米・航空会社のミスで露呈した「AI値上げ」の真実。AIが”高くても買う人”を勝手に選んでいた
発端は、ある利用客のX(旧Twitter)への投稿です。「JetBlueは大好きだけど、チケットが1日で230ドル(約3.5万円)も値上がりするのはおかしい。葬式に行こうとしているだけなのに」
これに対してJetBlueの公式アカウントは、こう返信しました。「キャッシュとCookieを削除するか、シークレットウィンドウで予約してみてください。お悔やみ申し上げます」
◆■航空会社の“うっかり返信”が全米を炎上させた
返信はすぐに削除されましたが、スクリーンショットは拡散し、わずか4日後には「閲覧データで価格を吊り上げていたのではないか」として集団訴訟に発展。JetBlue側は「個人情報や閲覧履歴で価格は決めていない。返信は一人の担当者のミスだった」と全面否定していますが、騒動は収まっていません。
こうした手法はアメリカで「サーベイランス・プライシング(監視価格)」と呼ばれます。AIが「この人はいくらまでなら払うか」を計算し、その人専用の値札を作る仕組みです。
疑惑は一社にとどまりません。2025年末には、食料品の配達アプリ大手Instacart(インスタカート)をめぐる調査結果が公表されました。同じ店の同じお菓子を、同じ時刻にアプリでカートに入れる。それだけで、あなたと隣人のスマホには最大23%違う値段が表示されることがある──400人以上のボランティアが参加した実験で、そんな実態が明らかになったのです。舞台のひとつは、ぼくの住むシアトルのSafeway(大手スーパー)でした。Instacartは批判を受け、この価格実験の終了を発表しています。
そう、今アメリカで起き始めているのは、AIがデータをもとに、一人ひとりに違う価格を提示する時代なのです。
◆■「1人ひとりの値付け」は企業の長年の夢
そもそも、なぜ企業は「人によって違う値段」をつけたいのか?答えはシンプルで、同じ商品でも「払ってもいい金額」は人によって違うからです。
あなたが「1万円までなら出す」と思っていた商品を8千円で買えたら、2千円得した気分になりますよね。企業から見れば、その2千円は「本当は取れたはずのお金」です。一人ひとりに、その人専用の値段を付けられれば利益は最大になる。これは企業にとって100年来の見果てぬ夢でした。
実は、人によって価格を変える工夫は昔からあります。学割やシニア割は「学生や高齢者は払える額が少ない」という属性で割り引く仕組みです。航空券が出発日に近づくほど高くなるのも同じで、「直前に買う人は急いでいて、高くても払う」ことを見越した値付けです。葬式で急に飛行機が必要になった人が高い運賃に直面しやすいのは、まずこの昔ながらの仕組みのせいです。
ただし、こうした仕組みはどれも「同じ条件の人には、同じ価格」というルールで動いていました。直前に買えば誰でも一律に高いし、学生なら誰でも同じ割引です。企業には、あなたという個人が「いくらまでなら払うか」を知る方法がなかったからです。
その限界を壊したのがAIとデータです。閲覧履歴、検索の回数、住んでいるエリア、過去の買い物。米議会の調査では、企業がこうしたデータから消費者の「感情状態、購買意図、支払い可能な上限額」まで割り出しうると指摘されました。要するに「急いでいる」「迷っている」「最後は結局買う」といった心の中まで、です。
