【飲食店の現場】時給1500円でも次々と辞めていく…ミャンマー人材に逃げられる地方の雇用崩壊

飲食店の中でも特に地方は人材不足が深刻。写真はイメージ(写真:mapo_japan/Shutterstock.com)
働き手がどこにもいない--。地方の中小企業では「人手不足が深刻」という言葉では足りないレベルにまで事態が深刻化している。ハローワークに求人を出しても応募がない。やっと来たとしても、店として本当に必要な戦力にはなりにくい。そうした状況の中で、多くの経営者が最後の頼みの綱として選ぶのが東南アジアからの人材だ。
しかし、その挑戦は必ずしも成功ばかりではない。今年初めて外国人マンパワーとしてミャンマー人材を採用した関東近郊のある大型飲食店(約150席)では、わずか数か月のうちに次々と離職者が出る事態に直面した。今回、東南アジア人材の紹介・派遣事業を手がけるグローバル人材(海外労働者)雇用サポート企業の幹部と飲食店主に現場で何が起きていたのか、そこから見えてきた解決の糸口について話を聞いた。
食器洗い機に残飯まで放り込む…日本人の高齢者採用で起きた現実
「この県の中小企業さんは、本当に人手が足りていません」
60代のグローバル人材雇用サポート企業の幹部は深刻な表情でこう切り出した。地方都市では若い働き手の確保は年々難しくなっている。ハローワークを通じて求人を出しても、実際に面接にやってくるのは70代、80代といった高齢者が中心だという。
もちろん、年齢そのものが採用の障害になるわけではない。しかし、飲食店の厨房や接客の仕事は、覚えることが多く、体力的な負担も伴う。新しいオペレーションを一から覚えてもらうには相応の時間がかかり、教える側の店にとっても負担は小さくない。
開業60年を迎えた飲食店主がこう明かす。
「やっと応募があった70代の女性を洗い場に配置したところ、お椀やお皿を残飯と一緒に食器洗い機に放り込んでしまい、機械が壊れそうになったことがあります。まずは食べ残しを捨ててから食器類を食器洗い機に入れるのは常識以前の問題でしょう。注意したところその女性はすぐに辞めてしまいました」
希少な応募者を大切にしようという気持ちはあるが、実際に店の戦力として長く働いてくれる人材にはなかなか出会えない。都市部への人口流出が進む地方において多くの地域が直面している構造的な課題の一例だといえる。
「田舎過ぎる」…ミャンマー人が辞めた意外な理由
こうした状況の中、飲食店主が踏み切ったのがミャンマー人材の採用だった。
厨房と配膳を任せるため、20代のミャンマー人女性3人を相次いで採用した。日本人だけでの人員確保が困難だった以上、外国人材への期待は大きかった。雇用サポート企業に支払う紹介料は1人当たり5万円で別途1人当たり月々2万5000円の紹介報酬を支払った。しかも時給はかなり高い。
「私の店の日本人従業員は時給1100円です。でも、ミャンマー人材には雇用サポート企業の指定で時給1500円を払っていました」
しかし、結果は厳しいものだった。
3人のミャンマー人材は6カ月、2カ月、そしてわずか1カ月で退職し店を去っていった。せっかく派遣会社を探し研修や受け入れ準備にコストと時間をかけたにもかかわらず、店の戦力として育つ前に離職されてしまうのは、経営者にとって大きな痛手である。
離職の理由として飲食店主が挙げたのは大きく2つ。
ひとつは「田舎すぎる」という声だ。都市部での生活に憧れを持つミャンマー人材にとって、地方の生活環境とのギャップは想像以上に大きく、娯楽施設の少なさや同郷の仲間がいない孤立感も定着を妨げる要因になっていた。
3人のうち2人は外国人技能実習制度で来日して3年以上がたっており、日本の人手不足事情に熟知していたという。
「仕事に不満を持つようになると二言目には『労働基準監督署に相談に行く』というので、売り言葉に買い言葉で『入管に行ってビザをおろすなと言ってもいいのかな』と返すと動揺する、ということの繰り返しで本当に疲れてしまいました」
もうひとつは、恋人が別の県にいるという事情だ。遠距離が負担となり、より近い勤務地を求めて離れていくケースは多いという。飲食店主がこうこぼす。
「外国人が低時給で職を奪う」は現実と異なる
「ミャンマーの女性たちは休暇が取れると新幹線に乗って東京へ向かい同郷の友人や恋人らとカラオケ店で盛り上がって帰って来る。やはり都会の生活の方が楽しいのでしょう。東南アジアの人たちは同郷の家族、親戚、友人と一緒にごっそり日本に来ることが多いので日本に来ても人間関係が濃密なのです。こうした生活面や人間関係に起因する離職は、給与や労働条件の見直しだけでは解決できない根の深い問題ですよ」
ミャンマー人材3人が相次いで辞めてしまったことで、飲食店主は「もう二度と外国人材は採用したくない」という心境に至ったという。
人手不足を解消するための採用が、かえって採用・研修コストの負担を増やし、現場を混乱させる結果になってしまったからだ。せっかく仕事を覚え始めた矢先に辞められてしまえば、その都度また一から人材を探し、仕事を覚えてもらうしかない。
しかし、皮肉なことに、日本人の人材もまったく見つからない状況は変わらない。「外国人材の雇用がこんなに難しいとは思っていませんでした」(飲食店主)とこぼしても、代わりとなる日本人の担い手がどこにもいない。
やむを得ず、高齢期にさしかかった妻ら家族の力を借りるしかない。地方都市が直面している構造的なジレンマだ。人手不足を解消する手段として外国人材に頼らざるを得ない一方で、その受け入れ自体がうまくいかないという、出口の見えない悪循環に多くの経営者が陥っている。
今回の取材で浮かび上がったのは次の事実だ。
「安い賃金で働く外国人労働者が、日本人の職を奪っている」という世間でよく語られるこの言説について、当の飲食店主は「実際はまったく逆です」と語気を強めた。前述したとおりこの飲食店の日本人従業員は時給1100円。しかし、ミャンマー人材には時給1500円を払っていた。なぜそこまで差をつけるのか。
「そうでなければ、私の店で働いてくれないからです」
職場内の人間関係も外国人材が定着しない理由
日本人の応募がほとんど来ない中、ようやく巡り合えた若い人材をつなぎとめるためには、相場を大きく上回る時給を提示せざるを得なかったのだ。
しかも、この事実は日本人従業員には伏せられている。「不満が出るから内緒にしていますけどね」と店主は苦笑いする。既存スタッフとの間に不公平感や軋轢が生まれることを恐れてのことだろう。
だが、それだけの好待遇を用意しても、結果的にミャンマー人材は長く定着しなかった。
離職の背景には、賃金や生活面だけでなく、職場内の人間関係の問題もあるという。店の古株従業員の中には、そもそも外国人と一緒に働くこと自体に抵抗感を持つ者がいた。
ある時、店長がミャンマー人材に「仕事場でボーとしているのなら家に帰れよ」と注意したところ、連日その時間になると判で押したように帰宅してしまうという予期せぬ事態が発生。気が付くと経営側とミャンマー人材の間に埋めがたい心の溝が生じていた。店主自身、この出来事が彼女たちの離職を決定づけた直接的な原因のひとつだったと認めている。
賃金面で最大限の譲歩をしても、職場の人間関係が整っていなければ、外国人材は定着しない…。この店主の告白は、「田舎だから」「恋人が遠方にいるから」という表面的な理由の奥に、もっと根深い課題が横たわっていることを物語っている。
それは、外国人材を受け入れる「店」の側、とりわけ既存の日本人スタッフの意識や受け入れ態勢がまったく整っていないという現実だ。どれだけ高い時給を払い、どれだけ派遣会社に高い手数料を支払っても、迎え入れる現場の土壌ができていなければ努力は水の泡になってしまう。
<後編につづく>
現地に「本物のホテル」を建てて研修、外国人材の早期離職を防いだ驚きの逆転発想
鄭 孝俊(てい・こうしゅん)
早大政経学部卒。東大大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。産経新聞社会部記者、サンケイスポーツ新聞文化部デスク、編集委員などをへてフリージャーナリスト。日韓メディア比較論のほか教育、食文化、農業、観光、ビジネスなどをテーマにアジア各国を巡りながら各媒体に寄稿。
筆者:鄭 孝俊
