「貯金すれば大丈夫」「投資すれば安心」は誤解…毎月赤字の40代夫婦に、FPが見たお金の不安の”正体”

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世帯年収1000万円超、持ち家あり、ボーナスは年200万円――数字だけ見れば「余裕があるはず」の隆史さんご夫婦(仮名)。しかし、その家計には、住宅ローン・偏った資産運用・ボーナス依存という「3つの時限爆弾」が潜んでおり、毎月の支出が手取り月収47万円を大きく超えていた。

詳しくは前編記事で→「年収1000万円なら安心」は幻想…毎月赤字の40代夫婦の家計に潜む「3つの時限爆弾」

ただ、ファイナンシャルプランナーとして累計2000世帯以上のコンサルティングに携わった中村氏がより気になったのは、ご夫婦の不安が、そうした個別の問題とは別の、もっと根本的なところから来ているように見えたことだという。

真面目に貯金し、投資も始めている。それでも不安が消えないのはなぜか。中村氏が語る、その理由とは――。

※本事例の内容や住宅ローン金利などは、すべて2022年当時のものです。

お金を「手段」から考えると空回りする

相談を進めていくと、隆史さんご夫婦の口から出てくるのは「住宅ローンの金利が心配」「老後資金をどのように貯めたらよいか」という"手段の話"でした。

しかし、私がまず聞いたのは、もっと手前のことです。

「お子さんにはどんな教育を受けてほしいですか?」

「どんなことにお金を使いたいですか?」

「老後はご夫婦でどんな時間を過ごしたいですか?」

ご夫婦は少し戸惑った表情をされました。日々の家計を回すのに精一杯で、「そもそもどんな人生を送りたいか」を2人で話し合ったことがなかったのです。実は、これこそが不安の正体だと私は考えています。

相談現場では、隆史さんご夫婦のように「一生懸命やっているのに不安が消えない」という方をたくさん見てきました。その多くに共通しているのが、お金の「手段」から先に考えてしまっていることです。

たとえば、こんな声をよく耳にします。

「とりあえず貯金はしている。でも足りているかわからない」

「お金の勉強はした。でも自分に合う選択がわからない」

「投資は始めた。でも不安は消えない」

どれも真剣にお金と向き合っているからこそ出てくる言葉です。しかし、その真面目さが空回りしてしまうのには共通する理由があります。私はこれを「3つの誤解」と呼んでいます。

不安が消えない「3つの誤解」

誤解(1) とりあえず貯金していれば大丈夫

隆史さんご夫婦も堅実に貯蓄はしていました。しかし、「何のためのお金なのか」が整理されていなかったため、「これで足りるのか」という不安はいつまでも消えませんでした。

本来、お金にはそれぞれ役割があります。生活防衛資金、教育資金、住宅ローン返済用、老後資金。目的が整理されていないと、「もっと貯めなければ」と終わりのない不安に変わります。

逆に、目的ごとに整理できると、「これは使っていいお金」「これは将来のためのお金」と判断しやすくなり、不思議なほど気持ちが楽になるのです。

誤解(2) 投資をすれば安心できる

ここ数年、新NISAの影響もあり、「投資をしなければ置いていかれる」という空気を感じることがあります。実際の相談でも、「周りが始めているから」「老後2000万円問題が不安だから」「とりあえず積立だけでも」という理由で投資を始める人は少なくありません。

もちろん、長期の資産形成において投資は有効な手段です。しかし、「何のために増やすのか」が曖昧なままでは、相場が下がるたびに不安になります。

教育費のためなのか、老後のためなのか、働き方の選択肢を増やすためなのか。ゴールが決まっていない状態では、どれだけ運用していても安心感にはつながりません。

誤解(3) お金の知識があれば不安は消える

金融知識はもちろん大切です。NISAやiDeCoの仕組みを理解することも、保険の内容を把握することも重要でしょう。しかし、知識だけでは不安は消えません。

「おすすめの商品は何ですか?」と聞かれることはよくありますが、私はすぐには答えません。最適な商品は、その人の人生設計によってまったく変わるからです。

子どもを持たないDINKs世帯と教育費を重視するファミリー世帯、地方移住を考える夫婦と都心に住み続けたい夫婦では、同じ年収でも必要な備えが根本的に異なります。投資も保険も、「人生を実現するための手段」に過ぎないのです。

「どんな人生を送りたいか」から考える

3つの誤解に共通しているのは、「人生設計」より先に、お金の手段から考えてしまっていることです。

本来の順番は、「どんな人生を送りたいか」→「そのために必要なお金はいくらか」→「その手段として何を選ぶか」。

この順番が逆になると、手段ばかりが増えて、不安だけが残ります。

隆史さんご夫婦の場合、「子どもを2人とも大学に行かせたい」「60代になったら夫婦の時間を大切にしたい」。そうした"生き方の軸"が言葉になったことで、打つべき手が具体的に見えてきました。

住宅ローンは、教育費ピークの10年間に金利変動リスクを封じるために10年固定(1.3%)へ借り換え。月の返済額は約5000円減り、団信の見直しで保険料も削減できました。

家計は、通信費・光熱費・固定費を見直し、隆史さんのお小遣いも本人の納得のうえ月2万円減額。下のお子さんが高校生になったタイミングで直子さんがフルタイムに移行すれば年収は300万円程度への増加が見込め、教育費ピークに向けた収支改善の見通しが立ちました。

企業型DCは元本確保型中心のポートフォリオから、先進国株式・国内株式を組み入れた長期成長型へ見直し。不要な保険を整理しつつ、就業不能保障など本当に必要な保障は確保しました。

すべての対策は、「2人の子どもを大学に行かせながら、夫婦の老後も諦めない」という人生設計から逆算して決めたものです。

提案を実行してから数か月後、ご夫婦の不安は目に見えて和らいでいきました。「教育費で家計が破綻するのでは」「老後資金が足りなくなるのでは」という漠然とした恐怖が、「いつ、何をすればいいか」という具体的な行動計画に変わったからです。

子どもの進路についても、「子どもの選択肢を狭めずに済んだことが、親として何よりも嬉しいです」とご夫婦は話していました。

今日からできる「人生設計」の第一歩

では、何から始めればいいのでしょうか。難しい資産運用の知識は、後回しで構いません。まずは、次の3つを書き出してみてください。

(1) 起こりそうなライフイベント

結婚、出産、住宅購入、転職、独立など。

(2) どんな生活を送りたいか

どこに住み、誰と暮らし、どんな働き方をしていたいか。

(3) 人生で大切にしたい優先順位

教育、住まい、趣味、働き方、家族時間……何を重視したいのか。

すると、「何となく不安」が少しずつ輪郭を持ち始めます。

お金の問題は、人生設計から切り離して考えることはできません。逆に言えば「どんな人生を送りたいか」が見えれば、必要なお金も取るべき行動も見えてきます。

ライフプランというと、「我慢」「節約」「制約」をイメージする方も多いかもしれません。しかし実際は逆で、"何にお金を使っていいかが分かる"ようになることで、漠然とした不安から解放され、「今を楽しめる」状態につながるのです。

隆史さんご夫婦も、「教育か老後か、どちらかを諦めるしかない」と思っていたところから、両立できる道筋を見つけることができました。

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