【エビス セイキ】値上げしたらSNSで叩かれた!? ラーメンの価格高騰が止まらない裏事情をビブグルマン選出店シェフが暴露

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1000円の壁が最近では「2000円の壁」と言われつつあるラーメンの価格。値上げ批判を受けるシェフが抱える苦悩とは。

ラーメン業界がSNSで叩かれやすいワケ

『Ramen Break Beats』がオープンしたのが2024年。イタリアン、フレンチ出身の柳瀬さんが作るラーメンは瞬く間に評判を集め、行列のできる人気店へと成長した。その裏ではネット上に価格や行列の待ちに対する不満が散見された。そして2年前、あるGoogleマップの口コミ「肝心の味ですが値段や待ち時間を考えると?」に対して、柳瀬さん自ら返信をしたことが炎上の始まりだった。

「その時のことはあまり覚えていないのですが、おそらく『味に対して値段が見合っていない』というやり取りだったと思います。これって弊社に限らず、他店でもよくあることなんですが、お客様の満足度の問題なので」と柳瀬さんは述懐する。

「うちは予約制なので、予約して来店したにもかかわらず、8席しかない中で前のお客様がゆっくり食べていると外で待たせてしまう。そうすると『予約したのになんで待たなきゃいけないんだ、しかも雨じゃないか』となると、マイナスポイントが重なって気分が悪くなってしまう。美味しいものも美味しくなくなってしまう。結局書いている人の感情的なコメントが大半なんですよね」

SNSでのやりとりを見ていた周囲の友人から「自分の店の価値を下げるからコメントバックはやめた方がいい」と止められ、結果的に返信をやめた。そしてまたSNSでの価格への不満を久々に感じたのが、グループの最新店『Tsukemen Back to Back』を2026年6月にオープンしたときのことだ。

「ありがたいことにオープン日から行列ができ、全店舗合わせても過去最高レベルの売り上げを記録しました。一方でそれだけのお客様が来るということは、うちの価格に慣れてない人も多い。念のためSNSをチェックしてみると、やはり口コミで高く感じている人がコメントしていました。でも半年くらい経つとそういう人はいなくなります。 お客様の層が変わるんですね」

これもお店のブランディングのひとつなのか、開店してからしばらくすると自然とターゲット層が定まってくるそう。最近ではネガティヴな口コミの数が減っているのがその証拠だ。

『BreakBeats』は、デフォルトのラーメンが一杯1600円。特上になると2000円を超える。普段一杯1000円前後で食べている人からすると高く感じる人もいるだろう。しかし、その内訳にはさまざまな費用が含まれている。

「特上の2250円には消費税、テーブルチェックの決済手数料500円がのっています。また、完全キャッシュレスなので決済手数料もかかる。弊社は今4店舗展開していて、予定納税や消費税など、先月だけで税金関連で1000万円ほど払っているんです。利益が出た分に関しては、従業員に還元しています。雇用登録をして、社会保険を適用する。福利厚生も整えています」

ラーメン店の倒産が増加している背景

もちろん、歯止めがきかない原材料の高騰にも頭を悩ませている。最近では大手製粉メーカーのニップンが、家庭用冷凍食品の出荷価格を最大15%値上げすると発表したばかり。激震が走った。

「ラーメンは、食材や調味料の価格高騰による影響をもろに受けやすいです。お肉に小麦、醤油、油。良い食材を使えば原価が上がります。ラーメンは100円、200円を気にする人が食べる料理ですから、お客さんからの圧を受けやすい。寿司などの高級なお店があるジャンルでは数千円上がっても気にされないんですけどね」

実際、具材のサイズや質を変える“ステルス値上げ”を検討したことがあるという。それでも踏みとどまった。

「価格はそのままでチャーシューを小さくしたり味玉を半分にすると、ファンを裏切ることになるので絶対やってはいけない。そもそもうちが2000円以上の価格帯でやっていても、原価率は30%くらい。決して原価が安いものを高く売って儲けようとしているわけではないんです」

さらに、この10年で最大規模といわれるラーメン店の倒産件数の増加にも危機感を募らせる。

「各店主がお客さんの圧力に耐え切れなくなって値上げしないとなると、どんどんラーメン屋さんがなくなってしまいます。その時その瞬間の不満だけでSNSに書いてしまうと、気づかないうちにラーメン屋を潰してしまう構造になっていきます。そうならないためにも言い過ぎないで、と思います(笑)」

柳瀬さんがお客さんに対して厳しい言い方になるのも理由がある。素材にこだわるのはおいしいラーメンを提供するのはもちろんのこと、付き合いのある生産者へのリスペクトがあるからだ。

「私の出身地、九州の地鶏を使っていますが、結構値上がりしています。だからといって安いところに切り替えると、その生産者さんがやっていけなくなる可能性がある。 醤油もそう。そんな中でも価格を下げてくれてるんです。私は生産者へのリスペクトがかなりあるので、使命と言うと大げさかもしれませんが、残していかなきゃいけないから変えないです」

海外から見た日本のラーメンの価値

生産者との関係性は、ラーメン界のレジェンド・『支那そば屋』佐野実さんの時代から続いているという。

「それはすべて、佐野さんから始まってます。神奈川・藤沢から、日本にはこれだけいい食材や調味料があるんだよ、と一杯のラーメンを通して伝えていた功績は大きいですよね。その思いは私たちも受け継いでいかないといけません」

佐野さんがかつて洋食のシェフだったように、柳瀬さんも料理人としての入口はイタリアンやフレンチだ。レストランで研鑽を積み、海外に出向いて世界中の料理を食べてきた。それ故、世界規模でラーメンを捉えたときに日本人と外国人の目線の違いを如実に感じるという。

物価や円安がどうこうではなく、世界的にみて日本のラーメンは安すぎます。ましてや日本はチップ文化もない。だから外国人は『安すぎる』と思って高額のメニューを選ぶんです。反対に日本人ではじめて来店する人はデフォルトを注文するんです。そのジレンマ、矛盾が起きています」

柳瀬さんは日本人に高いと思われるよりも、インバウンドのお客さんから安く見られないことでラーメンの商品価値が上がるように意識して値付けしているという。

「日本人は『技術料』を価格に乗せない傾向があり、原価だけで価格を決めてしまう。例えば画家やアーティストは、絵の具と筆とキャンバスを1000円で買って、技術があれば100万円、1000万円で作品が売れますよね。海外では画家と同じように、料理人がアーティストとして評価されています。日本では料理人に対する評価が、他の国に比べて低すぎます」

その考え方は、最新店『Tsukemen Back to Back』のつけ麺で見せるこだわりにもつながっている。

「麺は北海道産の国産小麦を3種類ブレンドしたオリジナルを開発して、昆布水に使う昆布は北海道大学が研究した『北大型ガゴメ昆布』を使っています。粘り成分のフコイダンが普通の昆布より多くて少量で粘りが出て旨味も出る。でも、当然仕入れ値は高い。そして、器もすべて作家さんの手作りです。醤油つけ麺が1280円。特上で2200円。これでも『高い』と言われます。目に見えないこだわりを『いらない』と言われたらそれまでですが、料理もアートだという捉え方をすれば、こだわった方がいいと考えています」

日本発祥のラーメン文化を持続可能にするために

「ラーメンはやはり大衆食から始まっているからこそ、そのイメージが強いです。ミシュラン一つ星を獲得している『銀座 八五』の松村さんは、ホテルのレストランで料理長を務めていた方で、タレを使わないラーメンという革新的なことをやってのけてる。スープの取り方も全然違いますし、洗練した佇まいの店内で食べられるのに『中華そば』が一杯1200円。それが基準になると、みんなが首を絞め合って悪循環になってしまう。もっと上げてほしいと願っています」

他店を例に挙げるほど価格に思いを馳せるのは、国内で営業しているすべてのラーメン店店主への思いがあるからだ。

「ラーメン作りって本当に大変なんです。スープを取るにしても、うちは地鶏の出汁を6時間以上、IHで低温でじっくり炊くから電気代もガス代もかかる。ガラを大量に使うから多量のゴミが出る。自宅でできない、時間をかけて作る料理だからこそ、もう少し価格を上げないといけません。安いラーメンも必要ですが、ラーメン職人・シェフが恵まれないといけないと私は思ってます」

価格に伴う素材をはじめ、この一杯に込められた思いをお客さんにできる限り伝えたい。BreakBeatsの店内にはこだわりの張り紙が貼られていて、限定メニューの場合は直接説明することもあるという。それも、自分より下の世代が育ってほしい、ラーメンの文化を継続させたいという熱い思いが根底にあるからだ。

「ラーメン店主で腰を痛めている人が多い。ハードワークなんです。その苦労をわかってくれとは言わないまでも、せめてラーメン職人へのリスペクトというか、地位をもっと上げたい。蕎麦、フレンチ、イタリアンと肩を並べる『麺料理』としてのカテゴリーを確立したいと思っています」

日本が世界へ誇るラーメン文化を残していくためにも、お客側としていろいろ理解を深めていかないといけない時代になっているのかもしれない。

【後編記事】『イタリアンやフレンチから転身を果たしたラーメンシェフ・柳瀬拓郎さんが語る、海外のラーメン事情から見えた日本ラーメンの行方は?』

【つづきを読む】イタリアンやフレンチから転身を果たしたラーメンシェフ・柳瀬拓郎さんが語る、海外のラーメン事情から見えた日本ラーメンの行方は?