日本代表は“W杯優勝”という道筋につながる戦略も、戦術も欠いていた。目標にするのは悪ではないが…【識者コラム】
そのチームとチームの戦闘は、戦場で軍と軍が対決するのに近く、軍事用語が多く用いられるのは特性が似ているからだろう。たとえばリトリートは単純に後退のように訳されるが、本来は撤退戦で、うまく相手をいなしながら陣を下げる軍事行動を指している。
戦略は「将軍の仕事で、戦闘の使用の仕方」、戦術は「戦場における戦闘力の使用法」とされるが、サッカーに落とし込んで言えば、前者は監督が描く全体のデザイン、後者はチームでデザインを実践する術となるか。それでもわかりにくいようなら、前者がどんなサッカーをするか、後者がどんな作戦で勝つか、としよう。
戦略を立て、戦術を決めるのが筋だが、この順序は極めて大事で、これを軽視するような組織は失敗し続ける。なぜなら、戦略と戦術を混同しているようでは、何が悪いかもわからない。組織が道筋を作れていないと、失敗から教訓を抽出することもできずに損耗し、弱体化する。どこにもたどり着けず、やがてほとんど確実に惨めな結末を迎えるのだ。
リーダーはデザインを決めたら、それを戦いのなかにプレーを適応させ、作戦を実行させる。その繰り返しのなか、失敗から教訓を抽出し、改善、修正するべきだが、それのみに囚われてもならない。出した答えを絶対化せず、失敗のなかに大きな成功があるダイナミズムも捨てず、仮説検証を続け、思考を革新させ続ける。演繹的ではなく、帰納的な考え方だ。
翻って、森保一監督が「W杯優勝」と大風呂敷を広げたのが目標設定だとして、その戦略はまったく不十分だった。優勝という道筋につながる戦略も、戦術も欠いていた。最後は必死に守って逃げ切るというのがせいぜい。たとえブラジルに運よく同点延長PKで勝っても、彼我の戦力を無視し、劣勢の戦いを運に任せた姿勢で、それは戦略的失敗を意味した。
優勝を目標にするのは悪ではない。しかし現実を度外視して、それを強行し、ラウンド32で敗れた。戦略に欠け、戦術も乏しかった証左だ。
戦略、戦術に揺らぎがある組織は、次も必ず敗れる。
文●小宮良之
【著者プロフィール】こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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