「カップヌードル」を冷やす行為に前向きだった。
そして、2014年の七夕には、同ブランド史上初となるノンフライそうめんを搭載した「カップヌードルライトそうめん」を市場に投下。熱湯を注いで食べる「HOT調理」と、iCEカップヌードルと同様に氷を入れて食べる「ICE調理」を提示し、2015年にはライトシリーズよりも機能性を強化した「カップヌードルライトプラス 旨だしそうめん」を展開した。
2016年には「旨だしそうめん」の再販にあわせて「トマトそうめん」を、2017年には再びライトシリーズに戻り「鯛だし柚子風味」を発売しているが、それを最後に“カップヌードルそうめん”の新作がリリースされることはなく、氷で冷やす「iCEカップヌードル」のキャンペーンが目立つこともなかった。そうめんの廃止については、おそらく「カップヌードルライト」の販売終了が原因だろう。同シリーズの市場在庫は、2019年に消滅している。
終売理由については筆者の推測になるが、すっきりとしたスープの飲み口と通常品比8割の麺重量を特徴とする「あっさりおいしいカップヌードル」の定番化、ライトよりも機能性に特化した減塩版「ソルトオフ」の展開、レタス約4個分の食物繊維を練り込んだノンフライ麺を使用した「ナイス」シリーズの強化版「コッテリーナイス」の発売など、2018年から2019年にかけてシリーズの急激な細分化と多角化が重なった時期がある。
なぜこのタイミングで「冷し提案」を?
つまり、その期間は「冷し」に回すリソースが残されていなかったと見るのが自然だ。
ちなみに「ソルトオフ」と「コッテリーナイス」については、2021年(令和3年)4月5日に登場した「カップヌードルPRO 高たんぱく&低糖質」(現「カップヌードルPRO 高たんぱく&低糖質さらに塩分控えめ」)と入れ替わる形で終売し、その翌年には「完全メシ」シリーズを発表している。
これらの背景から推し量るに、当時の日清食品は市場規模が拡大していた健康志向・ライト層の獲得を優先、つまりターゲットの拡大を最優先経営課題としていた可能性が高い。それらの文脈を繋げると、季節限定の「冷し提案」はプライオリティを下げざるを得なかったのだと推察できる。
さて、話を「冷しカップヌードル」に戻そう。
本商品の開発期間は“丸5年”と公式が発表しているため、前述の「カップヌードルPRO」が発売されたタイミングから、水面下で「冷し」復活のプロジェクトが進んでいたことになる。つまり、単なる一発ネタの企画に5年もの開発リソースを投じるとは考えにくい。
猛暑化が進む日本の環境変化に加え、ローリングストックをはじめとする防災意識の高まりやBCP(事業継続計画)の観点からも、熱湯なしで食せる即席麺の領域を将来の収益柱として見据えていると解釈するのが自然だ。
【後編記事】『話題の冷しカップヌードルにカップ麺研究家「冷水5分では不完全」とバッサリ…麺と具材の戻り具合に懸念アリ?』
【つづきを読む】話題の冷しカップヌードルにカップ麺研究家「冷水5分では不完全」とバッサリ…麺と具材の戻り具合に懸念アリ?
